6月5日、MotoGPで4度の戴冠歴を誇るマルク・マルケスが、自身初とされるF1ドライブに挑戦した。
場所は例年F1オーストリアGPが開催されるレッドブルリンク。ホンダのMotoGPワークスライダーであり、レッドブルの支援も受ける立場にあるマルケスのF1初ドライブは、レッドブルの主催によって実施された。
用意されたのはレッドブル陣営の旧型F1マシン(海外の一部報道では2012年型レッドブルとされる)。カラーリングは今季のF1を戦っているトロロッソ・ホンダ仕様となっている(トロロッソはレッドブルの系列チームにあたる)。カーナンバーはMotoGPと同じ「93」だ。
オーストリア出身のF1王者ニキ・ラウダ、レッドブル陣営首脳のヘルムート・マルコ、レッドブルで活躍したF1優勝経験者マーク・ウェーバーらが見守るなかでF1初ドライブを果たしたマルケスは、以下のようにコメントしている。
「世界で最も速いクルマでレースする、それはずっと僕の夢だった。この日を前にして、昨夜はよく眠れなかったくらいだよ。信じられない経験だったし、僕のキャリアのハイライトだ。MotoGPとは大きな違いがある。視界が限られているんだよね、まずそれが大きな挑戦になった。そしてブレーキングの距離やターンするタイミングも完全に違う。F1マシンのダウンフォースが強大であることはもちろんで、コーナーが多い区間では特に楽しくしてくれるね」
インストラクター役となったウェーバーは、「彼はコース上でトップパフォーマンスを発揮することに100パーセント集中していた。F1とMotoGPは全く違う。でも、彼は今日の私の仕事をラクにしてくれたよ。質問は的確なものだったし、ラップ毎に向上していたからね」とマルケスを称賛している。
レッドブルF1首脳で、ドライバー人事に影響力をもつヘルムート・マルコは、「短時間でこういうパフォーマンスができることが、彼の才能の大きさをすべて物語っている」と語り、さらには2輪と4輪でともに世界王者となったジョン・サーティース(1964年F1王者)を引き合いに出し、マルケスをそれに比肩し得る稀少な存在だと絶賛。「MotoGPで彼は数々のレコードを打ち破っていくはずだ。そしてその後、F1(参戦)の可能性が現実味を帯びるだろう」とも語っている。
現在25歳、過去5年で4度MotoGP王者となり、今季も現在ポイントリーダーであるスペイン出身のマルケスは自身の“将来”について、「僕は当面、MotoGPに集中していく。今、僕はとてもいい状況のなかで戦えているし、完全にモチベートされた状態にあるからね。ただ数年後、F1が“シリアスなアイデア”になるかもしれないね」との談話を残している。
シリアスなアイデアとは、真剣に考えうる選択肢、という意味だろう。近未来のF1ドライバーズシート争いにおけるかなり有力な“伏兵”が誕生した、といえるかもしれない。