48Vを自動車メーカーが歓迎する理由とは…矢野経済研究所 阿江佑宜氏【インタビュー】

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矢野経済研究所の阿江佑宜(あえ ゆうき)研究員
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世界の自動車産業が「CASE」(Connected-Autonomous-Shared-Electric)に向かって加速している。2030年の時点で、はたして自動車産業はどのように変化しているのか。矢野経済研究所で次世代自動車および電動化システムをカバーする阿江 佑宜(あえ ゆうき)研究員に聞いた。

CASEに向けて加速する自動車産業はどのように変化していくのか。5人のリサーチャーが知見を語ります。詳しくはこちら。

48Vは欧中二極で伸展


---:日本ではあまり実感がありませんが、このところ48Vのことを気にしている関係者が多い気がしています。

阿江氏:日本ではストロングハイブリッドが全盛ですので、48Vが伸びていく雰囲気というのは、正直なところ感じられませんが、欧州だと、サプライヤーから複数のメーカーに展開していく情報を聞いていますし、さらに中国でも、多くの企業が今年から再来年にかけて投入するという計画が発表されていますので、48Vは欧中の二極で進むだろうと予測しています。

---:そういえば先日の北京モーターショーでも、吉利汽車の新型セダン『博瑞GE』で48V仕様車がありましたね。でも48VはNEV(=新エネ車。ナンバー取得や補助金などの優遇措置がある)には入らないんですよね?

阿江氏:入らないんですよ。

---:でも中国で48Vが伸びるんですか?

阿江氏:EVやPHVはNEVになりますので、そこは間違いなく伸びるんですが、まだ価格帯としては手が出しにくいんですね。その点48Vは、EVの価格が下がるまでの橋渡し的な役割として需要があるのではないかと聞いています。

---:つまりNEVではないけれども、ガソリン車プラスアルファの付加価値がある48V、という位置づけですね。

阿江氏:そうですね。中途半端といえば中途半端なんですが。ただ中国も、ハイブリッドに力を入れようという動きがありまして、「中国製造2025(※)」において、48Vも含めて、ハイブリッドの販売や基幹部品の開発を進めていくことを表明していますので、NEVほどではないにせよ、ある程度注力していくのではないかと考えています。
※中国政府が2015年に発表した中国における今後10年間の製造業発展のロードマップ

---:日系の自動車メーカーはハイブリッドが得意ですが、追い風になるということでしょうか。

阿江氏:そうですね。中国と言っても北京や上海など沿岸部はNEVが目に見えて増えていますが、地方に行くとそうでもありませんからね。

---:ナンバー取得が抽選でないエリア(郊外エリア)では、48Vの付加価値が生きてくるということでしょうか。

阿江氏:そうですね。ただ燃費改善率で見ればストロングハイブリッドに劣ってしまうので、やはり地域の事情による部分はありますよね。

48VでEV・PHVに開発リソースを投入


---:私の認識では、トヨタのハイブリッド車の販売比率が欧州でも40%を超えてきた一方で、ドイツ勢が対抗策として48Vを推進しているという認識なんですが、これは正しいですか?

阿江氏:どちらかと言うとサプライヤーが主導している動きですね。

---:サプライヤーが48Vの高付加価値な補機類を積極的にセールスしているということですか。

阿江氏:自動車メーカーに対して、従来のガソリン車に比較的簡単に載せられますよとアプローチしているようです。自動車メーカーとしては、48Vの開発にリソースを割かなくていいということは、EV・PHVの開発に注力できるというメリットがあります。EUの2021年にCO2排出量95g/kmという目標値に対して、EV・PHVを早く準備したいという事情がありますから。

---:そういう背景があるんですね。

阿江氏:それからもうひとつ48Vのメリットとして、燃費だけではなく、電動ターボチャージャーや電動スタビライザーといった、走行性能の向上といった部分で、従来の12Vでは消費電力が大きくて実現できなかったものが、48Vにすることで可能になるというソリューションもありますね。

