グローバル視点と、地域密着の重要性 日本の自動運転が進むべき道は[オートモーティブワールド2019]

PR
モニターデロイト パートナー/執行役員の周磊氏
モニターデロイト パートナー/執行役員の周磊氏全 6 枚

自動運転が「買い物を復権」する

グーグル(現ウェイモ)が自動運転車の研究開発を始めたのが2009年だから、来年はちょうど10年を迎えることになる。今年はそのウェイモが自動運転タクシーの商用化を実現した。もちろん、まだ運転状況を監視する人間が同乗しており、レベル4の完全自動運転はまだ先の話というイメージもあるが、一方で自動運転を用いたモビリティサービスも同時並行で進化を始めている。

こう語るのはモニター デロイトのパートナー(執行役員)であり大阪府立大学客員教授の周磊氏だ。同氏は2018年7月に流通小売大手ウォルマートがウェイモと提携したことを挙げた。

「オンラインとオフライン、2つのショッピングを自在に組み合わせられるようになります。好きな商品をオンラインで注文して、自動運転車で取りに行く。買い物の復権と言えるかもしれません。もちろん気軽に楽しみながらこなせることが大事ですが、リアルとバーチャルは違うものです。オンラインよりも買い物の高揚感が得られるようになるでしょう」
グーグルのウェイモが運用を開始した無人の自動運転タクシー(参考画像)グーグルのウェイモが運用を開始した無人の自動運転タクシー(参考画像)
ショッピングモールに足を運べば、違う商品を買ったり、映画を見たりという消費行動にもつながる。つまり生活体験がより広がっていく。こうした提案が出てきたことが、2018年の大きな変化だと周氏は考えている。

「自動運転車の技術開発とビジネスモデルの開発は同時並行で進めたほうがいいと考えています。技術が完成してからサービスを考えはじめるのでは遅い。すでに各所で探索が始まっていると思ったほうがいいでしょう」

スマートシティの中のモビリティ、生活の一部としての自動運転車という考えを持ち続けていくことが大事だと周氏は語った。さらに自動運転は、既存の交通のネガティブな面を補うだけでなく、新たにポジティブな面を輩出する存在だと頭に入れておくこともポイントだと語った。

「高齢化や過疎化といったネガティブな課題をゼロに近づけるだけでなく、新たな付加価値をもたらしてくれます。米国ではさきほど話したウォルマートの他、同じスーパーマーケットのクローガーがロボット開発企業のニューロと提携して、食料品の無人配送実験を始めています。社会にとって新しいモノやコトを創り出していくことも、自動運転を取り込むシステムやサービスでは大事だと考えています」

かさむコスト、日本のアドバンテージは

一方で技術面においては、次のような動きがあると指摘している。

「ここへきて再び、自動運転はコストが嵩むという考えが多数派になりつつあります。なによりも人の命が掛かっているし、確実な結果が求められるからです。そのためにも相当の実験走行距離を重ねてきたわけですが、ライドシェア企業がOEMとの関係を強化するといった動向や、GMがクルーズを買収し、そこに別の業界のプレーヤーが出資をしたりという動きを見ると、単独では限界があるのかもしれないと考えています」

自動運転車はホビーではなく、社会にとって重要なシステムであり、前向きに考えつつ慎重に社会に導入していくことが重要という周氏の意見は納得できる。そのためには当然ながら、投資は絶えず必要となる。その結果、大手が重要な役目を果たしてきているのも、今年の変化のポイントではないかとのことだった。

周氏は中国の事情にも詳しい。近年の中国の研究開発のスピードは驚くレベルにあり、それは自動運転車の分野でも同等ではないかと認識する人が多いようだが、周氏はやや異なる見解を持っていた。
モニターデロイト パートナー/執行役員の周磊氏モニターデロイト パートナー/執行役員の周磊氏
「中国は自動運転に関わるプレーヤーはたしかに多いですが、アルゴリズム中心で進んでいるという感もあります。認識機能など一部は世界先進水準にあるかもしれません。しかし自動運転車には自動車のさまざまな性能が絡んでおり、その中で冷静に考えると、ナンバー1ではないと思っています」

中国はマーケットが大きいうえに、新しいモノやコトを受け入れるスピードが速い。ただし自動運転車の技術は飛行機と同じぐらい高度であり、蓄積が必要な部分は時間を要するだろうという。エンジニアリングの力を高め、完璧なクルマづくりを目指し、人や物を安全に届ける。そのためには競争よりも共創の姿勢が大事ではないかとのことだった。

では日本のアドバンテージはどこか。日本の良さとして周氏が挙げたのは、消費者のレベルの高さだった。これを自動運転車づくりに反映していけば、世界で競える内容に仕上がるのではないかという。その一方で課題も挙げた。

「米国や中国など海外で実証実験を行うことが大事です。ドイツ勢も、たとえばダイムラーとボッシュはサンフランシスコ、BMWは中国で実施しています。技術提携をしていくだけではなく、現地で実証を行い、海外のユーザーに日本のプレーヤーをいかに認知してもらうかが重要です。そうしないと少しずつ遅れていく可能性があります」

グローバル視点と、地域密着の重要性

もちろん国内も大事だが、同時に海外で実証をしてビジネスにつなげていかないと、なかなか認知されないというのが周氏の主張だ。米国はアリゾナ州やテキサス州など、規制がさほど厳しくなく実験しやすい場所があるし、ハワイのように日系人が運営する商店や企業が多い場所もあり、実証に向いているとのことだった。

