フロント2輪、リア1輪の車体をモーターサイクルのように傾けて曲がるヤマハの『NIKEN(ナイケン)』は、そのデザインもまた斬新だ。一体どのようにして生まれたのだろうか。
ナイケンのデザインを担当した、ヤマハ発動機デザイン本部プロダクトデザイン部・安田将啓氏、GKダイナミックス動態デザイン部・木下省吾氏に、その意図、こだわりを聞いた。
◆自由度は高いが、暗中模索でのスタートだった
----:これまでのバイクとは異なる「新種」をつくった、とプロジェクトリーダーの鈴木貴博さん(ヤマハ発動機モビリティ技術本部)は話していました。参考にするものが何もないところからデザインを考えるのは大変だったのでは?
安田将啓氏(以下、敬称略):最初は「なぜ?」というところから始まりました。どうして3輪なのか、この機構がどうして必要なのか、理解するのに時間がかかりました。
木下省吾氏(以下、敬称略):よく言えば自由度が高かったとうことです。ですが、それゆえに暗中模索しました。
----:既成概念をリセットすることから始まった。
安田:それを外すのに時間がかかったと思います。なぜこの部分がここまで動くのか、車体の構造や機能が理解できると、カタチが決まっていくのは早かったと思います。
----:まったく違うアイデアもあったのですか?
木下:スケッチ段階では無数にありました。どういうシーンで楽しんでもらうのかをイメージしたとき、あんなシーンやこんなシーンとイメージが変われば、当然カタチも違ってきますので。
安田:いろいろとやったことで、こうではないなと、共通認識もつくっていけました。
----:(開発段階のスケッチを見て)赤で描かれているのもありますが、これもまたカッコイイですね。
木下:この段階ではスポーツ性を出したいという狙いでした。
----:スケッチにライダーも描かれていますが、乗っている姿も含めて考えているんですね。デザインが定まっていく決め手は?
安田:3輪でリーンして走る楽しさを体験することで、デザインの方向性が決まっていきました。開発ライダーにどのようにして乗るのかを教えてもらって、ここに座るといいとか、なぜそうならないといけないのかを理解して、デザインにも反映していったのです。
◆前2輪がしっかり路面を捉えるイメージ
----:2輪と3輪とで、デザインしていく上で違いはあるのでしょうか?
木下:ヤマハ発動機には“人機官能”という開発思想があり、人が積極的に関わって乗り物を操作していくという点では、一緒だと思います。機能というベースがあって、それに素直に基づいてデザインしていきました。
----:プロジェクトリーダーの鈴木貴博さんが話していた「理にかなったカタチ」ですね。
安田:はい。フロントはこの幅だから、ポジションランプはここに付けようとか、空力を考えるとこういう形状になるという具合にデザインが決まっていきます。
木下:フロント2輪を中心に、どう仕上げていくかが難しかったのですが、前2輪がしっかりと路面を捉えて走っていくという、ナイケンならではの走りを表現しました。
----:真横から見ると、猛獣が獲物に飛びかかっているようにも見えます。
安田:ぐっと(手や口が)開いたときの筋張った感じは意識しています。また、正面下からLMWを見せたアングルですとか、リアクォーターから見たところはスケッチ段階からのこだわりです。
◆旋回中にチラッと下から見える所にもこだわった
----:完成車のカラーはブルーですね。
安田:ブルーはヤマハのレーシングなイメージを伝えたいという狙いです。車体色もいろいろと可能性はあります。
----:メカメカしいLMW機構を覗き込むのも面白いです。
安田:メカの部分も意匠的なところはコーディネイトしています。車体設計と意見し合って、肉抜きですとかパーツをもっと削ったりですとか、軽量化を強調しています。
木下:コーナリングするときにチラッと見えてくるような所にもこだわっていまして、効果的な色や素材を使っています。
----:MT-09などのイエローを使ったら、またイメージが違うのでしょうね。LMWのモデルはデザインもまた可能性の塊ですね。
安田:我々もそう思っていますし、期待してもらえるのは嬉しいです。
◆ベテラン層に乗ってもらいたい
マーケット(市場)を考え、どういう人に乗ってもらうかターゲットを定め、そのためのコンセプトメイキングをするセクションである商品企画。ヤマハ発動機 MC事業部 戦略統括部 商品戦略部の加藤新氏は、「新種」ナイケンのターゲット層をこう話す。
加藤新氏(以下、敬称略):欧州モデルですと、アルプスツーリングを楽しむようないわゆるベテラン層です。ただしベテランと言えども、必ずしもハイスキルではないと考えています。年間1万kmを走る人もいれば、5000kmしか走らない人もいると思いますが、ナイケンは技量を問わず楽しめると思います。
----:ヨーロッパですとスリッピーな石畳の道がありますし、フロント2輪のメリットがより活かされますね。
加藤:もちろん日本でも、たまにの休日に行くツーリングですから、ほとんどの場合は道に慣れていません。そんなときもナイケンなら安心して走れます。
----:腕に自信のない人やビギナーにもうってつけですね。
加藤:いろいろなライダーに、リーンする乗り物の楽しさを味わっていただきたいと思います。