1年1人4000円利用すれば、JR北海道問題は解決!?…知事や社長も出席した公共交通フォーラム

開催前の「道民キックオフフォーラム」会場。
開催前の「道民キックオフフォーラム」会場。全 5 枚

札沼線北海道医療大学~新十津川間の廃止が発表された翌12月22日、札幌パークホテル(札幌市中央区)で北海道が主導する「北海道鉄道活性化協議会」主催の「公共交通の利用促進に向けた道民キックオフフォーラム」が開催された。

道内300km超区間を「地域交通」と言えるのか?…北大准教授が疑義

岸邦宏准教授。岸邦宏准教授。

北海道鉄道活性化協議会は、北海道や北海道市長会、北海道町村会などからなり、12月1日に立ち上がった。このことで、北海道はJR北海道の利用促進に本格的に取り組む姿勢を示したが、このフォーラムはその「こけら落とし」とも言えるもので、高橋はるみ北海道知事、島田修JR北海道社長といった、JR問題渦中の人々も出席して開かれた。

高橋知事の挨拶の後、まず、北海道大学大学院工学研究院の岸邦宏准教授が登壇し、「前向きな形でJR北海道を利用する」をテーマとした基調講演が行なわれた。

NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」鳥塚理事長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」鳥塚理事長。

岸氏は北海道交通運輸審議会副会長、小委員会・総合交通政策検討会議座長、作業部会・鉄道交通ネットワークワーキングチームフォローアップ会議座長を務め、3月に北海道が策定した「北海道交通政策総合指針」を取りまとめた中心人物で、インバウンド客の誘致や観光列車の運行などとは別に、北海道民が鉄道を利用することを前提にしたJR北海道の利用促進策について言及した。

冒頭、およそ540万人いる北海道民が1年間で1人4000円ずつJRを利用すれば、JR北海道の運輸収入が単純計算で200億円ほどの増収になり、JR北海道問題は解決すると述べ、可能な限りわかりやすくJR北海道の救済策を提示する姿勢が見られた。ちなみに、JR北海道単体の経常利益は、2018年度の通期予想で214億円の赤字となっている。

4人のパネリスト。左から高橋はるみ北海道知事、吉見宏教授、島田修JR北海道社長、北海道鉄道観光資源研究会代表の永山茂氏。4人のパネリスト。左から高橋はるみ北海道知事、吉見宏教授、島田修JR北海道社長、北海道鉄道観光資源研究会代表の永山茂氏。

また、国土交通省が公表している道路交通センサスを基に、札幌~旭川間などの主要都市間の自家用車利用者のうち、10%がJRへ移れば年間50億円程度の増収が見込めることを例示。10回に1回、鉄道を利用するという意識でもJR北海道の増収につながるとした。

岸氏は、「地域の交通は、市町村や都道府県といった地方公共団体が中心となって守る」という、2014年に国が定めた「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」についても触れた。その精神を認めつつも、札幌~稚内・網走・北見といった、東京~名古屋間に匹敵する300km超区間がはたして「地域公共交通」と言えるのかと述べ、面積が広い北海道の特殊性を考慮していない点に疑義を呈し、従来の公共交通の枠組を変える必要性を力説した。

フォーラム会場で配布されたミニ幟(左)。フォーラム会場で配布されたミニ幟(左)。

一方で、国など他者の支援を要求する点が「北海道のよくないところ」として、オール北海道で鉄道を利用する意識を醸成することがJR北海道を救う道になるとも述べた。

だってお金がないんだもん…元3セク社長が「地域力」を力説

次に、6月まで千葉県の第3セクター鉄道・いすみ鉄道で社長を務めていた鳥塚亮氏が登壇し、「おいしいローカル線のつくり方」と題した特別講演が行なわれた。

鳥塚氏は現在、NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」の理事長を務めており、冒頭、「北海道の鉄道は横綱、大関級の路線がたくさんある」として、それこそ北海道の価値と讃えつつ、これまで自身がいすみ鉄道で取り組んできたレストラン列車や国鉄型車両の導入といった事例を紹介。資金力に乏しい第3セクター鉄道の沿線住民が自ら駅の清掃作業などに従事していることを引き合いに、随所に「だってお金がないんだもん!」と語気を強め、お金をかけるのではなく、地域の手で「いまあるものを上手に使う」点を力説した。

また、ローカル線に人を呼び込むには「乗って残そう」という手法だけではなく、流動人口も増やすことが重要だとし、そのための旅行の在り方についても言及。「今の観光は非日常体験ができること」と述べ、遠い場所へ行き、その土地の美味しいものを食べるという古い旅行の概念を覆すことで、ムーミン列車などを例に、お金がない若者を呼び込む手法を説いた。

いすみ鉄道沿線の地域に人を呼び込む取組みは、鉄道会社が嫌う、いわゆる「撮り鉄」を歓迎することにも現われていたとし、好意的なメッセージや写真がSNSなどに拡散され、マスコミを含めてさらに訪れる人が増える相乗効果をもたらしたという。

このように鳥塚氏の講演は「地域の鉄道は地域が守る」という「地域力」を全面に押し出す力強いものとなり、一般参加者を唸らせていた。

少ない関係者の出席…立場を超えられない高橋知事と島田社長

鳥塚氏の講演後、高橋知事、島田社長のほか、北海道大学大学院経済学研究院の吉見宏教授、北海道鉄道観光資源研究会で代表を務める、日本旅行北海道新規事業室長の永山茂氏をパネリストに迎えてのディスカッションが行なわれた。

吉見教授は、北陸新幹線との乗継ぎ利便を高めた富山地方鉄道や富山ライトレール、古い電車を改装した「たま電車」を走らせている和歌山電鐵などの例を挙げ、地元が公共交通に関心を寄せ、事業者任せにせずに公共交通同士のつながりを向上させる努力を行なうべきであると述べた。

また、道南いさりび鉄道の観光列車「ながまれ海峡号」の立ち上げに尽力し、釧網本線を世界遺産にする運動にも参画している永山氏は、「ながまれ海峡号」を「日本一貧乏な観光列車」として例に挙げ、北海道の鉄道が優れた観光資源であることを力説。北海道の悪い点でもある「古いものをすぐ壊すこと」をせず、鉄道を文化創造の視点で見るべきであると述べた。

一方、高橋知事は北海道の各振興局で実施しているノーカーデーなどを例に、JRの利用促進に一定の効果があったとして「オール北海道で考え行動する」「みんなで乗る」ことを力説。島田社長は「地域が潤い、活性化することが大事」としながらも、リゾート型車両の沿革や、快速『エアポート』が空港アクセス輸送の4割を占めていることなどの現状を説明するに留まった。

最後はパネリストの4人が行動宣言を行なったが、高橋知事や島田社長のスピーチは、立場を超えないものに終始。従来の枠組みを変えるような、踏み込んだ点は言及されなかった。

会場は関係者と一般参加者に分けて席が設けられていたものの、一般参加者の盛況ぶりとは裏腹に関係者の参加はまばらで、個人的には、北海道の交通行政を主導する層の関心の低さを疑わざるを得なかった。仮にこのイベントが札幌ではなく、問題の渦中にある維持困難線区沿線で開催されて、質疑応答などが行なわれていたとしたら、あるいはもっと異なる展開になっていたのではないかとも感じた。

《佐藤正樹(キハユニ工房)》

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