【トップインタビュー】「2019年は新世代商品元年として牽引」マツダ代表取締役社長兼CEO 丸本明

マツダ代表取締役社長兼CEO 丸本明氏
マツダ代表取締役社長兼CEO 丸本明氏全 8 枚

就任翌月の2018年7月、西日本豪雨が中国地方を襲い、新社長には試練のスタートとなった。だが、生産の復旧に一丸で努め、かねて18年度中の投入を公表してきた新型『Mazda3』(マツダ3、日本名:アクセラ)を第1弾とする「新世代商品」の発売は計画通り、新年早くに始まる。期待の新エンジン「SKYACTIV-X」も搭載、2019年を「新世代商品元年」と位置付け、業績回復と更なるブランド強化に踏み出す。

お客様にとって「一番近いブランド」に

----:開発主査の経験(1996年当時)も踏まえ、新型マツダ3で始まる新世代商品に込める想いを。またマツダの経営で、これらの商品群をどのように位置付けていきますか。

丸本社長(以下敬称略):新世代商品群には当然、今のジェネレーションの商品群の期間でやり遂げられなかった技術を投入していくわけですね。それは開発領域の技術もあるし、生産技術領域の技術もある。今までの商品群からワンランクもツーランクもステップアップさせる商品、技術を目指していきます。それをIPM(インテリム・プロダクト・メジャー=年次改良)で評価して更に上げていく。これを将来もずっと繰り返していきますが、一括企画、コモンアーキテクチャー、フレキシブル生産というマツダのモノづくり革新と、モデルベース開発(MBD)による相乗効果を得ながら効率的、効果的に進めていくのです。

私が主査をやったころはクルマごとに、ある面自由というか、しかし技術のバックアップも余りないなかで良いものをと、商品開発を進めていた。それに比べると、今の主査は恵まれてはいますが、一方で海外の販売統括会社、あるいはお客様とのつながりをより強化していかなければならないなど、主査のありようは変わってきています。

新世代商品群導入に当たっての経営的な位置付けは、商品、技術をステップアップさせるのは当然ですが、同時にマーケティング、販売、サービス、われわれは「顧客体験」と言っていますが、お客様とマツダが接するところでのビジネスの品質を格段に上げていく必要があるので、新しい商品でそれを後押ししていきたい。そして、究極的には「お客様にとって一番近いブランド」と言われるようになりたい。そこを目指しながら続けていくということです。

----:顧客体験という観点では、まだ不十分ということでしょうか。

丸本:そうですね。商品、技術もそうですけど、限りはないということでしょう。ただ、モノづくりに比べると顧客体験というところは、マツダのなかでもまだそこには追いついていないと思っています。

走らないけど燃費がいいというのはまったく許せない

マツダは、新型SUVを近く発表、量産するという。 写真は新世代第一弾のMazda 3(北米仕様)マツダは、新型SUVを近く発表、量産するという。 写真は新世代第一弾のMazda 3(北米仕様)
----:新世代商品の先頭を切るマツダ3は、外観が17年に公開した「魁コンセプト」ほぼそのままなので、驚きをもつ人も多いと思います。

丸本:まだお披露目したのはデザインだけですけど、普段、辛口の海外メディアもかなりデザインを褒めてくれており、それに反応したファンの方々のコメントを見てみると、手ごたえを感じます。コンセプトカーの「魁コンセプト」とほとんど一緒で、コンセプトのままということは、モノづくりを担当する社員たちは多分、あの品質をバラつきなくつくれということだと受け取ったでしょうから、いい刺激になった。生産技術領域ではこれまでの商品では実現できなかったことにも色々なチャレンジをしてくれたので、とても良かったなと思います。

----:SKYACTIV-Xの燃費など注目の諸元は、いつごろ公表されるのでしょう?

丸本:国内では発表会の時になるのでしょう(笑)。どのような時代であろうと、まず走る歓び、そして魂動デザインを提供価値のトップ2に据えたい。走らないけど燃費がいいというのはまったく許せない話であり、走るというのが第1で、結果として燃費もいいというクルマづくりをしていきます。

SKYACTIV-Xはそのような機能価値をもちますが、内燃機関が大量生産され始めたのが1908年のT型フォードからなので、それから110年が経過して誰もが漕ぎつけなかったものを商品化に導いているというヒストリー、あるいはエンジニアの能力の高さ、志の高さというものもお伝えできたらなと思っています。

----:SKYACTIV-Xの展開については、すべての新モデルにとの方針ですね。

丸本:基本はそうです。

----:当初は2リットルからですが、当然、排気量のバリエーションも増えることに?

