【ホンダ N-BOXスラッシュ 500km試乗】“バカ”になりきれてないのが唯一の弱点か

ホンダ N-BOXスラッシュ 改良新型
ホンダ N-BOXスラッシュ 改良新型全 31 枚

ホンダの軽トールワゴン『N-BOXスラッシュ』のマイナーチェンジモデルで500kmほどツーリングする機会があったのでリポートする。

N-BOXスラッシュの長所と短所

N-BOXスラッシュはハイトワゴン、初代『N-BOX』の派生車種として2015年に登場した。ウエストラインまではオリジナルのN-BOXと同じ高さで、ウインドウ下端以上を上下方向に10センチ縮小した、チョップドルーフ(かつてアメリカで流行した、ピラーを切って屋根を低くするカスタマイズ)風のスペシャリティ軽ミニバンである。

カラーを選べるデザイン性の高いインテリアやスーパーウーファーつき高出力オーディオを用意するなどして商品性を高めようとしたものの、価格や商品コンセプトがいまひとつ市場に受け入れられず、販売は低迷した。が、初期の自然吸気モデルで600kmほど走ってみた時は市街地、高速から荒れた山岳路まで道を選ばない走りが印象的で、軽グランドツーリングカーだと思えば結構イケてるのではないかと思った。そのN-BOXスラッシュがマイナーチェンジを受けたということで、もう一度試してみることにした次第である。

試乗車はターボエンジン+15インチ径ホイールのトップグレード「Xターボ インテリアカラーパッケージ」で、新色の「ニューヨークダークスタイル」インテリア、通信機能を持つインターナビなどが装備されていた。試乗ルートは東京を出発し、北関東~房総半島を巡るというもので、総走行距離は528.1km。道路比率は市街地3、郊外路5、高速2、山岳路0。路面はドライ8、ウェット2。1~2名乗車、エアコンAUTO。

まず、N-BOXスラッシュの長所と短所を5個ずつ箇条書きにしてみよう。

■長所
1. アウトドアで少々汚れても拭き掃除で簡単に綺麗になるビニールインテリア
2. 見た目に反して高いユーティリティ
3. 相変わらず強固なボディ、シャシー
4. ドライブ気分を高揚させるサウンドマッピングシステム
5. 販売不振のため、街で同じクルマをあまり見かけないこと

■短所
1. 14インチホイール版はよく動く足だったが15インチ版はガチガチ
2. シティブレーキ以外の先進安全システムを欠いている
3. スペシャリティを狙ったわりには地味な外観
4. 現代の基準ではちょっと実燃費が悪い
5. ホンダがブランディングを投げ出し気味で継続性、発展性に確信が持てない

N-BOXスラッシュは走行安定性、操縦性、疲労の少なさなど、クルマとしての素質は結構良いものがあった。マイチェンモデルはそんな初期型の特徴はしっかり継承している半面、商品性をより魅力的にするようなアイデアの盛り込みついてはおざなりにされたという感が強かった。

また、乗り心地や静粛性などハードウェアの作り込みについても、基本となったN-BOXがフルモデルチェンジで長足の進歩を遂げたのに対してそれほど見劣りしないですむくらいには改良を頑張るべきと思ったのだが、そうもなっていなかった。どうせ数の出るクルマにはならないと踏んでのことであろうが、それなら最初からスペシャリティに手を出すべきではなかったであろう。

ツーリング耐性の高さ

フロントシート。収まりはなかなかいい。フロントシート。収まりはなかなかいい。
では、クルマの出来について具体的に述べていこう。N-BOXスラッシュは旧型N-BOXと軽セダンの『N-ONE』がともに凝ったシート構造を持っていたというDNAを継承していることもあって、軽自動車としては異例にシートがいい。テストドライブしたインテリアカラーパッケージ車はシート表皮がファブリックに比べて滑りやすく固いビニールになるためフィット感は落ちるが、それでも良いほうだ。このシートが生むツーリング耐性の高さは軽自動車随一のものだ。

ビニールのシート表皮は身体へのフィット感という点ではマイナスだったが、防汚性という観点では最高だった。砂浜の砂をうっかり車内に持ち込んでしまったりしても拭けばすぐに綺麗になるというのは、アウトドア派にとっては嬉しいところ。ちなみにビニールインテリアは現在、5色まで増えている。個人的には明るいハワイグライドスタイル、ワイルドなコロラドトレッキングスタイルあたりが魅力的に映った。

シートの良さに比して、シャシーチューニングのほうは平凡な出来だった。15インチモデルはそれと根本的にセッティングが異なっているようで、かなりガチガチ。アンジュレーション(路面のうねり)やギャップを拾ったときに揺すられ感が結構強めに出た。

