レベル3はなぜハードルが高いのか…矢野経済研究所 池山智也氏【インタビュー】

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レベル3はなぜハードルが高いのか…矢野経済研究所 池山智也氏【インタビュー】
レベル3はなぜハードルが高いのか…矢野経済研究所 池山智也氏【インタビュー】 全 3 枚 拡大写真

世界の自動車産業が「CASE」(Connected-Autonomous-Shared-Electric)に向かって加速している。

自動運転の領域では、レベル2と呼ばれるADAS(運転支援システム)が普及フェーズに入り、次のステップとなるレベル3の実現にむけて各社が動き始めているところだ。

自動運転を実現するカメラやセンサー、ECUの市場動向を調査研究している矢野経済研究所の池山智也主任研究員に、現時点での市場の動向、今後の方向性について聞いた。

CASEに向けて加速する自動車産業はどのように変化していくのか。5人のリサーチャーがその知見を語ります。詳しくはこちら。

レベル2の標準構成とは


---:自動運転レベル2に相当するADAS(運転支援システム)を装備した車両が普及フェーズに入ってきました。

池山氏: ADASは2010-11年くらいから立ち上がり、今は国内の新車の6割、欧州・アメリカでも5割近くに上がってきています。特に国内ではJNCAP(自動車アセスメント)でADAS関連の項目が増えてきていることもあり、標準搭載が進んでいる状況です。

---:現時点では、軽自動車も含めてレベル2のADASが新車装着されている状況ですが、一般的にはどのような機能が提供されているのでしょうか。

池山氏:単一レーンに限定してブレーキとアクセルの加減速、あとはステアリングの操舵を微調整しながらレーンをキープしたり、あるいは逸脱警告するという機能です。

---:レベル2を実現するためのデバイスは、標準的にはカメラとミリ波レーダーの組み合わせになるのでしょうか。

池山氏:単一レーンの追従走行とレーンキープであれば、技術的には単眼カメラ1個でできるようになっています。ミリ波レーダーは、メーカーによって冗長を取りたいというところが、フロントに1つ装着する形が一般的です。

---:高機能なレベル2になると、ウインカーを出すと自動的に車線変更をするものもありますね。

池山氏:車線変更する機能については、後ろから迫ってくる車や斜め前方の車を見る必要があるので、車両の角にそれぞれレーダーをつけていますが、今のところ高級車に限られますね。

驚くほど安くなったレベル2のセンサー


---:レベル2用のカメラやミリ波レーダーはだいぶ安くなってきたようですね。

池山氏:驚くほど安くなっていますね。

---:単眼カメラとミリ波レーダーでは、どちらが高価なのですか?

池山氏:現状ではミリ波レーダーのほうがコストダウンが激しいようです。自動車メーカーはカメラで認識するものをとても細かく設定しています。白線、歩行者、標識、夜間の歩行者や自転車などです。カメラの役割がどんどん増えているので、あまり値崩れしないということのようです。

いっぽうのミリ波レーダーは、現状で広く普及しているものは、ある程度測距ができて遠くまで飛ばせるのですが、物体が何であるのかという判別はできません。ミリ波はロバスト性が高いので、夜でも悪天候でも機能する特徴があるのですが、今はできることが限られています。先々はレーダーの機能もアップしていくので、もう少し変わってくると思いますが。

---:カメラの重要度が高まっているのは、AIで画像解析力が上がってきているからということですか?

池山氏:そうですね。画像処理プロセッサーの能力が非常に向上してきて、いろいろなものを判別して認識できるようになってきました。最新のものだとディープラーニングのアルゴリズムによって、以前は到底判別できなかったものでも認識できるようになっています。


画像処理チップにおけるMobileyeの存在感


---:カメラに関しては、数多くのTier1サプライヤーがカメラを用意していますが、差別化ポイントはECUの性能になっているということですか?

池山氏:実は画像処理チップのメーカーはかなり限定されてきています。

---:限られたTier2がECUを供給しているということですか?

池山氏:そうですね。Tier2の画像処理プロセッサーに対してTier1が紐づくような形になっています。

---:例えばどういうサプライヤーですか?