---:なるほど。燃費だけでなく性能面も向上するというメリットが48Vにはあるんですね。

CASEに向けて加速する自動車産業はどのように変化していくのか。5人のリサーチャーが知見を語ります。詳しくはこちら。


主機モーターと機電一体で動きあり


---:モーターそのものはエネルギー変換効率も限界まで来ていて、技術的に伸びる余地はあまりないように見えるのですが。

阿江氏:そうですね(笑)。電池と比べると、ある程度確立された技術ではありますが、一方で主機モーターの製造や、機電一体化の動きがかなり激しくなってきていまね。ギアとインバーターをモーターと一緒にするという開発です。

---:なるほど。エンジンのときは動力源のほかに大きなトランスミッションが必要でしたけど、モーターであればモーターと一体化できるということですね。日系のサプライヤーもその分野はいろいろ取り組んでいますよね。

阿江氏:そうですね。日系だけでなく海外含めて各社が手掛けています。主機モーターの製造は日本電産が参入しました。これまで主機のような大型のモーターはやっていなくて、小~中型のモーターをメインでやっていましたが、いま主機モーターの開発にかなり注力しています。

機電一体化の動きとしては、ギアの技術を持っているボルグワーナーが、モーターのレミーを買収して、機電一体を一気通貫でできるよう体制を整えており、そういう動きが増えている印象です。

---:そういった背景でサプライヤーの合併統合が進んでいるという面もあるんですね。

阿江氏:そうですね。日本電産もモーターは持っていますが、インバーターなどはないので、これから動きがあるのかもしれません。どのメーカーも、ボッシュやデンソーのように自前で全部持っているわけではないので、連携や買収をして機電一体化の商品を作っていこうという動きが見られます。

---:主機モーターは、自動車メーカーが自分で作っているというイメージです。

阿江氏:基本はそうですね。トヨタも日産もそうですし、基本的には自動車メーカーで内製しています。ただ今後はハイブリッドだけでなく、EVやPHVも増えてきた時に、少しずつ変わっていくのかなと思います。

あとは中国ですね。EVがかなり増えていますので、主機モーターは日系企業のシェアが今は大きいですが、今後は中国メーカーの割合が増えてくることも考えられます。

---:日本電産はPSAグループと主機モーターの開発をするという発表がありました。

阿江氏:そうです。PSAの車両以外にも提供していくとのことですね。

---:ガソリンエンジンとは違った、EVに最適化したアーキテクチャがあり、そこでサプライヤーが争っているということですね。

阿江氏:そうですね。EVになると例えばトランスミッションや燃料タンクなど、従来あったものが要らなくなるので、電動化が進むことによって、自分たちの得意分野が生かせなくなる企業も含めて、かなり各社動いていると感じます。

電化の伸展と地域性


---:EV、PHV、ハイブリッド、48Vとありますけど、地域ごとに求められるものに差がありそうですね。

阿江氏:そうですね。中国だと間違いなくEVでしょうし、アメリカの広大な土地でEVは難しい部分もありますし、車格も大きい車が多いのでPHVだろうなと思います。日本だと既にストロングハイブリッドが普及していますので、意外と日本はハイブリッドのままなのかなというのも考えられます。

---:ヨーロッパはどうですか?

阿江氏:欧州系の大型高級車も人気がありますが、アメリカと違ってAセグやBセグといった小型車の需要があるので、都市コミューターとしてのEVと、ある程度遠くへ行くような用途やラグジュアリーカーはPHVということで、欧州に関しては両方が伸びてくるのかなと思います。

---:日本はハイブリッドが普及してしまって、PHVやEVは政策的にも強い後押しがない状態ですね。

阿江氏:皆さんハイブリッドで満足していて、EVやPHVに行く強い理由がないと現時点では思います。欧州や中国のように、規制によって売らざるを得ない状況にしたり、あるいはか、優遇政策で、ハイブリッドよりEVのほうがコストメリットがあるというような動機付けがないと、EVを選ぶ理由がないのかなと思いますね。

CASEに向けて加速する自動車産業はどのように変化していくのか。5人のリサーチャーが知見を語ります。詳しくはこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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