14インチホイールモデルの場合、軽自動車規格ゆえの限定的なストローク幅のサスペンションが巧みにチューニングされており、悪路でも乗り心地や操縦性が破綻しないというツーリング向きな乗り味になっていた。15インチがガチガチなのはスポーティさを狙ってのことだろうが、ハンドリングは14インチと大差なく、これならもう少ししなやかさを持たせてもいいんじゃないかというのが率直な印象だった。一般的には14インチモデルを選んだほうが満足度は高かろう。
15インチアルミホイールに組み合わされるのは165/55R15サイズのブリヂストン「B250」。クルマとのマッチングは大していいようには感じられなかった。15インチアルミホイールに組み合わされるのは165/55R15サイズのブリヂストン「B250」。クルマとのマッチングは大していいようには感じられなかった。
エンジンは0.66リットルターボ。自然吸気と比べるとかなり強力だが、実は自然吸気もエンジンの回転数を実に機敏に上昇させるレスポンスの良いCVTのおかげで、低中速域では900kg台の車重を押して結構活発に走ったため、市街地や郊外路ではそれほど大きな違いがあるようには感じられなかった。差が出るのは高速巡航時のゆとりと、常用するエンジン回転数が低いことによる低騒音。また、今回は山岳路は走っていないが、登り急勾配ではかなりの差が出るものと考えられる。

ゆとりと引き換えになるのは、致し方ないことではあるがやはり燃費。今回のツーリングにおける燃費計測区間506.9kmの通算実燃費は17.0km/リットル。インパネ内の平均燃費計値は17.7km/リットルであった。エコランはしていないが郊外走行が多く、しかも運転がいつもに比べておとなしめだったことを考えると、最新のターボエンジン搭載のライバルに比べてちょっと悪い。ちなみにマイチェン前の自然吸気は似たような運転パターンで23~24km/リットル。もう少し頑張ってほしいところだ。

ユーティリティ&ハイパワーオーディオ

後席をフルフラットに。ホイールを外せばロードバイクくらいは積めそうだった。小径ホイール車ならそのままで楽勝だろう。後席をフルフラットに。ホイールを外せばロードバイクくらいは積めそうだった。小径ホイール車ならそのままで楽勝だろう。
ユーティリティについては申し分なかった。まずスペースは充分。N-BOXやダイハツ『タント』などのスーハーハイトワゴンほどではなくとも、前席、後席ともに前後方向のゆとりは申し分ない。後席を前にスライドさせ、荷室にある程度荷物を積むようなときでもなお充分だ。ただし、後席のシートバックを倒して広大な荷室として使う場合は前席をかなり前に寄せる必要があり、前席の膝下空間は少々タイトになる。

シートアレンジだが、トールワゴンとしては充分多彩というだけでなく、椅子を倒すレバー、ボタンなどが力を込めやすいような構造に作られており、大変扱いやすいのは好印象だった。室内はリアシートのシートバックを除き、フルフラットにすることができる。気候の良い時には高原で窓を開け、音楽を軽く流しながらちょっと昼寝などという使い方もできそうだった。
FOSTEXのスーパーウーファー。軽自動車の室内容積にはこれで十分すぎるほどだった。FOSTEXのスーパーウーファー。軽自動車の室内容積にはこれで十分すぎるほどだった。
発売当初、N-BOXスラッシュの売りのひとつだったハイパワーオーディオ「サウンドマッピングシステム」は、依然としてパワフルな低音を伴ういい音を出していた。もちろんオーディオカスタム車のようなパワーはないが、軽のメーカーオプションオーディオとしてはやはり最高峰だろう。難点は独立したパワーアンプに信号を送り込むコントロールアンプ機能を持つ純正カーナビが結構高いこと。

一方で気ちょっとになったのは静粛性。デビュー当初はサウンドマッピングに対応するため、軽自動車としては異例なほどの遮音対策を施してたことから、ボリュームをごく小さく絞っても音楽がはっきり耳に届くくらいであったのだが、今回乗ったモデルはざわつきが大きく、ある程度ボリュームを上げないと音楽のディテールが消え気味だった。コスト削減で遮音性が下がったのだとしたらちょっと惜しい。

先進安全システムは装備されず、低速での追突被害軽減を目的とした市街地緊急ブレーキのみを持つ。ホンダはカメラとレーダーを併用する運転支援システム「ホンダセンシング」の採用を拡大させているが、マイナーチェンジで追加装備させるのは難しいらしい。ただ、ライバルを見渡すと日産自動車と三菱自動車が軽自動車のモデルライフ途中で先進安全システムを搭載してきたことを考えると、ホンダもモービルアイやコンチネンタルのシステムを買ってきてつけるなど、何らかの手は打ってほしかったところだ。