グローバル視点で開発を進めることとは対照的に、ローカル視点もまた自動運転では大切であるとも、周氏は付け加えた。グローバルとローカルの掛け算が大事であるというのが持論だ。

「例えばグローバルの地図メーカーが、自動運転に必要な高精度地図の作成に取り組んでいますが、全ての国・地域の高精度地図を網羅するのは非常に困難です。そこで、地域に密着したプレイヤーが技術的な課題解決に取り組んでいくという手法もあります。フィールドが限られているので参入しやすいし、安全性を担保しやすいという利点もあるのです。技術的なことだけではありません」

「モビリティは地域密着のものであり、同じ東京都でも例えば千代田区と町田市とでは求められるものは違ってきます。地域毎に、タクシー会社やバス会社といったモビリティサービス事業者、および商業施設などのサービス事業者を巻き込んで、どのように自動運転を活用していくかを考えることが重要です。要は、地域を絞って環境条件を限定することで技術的ハードルを下げつつ、その地域のニーズに応える自動運転サービスを実装していく。グローバルプレイヤーとローカルプレイヤーが手を取り合って、このような取り組みを多くの地域で行えば、全体として自動運転の技術も向上していき、また同時に社会受容性も向上し、自動運転が広く普及することに繋がっていくでしょう。」

100年先の目線を入れすぎると直近の課題が見えなくなるものであり、まずは点から線、線から面への広げていく考え方も重要だと語っていた。
SBドライブによる江ノ島での自動運転バスの実証実験(参考画像)SBドライブによる江ノ島での自動運転バスの実証実験(参考画像)
モビリティが地域活性化につながるのは間違いのないところ。生活圏の話だから自治体との連携は大事だし、子供から高齢者まであらゆる人に対応し、地域に理解してもらえるかが重要となる。また人流だけではなく物流も手掛け、デマンドに基づいて動かしていくことも大切だと付け加えていた。

こういうフィールドでは若い人、起業したい人のチャンスも出てくるだろう。だからこそ、若い人が失敗しても新しいチャレンジができる社会、リスクを取って大きなリターンが見える社会が大事だと語っていた。日本は安定成長の時期が長かったこともあって慎重になりがちであり、検討する前に前進という気持ちで取り組んでほしいと話していた。

ところで日本はこのあと、2020年に東京五輪・パラリンピック、2025年に大阪万博の開催が決まっている。このような国家的なイベントは、自動運転などのプロジェクトをやりやすい。この点について尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。

「これは国だけのイベントではありません。民間企業やNPOなども関係があります。活性化していくプロジェクト、ビジネスにつなげるプロジェクトを仕掛けることが大事です。自動運転に限らない話ですが、成功事例を作り、日本ならではの面白さを世界に発信する場と考えてほしいものです」

周氏は2019年1月16日から開催される「第11回オートモーティブワールド」の専門セミナーの中で、1月18日に「自動運転レベル4を実現する世界の実力派スタートアップ」と題したパネルディスカッションに登壇。「自動運転モビリティ社会の実現~実証実験から本格的な商業化まで~」をテーマに講演したのち、自動運転技術を開発するPony、MomentaのCEOとのディスカッションをおこなう。

■本講演の詳細は
https://reed-speaker.jp/Conference/201901/tokyo/top/?id=AUTO&lang=jp#AUTO-1

■第11回オートモーティブワールド
自動運転、クルマの電子化・電動化、コネクティッド・カー、軽量化など、自動車業界における重要なテーマの最新技術が1120社出展する世界最大の自動車技術展。「国際カーエレクトロニクス技術展」「EV・HEV駆動システム技術展」「クルマの軽量化技術展」「コネクティッド・カーEXPO」「自動車部品・加工EXPO」「自動運転EXPO」の6つの展示会を開催する。また業界の第一人者たちが講演するオートモーティブワールドセミナーも注目を集めている。

■展示会のご入場には招待券が必要です。招待券請求(無料)受付中!
※招待券の事前登録により、入場料(5,000円)が無料になります。
https://www.automotiveworld.jp/inv/

会期:2019年1月16日(水)~18日(金)10:00~18:00 (最終日のみ17:00まで)
会場:東京ビッグサイト
主催:リード エグジビション ジャパン株式会社
■第11回オートモーティブワールド 詳細はコチラ!

Sponsored by リード エグジビション ジャパン

《森口将之》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. ルノー『キャプチャー』新型、4月4日デビューへ
  2. ドライブ中の突然の曇り問題にサヨナラ! DIYでウインドウ曇り防止 ~Weeklyメンテナンス~
  3. 東京E-Prix 市街地コースは臨海都心に準備…フォーミュラE[写真32枚]
  4. メルセデスベンツ、新型パワートレイン搭載の「GLA180」発売…高性能モデルAMG「GLA45S」も追加
  5. シトロエンが新型SUVクーペ『バサルト・ビジョン』を発表 南米で2024年内に発売へ
  6. 日産『エルグランド』一部仕様変更、安全装備を強化
  7. オールラウンドに使えるスポーツタイヤ「SPORTMAX Q5A」が登場!モータースポーツに超本気なダンロップに注目…東京モーターサイクルショー2024PR
  8. 【メルセデスベンツ Eクラス 新型試乗】SUV全盛の今に、果たしてどのような人が選ぶのだろう?…河村康彦
  9. 【スバル レヴォーグレイバック 新型試乗】「アウトバック」以来、30年にわたる挑戦の成果…諸星陽一
  10. メルセデスベンツ『Gクラス』改良新型…449馬力の直6ツインターボ搭載、表情も変化
ランキングをもっと見る