【MaaS】MaaSは小林一三モデルを再構築するツールとなる…小田急電鉄 西村潤也[インタビュー]

小田急電鉄 西村氏
小田急電鉄 西村氏全 1 枚

MaaSは、本来、自動車だけの話ではなく、マルチモーダルで都市デザインを考えるものだ。この点では鉄道業界がもっともMaaSに近いともいえる。小田急電鉄西村潤也氏(経営戦略部 課長代理 モビリティ戦略プロジェクトチーム)に鉄道会社の考えるMaaSについてお話を聞いた。

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●複々線化の次はMaaS

---:小田急電鉄としては、どのようにMaaSを捉えて、どのような戦略で取り組んでいく予定なのでしょうか。

西村氏(以下同):今年の3月に、小田急電鉄は複々線化が完了しました。用地確保や営業しながらの工事のため、構想からは約50年、着工からでも約30年という長い時間を要した大きなプロジェクトで、会社としてのひとつの転換点として捉えています。輸送力がアップし、混雑も緩和されましたが、では、次になにをやるべきか? 次のサービスを考えたとき、MaaSは、次世代モビリティによって新しいライフスタイルを提案できると思っています。

---:MaaSというと、メディアなどではライドヘイリングや自動運転バスが注目されていますが、小田急電鉄としてどのような形でMaaSにかかわっていくのでしょうか。具体的なサービスイメージなどあれば教えてください。

小田急グループは、電車、バス、タクシーなどの移動手段を提供していますが、利用者のニーズにあった新たな移動手段も必要であると考えています。具体的には2つあります。ひとつはバスとタクシーの間を埋めるような移動手段です。バスは大量輸送が可能で効率がいいですが、バス停まで移動する必要があります。タクシーはドアツードアが可能ですが、手配、配車が必要です。そこで、双方の長所を活かしたような移動手段を提供する方法はないかと考えています。イメージとしては、米国ニューヨーク市に拠点を置くVia社のようなオンデマンド型シャトルサービスに近いものかもしれません。

もうひとつはラストマイルと呼ばれる部分を埋める移動手段です。家から駅やバス停までの移動、着いた先、あるいはそこから最終の目的地までの移動です。これについては、セミナーでもお話する予定ですが、小田急電鉄では、江の島で自動運転バスとWHILL(電動車いす)を組み合わせた実験を行いました。

●車両やネットサービスだけでは完結しない

---:これらの取り組みにおいて、鉄道会社が、自動運転車やパーソナルモビリティのための車両を手掛けることはありますか。

小田急電鉄は交通サービス事業者なので、直接ハードウェアを作ることはありませんが、我々にとってMaaSは、マルチモーダルなものです。また、単に配車のためのマッチングや決済システムだけで完結するものとも考えていません。移動手段と生活シーンをどう連携させるかが重要です。AからBに行くために検索するのではなく、Bに行きたいんだけどどうすればいいのか、という視点で取り組んでいます。移動手段は既存のものや新しくでてくるものもあるでしょう。

小田急は、世田谷など都市の住宅地、新百合ヶ丘・町田など郊外都市、そして箱根のような観光地までをカバーしています。郊外都市であれば、平日は公共交通の利用率が高いエリアですが、休日は最寄り駅のデパートなどへ車で出かけます。沿線施設、郊外施設、さらに観光地やレジャー施設など、目的地に対してどんなサービスや移動手段を提供できるか、それによって高齢者や駅まで不便なところに住んでいる人たちの移動を後押しして差し上げる、新しい生活スタイルを提案できるのではないかと思っています。

●たとえば、駐車場代サービスの代わりにバス無料

---:新しいサービスや今後の取り組みについて、プランなどあれば教えていただけますか。

計画というよりアイディア段階になりますが、デパートなどの駐車場は、2000円以上買い物をすれば一定時間を無料にしていますよね。これを駐車場ではなくバス料金などに適用すれば無料で駅まで移動できないか。あるいは、公共交通料金のサブスクリプションやダイナミックプライシングの導入です。これは、運賃制度などを柔軟に運用できるようにする必要がありますが、定額で電車バス、タクシーが利用できれば買い物やお出かけが楽になるでしょう。利用の少ない時間帯の料金を安くすれば移動の分散につながるかもしれません。

---:小林一三モデルの再構築とはどのようなことでしょうか。

大手民鉄の事業モデルは「小林一三モデル」とも言われています。鉄道の敷設とともに、沿線に住宅やレジャー施設をつくり、まりづくりと一体的に事業を進めることにより、沿線の生活を豊かにし、鉄道の利用者の増加につなげていくという考え方です。

しかし、近年は人口減少や超高齢社会になり、人口増加を前提としたこのようなモデルが立ち行かなくなってきています。鉄道会社が手掛けるMaaSは、移動手段と生活スタイルを結び付けて、人々の移動を後押ししてあげる、新しい形の小林一三モデルを再構築できるツールだと思っています。

12月18日開催の日本版MaaSセミナーでは、私鉄が考えるMaaSがどういうものか。西村氏も登壇し解説いたします。 日本版MaaSのキープレイヤーが一堂に会するセミナーが開催されます。詳細はこちらから。

《中尾真二》

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