デザインにもっと「遊び」を

リアドアの面積は狭いが、ドア開放角は大きく、アクセス性は良好だった。リアドアの面積は狭いが、ドア開放角は大きく、アクセス性は良好だった。
デザインは初期型とほとんど変わらず、ボディに新色が追加された程度。ちなみに今回のテストドライブ車両のオレンジは新設定だ。あらためてそのスタイリングを見ると、スペシャリティ狙いにしてはデザインが地味で、ちょっと変わってはいるものの軽ミニバンにしか見えない。これがN-BOXスラッシュの最大のウィークポイントだろう。

この種のカリフォルニアカスタム的モデルは、もっと大胆でないとそれらしく見えない。街のボディ改装屋のスペシャルメイドではないのだから、周りの人が「うわークルマをあんなふうにしているバカがいるよ」と眉をひそめるくらいまでやれとは言わない。が、開発陣は「ホットロッド」という言葉を口にした以上、少なくともひと目で普通のミニバンとは思えないと感じるくらいの大胆デザインを目指すべきだった。大げさなことを言えば、リアゲートまわりを昔のアメリカのステンレスバスのような丸いデザインにするとか、フロントウインドウシールドを昔のサーブ『900』くらいの回り込みデザインにするとか。

そうすれば日本でこれがバカ売れするなどとはとても思わないが、少なくともホンダが遊びを忘れていないことの証明にはなったであろう。が、現状くらいのカスタマイズだと、本当は遊びに興味のない真面目くんが良い頭を一生懸命使い、お金を無駄遣いしないですむ範囲で遊びを空想してみましたというふうにしか見えない。バカになりきれてないのだ。

ホンダに限らず日本の自動車メーカーは、他人からこういうふうに見られたいという願望と自分の本性が著しくかけ離れているきらいがある。が、そういう演出は顧客にはすぐ見抜かれる。遊びのあるブランドになりたいのだったら、やはり社長から従業員まで、人生の中で遊びを大事にするような気風を持たなければそうならないだろう。

ただ、ホンダとしては不本意だろうが、完全に販売が失速してマイナー車になったことで、この程度のカスタムでもスペシャリティ性はちょっと出てきた。今、ルーフ2トーンカラーや鮮やかな外装色のN-BOXスラッシュに乗れば、それなりに変わっているようには見える。広い駐車場でも自分のクルマがどれかわからないなどということはなさそうである。そういうスノッブ志向の軽ユーザーの心に刺さるような販売戦略を組み立てなおせば、クルマ自体の出来は悪くないだけにもうちょっと売れてもおかしくないと思った次第である。

他にないクルマが欲しいなら

ホンダ N-BOXスラッシュ 改良新型ホンダ N-BOXスラッシュ 改良新型
N-BOXスラッシュのマイナーチェンジ・15インチホイールモデルは、路面変化へのしなやかな追従や抑えの効いた乗り心地こそなかったものの、強固なボディや優秀な設計のシートなどツーリング向きの仕立ては健在で、遠乗りもできる軽自動車というキャラクターに変わりはなかった。

もともと初代N-BOXに対してショックアブゾーバー径を太くしたり、リアサスの入力経路を垂直にしたりと、結構大がかりな改良を施しての登場だったので、クルマとして悪いということはない。また、便利さも軽ワゴンとしては充分だ。N-BOXスラッシュはまったく売れておらず、N-BOXシリーズ全体に占める比率は3%程度。いわるゆ不人気車というヤツだが、あまり走っていないクルマを買いたいというカスタマーにとってはかえって好都合かもしれない。

おススメは14インチホイールモデル。ターボエンジンはトルクにゆとりがあるが、個人的には4人乗ったり重量物を積んだりしないのであれば自然吸気で充分だと思った。仕様選びについては、せっかくなのだからちょっと派手めに攻めたい。

ルーフ2トーンは強めのコントラストの組み合わせが似合う。インテリアカラーパッケージはノーマルより11万円高くなるが、シートだけでなくステアリングやトリムなどもカラーコーディネートされるので、気に入ったスタイルがあればせっかくなので選びたいところ。ただし、ツーリングカーのシートは身体へのフィット感が何より大事と考えるカスタマーはインテリアカラーパッケージのビニールシートではなく、普通のクロスシートのほうが満足度は高いだろう。サウンドマッピングシステムは対応カーナビと組み合わせると結構高額なので、お好みで。
ちょっと遠めに見るとホットロッドに見えないのが弱点。ちょっと遠めに見るとホットロッドに見えないのが弱点。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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