池山氏:まずインテル子会社のMobileyeです。現行品は「EyeQ3」で、今年後半から「EyeQ4」が出ます。EyeQを使うTier1は例えばZFや、デルファイから独立したAptivなどです。

一方でMobileyeのチップを使わないTier1もあり、ボッシュ、コンチネンタル、デンソーなどです。それぞれ独自にサプライヤーを選定して、ザイリンクスや東芝の「Visconti」などといったチップを使っています。アルゴリズムを一部自分たちでも作っているところもあります。

---:Mobileyeのチップは性能が良いということなのですか?

池山氏:それもありますが、画像認識のアルゴリズムが揃っていて、Tier1がイチから作りこむ必要がないというメリットもあります。標識や歩行者検知、二輪、動物などですね。

---:ステレオカメラの動向はどうでしょうか。

池山氏:ステレオカメラはちょっと厳しい局面だと思います。

---:コストの問題ですか?

池山氏:コストもありますが、いまのカメラの方向性としては、いろいろな画角のカメラを用意するという方向なんですね。カメラを2つ置くのであれば、ステレオカメラを置くよりは、広角のものと望遠のものを載せて、視野角を広く持つということです。つまり画角の違う単眼カメラをいくつか並べるということですね。



CASEに向けて加速する自動車産業はどのように変化していくのか。5人のリサーチャーがその知見を語ります。詳しくはこちら。

レベル3への高いハードル


---:レベル2が普及フェーズとなり、次はレベル3ということになりますが、レベル3ではどういったセンサー構成になるのでしょうか。

池山氏:まず言えるのは、センサーの数は今よりもぐっと増えます。そして現在よりも高画素なカメラや高速処理ができるプロセッサー。レーダーも前方を見るものだけではなく、斜め前や後ろ、側面を見る必要があります。さらに短距離と長距離のLiDARなどもあります。

さらにレベル3ということはドライバーの状態を監視しなければいけませんし、ドライバーが覚醒していなければアラートを出すなり、システムが自らハザードを出して車を路肩に停めてしまうということにも対応しなければいけません。

また、自動運転用のHDマップデータを利用するためのシステムや、地図ライセンス料、マップデータを更新するための通信機能、自車位置を正確に把握するためのシステム、他の車やインフラと通信するためのV2Xもあるでしょう。さらにシステムに運転を任せる間は、従来の運転するためのHMIではなく、自動運転に対応したHMIに可変するシステムも必要かもしれません。

最後にもう一点、アクチュエーター系の冗長性を確保したいという話があります。ブレーキやパワステなどです。一系統が何かの拍子で壊れたとしても、何とか緊急回避できるような小さいモーターを付けて、故障を検知したらすぐに退避できるようにするというものです。

このようにレベル3の実現には、必要なコンポーネントやデバイスがとても多く、コストが一気に上がってしまうのは避けられません。

---:ものすごくハードルが高いですね。

200万円の車に100万円のオプション


---:レベル3へのハードルが高いことは理解できましたが、いったいどのようにして市場に出して行くのでしょうか。

池山氏:今の技術レベルとコスト、必要なデバイスやコンポーネントの数を考えると、成立するのは高級車です。700万円を超えるようなEセグや、Dセグでも一部の高級車です。それよりも下の、特にボリュームゾーンになるCセグやBセグについては、まだ時間がかかるでしょう。

---:ここまでレベル2は、軽自動車にも装備されるほど普及してきましたが、レベル3からは、普及の仕方が変わりそうですね。

池山氏:そうですね。自動車メーカーもその部分をとても悩んでいます。特にトヨタやフォルクスワーゲンなど、Cセグ以下でボリュームがあるメーカーです。1000万円を超えるような高級車であれば、レベル3のオプション価格が100万円でも成立するのでしょうが、200万円前後の車に100万円のオプションではさすがに成立しないでしょう。

---:レベル2と同じように、レベル3でも低機能で安価なものと、高機能で高価なもの、というような企画はできないんでしょうか。

池山氏:機能に絞りこむことはできると思います。例えば欧州や北米のように、通勤で長距離運転が多いところは、レベル3でも単一レーンに絞って追い越し機能も無くして、時速も絞ります。そのかわり一定の条件下であればスマホを見ていても良い、といったものです。

HDマップについても、まだデータが粗いエリアがあるので、地域を限定したり、高速道路だけに限定するなどということになっていくとは思います。

---:消費者が得られるベネフィットとコストのバランスをどう取っていくか、ということになりますね。

池山氏:そうですね。

CASEに向けて加速する自動車産業はどのように変化していくのか。5人のリサーチャーがその知見を語ります。詳しくはこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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