自動運転時代の自賠責保険のありかた…国土交通省 自動車局 佐藤典仁[インタビュー]

自動車 社会 行政
国土交通省 自動車局 保障制度参事官室 企画調整官 佐藤典仁氏
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自賠責保険は、言うまでもなく、人間が車を運転することを前提として考えらえた制度である。今後、自動運転が普及していくなかで、自賠責保険という制度はどうあるべきか。国土交通省 自動車局 保障制度参事官室の佐藤典仁氏に聞いた。



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被害者救済のために


---:自賠責保険というと、車検の要件になっていて、強制的に入る保険というイメージがあります。

佐藤氏:そうですね。自賠責保険は強制という形で加入しますが、それは、万が一の時に被害者を迅速に救済するために作られた保険制度だからです。

簡単に説明しますと、自動車損害賠償保障法では、車の所有者等(運行供用者)が自動車の運行によって他人の生命・身体を害したときには、事実上の無過失責任を負うこととなっており、全ての自動車所有者が自賠責保険に加入することによって、被害者にもれなく迅速に保険金を支払うことができる、という仕組みです。

現在のところ、ほとんどの自動車事故はドライバーのミスに起因していると言われていますが、それが自動運転になるにしたがって、人による運転からシステムによる運転に変わる。そういった状況下でも運行供用者が引き続き第一義的な責任を負うという立て付けでいいのか、ということを検討してきました。

人が運転しない場合の保険とは


---:人間は運転しなくなるので、自動運転時代は新しいルールを考えなきゃいけないということですか。

佐藤氏:そうですね。ドライバーが運転に関与しなくなるので無過失、というケースが増えていくはずです。他方で車に欠陥があるケースもあるはずで、その場合、運行供用者が一度責任を負い、保険金を支払ったのち、メーカーに対して保険会社から求償していく事になります。

これは現在でも同じなんですけど、今後この求償というケースが増える可能性があります。なぜなら、運転を人間ではなくシステムが行うことになるので、無過失かつ欠陥あり、という場合が増える可能性があるためです。

---:人間には過失がないけど車の欠陥があるケースですか。

佐藤氏:はい。(自動運転)レベル3以上だと、運転を車に任せるタイミングがあるので、その状態で事故を起こした時にどうなるかと言うと、クルマ側に欠陥がある可能性がある。

もちろん大前提として、自動運転になれば安全になるはずなので、事故自体は減るはずですが、クルマ側の欠陥で事故になるケースが相対的には増えるのではないかということです。そういった中で、引き続き運行供用者が一旦責任を負うという形を取り続けていいのか、ということです。

当面は現行スキームで


佐藤氏:ただ、今回の検討は2020-2025年頃の過渡期を対象にしていて、まだ圧倒的に通常の(自動運転ではない)車が多いですし、自賠責自体は被害者救済という観点では非常に上手く回っている制度なので、そういう意味からすると、当面はそれを維持してもいいのではないかと考えております。

---:保険会社からメーカーへ求償することは今のスキームでも可能だから、ということですか。

佐藤氏:はい、例えば極端なケースですが、ドライバーはきちんと運転しており、整備も問題なく実施していたが、欠陥でタイヤがいきなり外れてしまい、歩行者が負傷したというようなケースです。何が原因で事故が起きたかというと、クルマの欠陥ですので、自賠責保険を支払った後に保険会社が求償していく。そういうケースは今は非常に少ないんですけど、今後システムによる運転になると増えていく可能性もあります。

---:現状、日本の公道を走っているクルマはレベル2が一番上で、2020-2025年もやはりレベル2の車が多いと思うのですが、レベル2の車に関して、例えば運転支援機能で運転していて、ドライバーも注意を怠っておらず、レベル2のデバイスの欠陥のせいで事故が起きたとします。その場合はどのようになるんですか?

佐藤氏:レベル2では運転者が運転に関する注意義務を負い、運行供用者が責任を負うので、人間がきちんと操作をして無過失であっても、欠陥による事故が起きたとすれは、運行供用者責任を負担した上で求償していくという事になります。ただ、無過失になるケースは非常に少ないですが。



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レベル4バスの自賠責保険は


---: 自動運転の実証実験をしているバスは、低速で走る地域限定のレベル4の想定をしており、2025年までには実現する見込みです。

佐藤氏:現状のバスは、バス会社が車両を持っているという事で、バス会社が運行供用者として責任を負うという立て付けになっています。

ですので、自動運転のレベル4でドライバーが運転していなかったとしても、車両を持っていて運行を管理できる人がいる以上は、民事についてはその立て付けで対応できると考えています(ドライバーの刑事責任などは別)。

---:バスの遠隔監視・操作は、今の実証段階では1人1台ですが、2020年の時点では1人が複数台を監視することになると思います。その場合、監視をしている人が最初の責任者になるんですか。

佐藤氏:自賠法の運行供用者という観点で申しますと、人ではなくバス会社がそれにあたります。もちろん刑事や道交法は別なので、より遠隔監視・操作者に責任が行く可能性はあると思いますが、これはまだ分かりません。

責任はメーカーかAIか


---:自動車というハードウェアはメーカーが作りますが、自動運転のAIは別の会社が作る、というケースもあり得ます。その場合はだれの責任になるのでしょうか。

佐藤氏:まず自賠については、車の所有者が一度責任を負うという事は変わりませんが、その後の求償の話で誰が責任を負うかとなると、まずは製造物責任となりますので、欠陥があれば製造者であるメーカーになります。そのあとは、メーカーと、AIという部品を作った会社との契約のなかで対応する事になりますね。

---:なるほど。今までと同様に、製造者として責任を負う形は同じですね。

佐藤氏:現行法はそうなっています。ソフトウェアは製造物ではないので製造物責任は負わないのですが、ただ、そのソフトウェアが組み込まれた部品や最終製品は物として、製造者等がPL責任を負う事になっています。もちろん、悪意のあるソフトウェアを作っていて一般的な不法行為が追及できるのであれば話は別ですが。

---:今後ハードウェアの果たす役割が相対的に小さくなっていくと、現行の枠組みが実態にそぐわない、ということはあり得ますね。

佐藤氏:そうですね。PL法は経産省や消費者庁の担当ですが、ソフトウェアに関する論点については「技術的動向を踏まえた継続検討課題」とされています。

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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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