丸本:それは適切なタイミングでお話しします(笑)。

「200万台を売る」ことが大切なのではない

----:就任直後に西日本豪雨があって今期の業績に影響が出ていますが、回復に向け、第2四半期の決算発表時には来期(2020年3月期)は連結売上高営業利益率3%、利益額にして1300億円程度を目指す方針を示しています。

丸本:来年からは次期中期計画が始まります。それをどのような形で公表するかは、まだ詰めているところですが、新世代商品群を順次投入することを考え、2019年度から24年度、25年度くらいまでを見据えて社内では議論しています。そこに向けて色々投資をしていくわけだから、当然キャッシュが必要になる。ということは、営業利益をどこまで上げていくかということになるわけで、まず、その通過年としての来期という見方をしていきたい。そういったなかで厳しい期間ではあるが、やはり1300億円くらいの営業利益は、将来の成長投資に向けてやらなければならない目標だと思っています。

----:中長期の計画については18年5月に小飼雅道前社長(現会長)が、「今後の取組み方向性」として、21年度から本格的収益成長を目指すことや、21年稼働予定のトヨタ自動車との米国共同工場を踏まえ、23年度くらいにはグローバル販売が200万台規模になるとの見通しも提示しています。

丸本:200万台が販売目標ですという出し方は、私は個人的にはしたくない。台数を一番に置くと、それが必達目標になって、やがて回りを見ながらインセンティブも使い始めるようになってしまう。まずは、200万台を売れる販売力をつけなさいということです。(販売に応じ)生産はちゃんとサポートしていくが、売れる力が備わっていなかったら190万台でもいい。これまでも言ってきましたが、正価販売や顧客体験などへの取り組みを強化しながら、結果として200万台を売る力をつけることが大切であって、200万台を売ることが大切なのではありません。
マツダ代表取締役社長兼CEO 丸本明氏マツダ代表取締役社長兼CEO 丸本明氏
----:販売体制については主力市場の米国で「販売ネットワーク改革」に取り組んでいますが、今後の成長につながる重要な施策ですね。

丸本:正価販売でお客様に満足していただけるマーケティングや販売・サービスをやろうというわれわれの「ブランド価値経営」の延長線上で考えた時、今、米国はそういったゴールに向けて一番ギャップが大きい国と認識している。それはディーラーだけの責任ではありません。マツダが過去に出荷を強化してディーラーがマージンを取り崩しながら販売したこともあったし、それでもなお長期在庫があったらインセンティブを追加したことも。そうすると残価は下落するし、ブランド価値も崩壊してしまうということになるので、これはもう二度と繰り返したくないですね。

今、米国で求めているのはマツダのブランド価値経営に共感してくださり、店舗、人、トレーニングにちゃんと投資をしてくれる人です。そうした方々には、こういうマージン体系を適用しますということで18年7月から始めている。その外枠のなかには中古車販売の強化策もあり、ディーラーの経営を盤石なものにするうえでも、残価を上げるためにも重要ということで取り組んでいます。今、そのようにしてできた新店舗は47になった(18年12月時点)。全米には約550店ありますが、21年度までには300店舗くらいをそうした店にしていきたい。われわれの方針にコミットして契約したお店はすでに約250になっているので、想定より進捗はいい状況です。

増えていくトヨタとの「協調領域」

----:トヨタとの提携は、今後どのように深めていきますか。

丸本:トヨタさんとの業務提携の基本的な考え方は、経営とブランドの自主独立性は維持する。そして「協調領域」について協議を進めて行きましょうということです。今、公表している協調領域は、(EV開発の)EV C.A.Spirit社、米国工場、商品補完、コネクティッド・先進安全技術―の4項目くらいです。しかし、今日では「競争領域」だが、3年くらい後には協調領域になるものも沢山あるわけですね。そういった視点で継続的に話し合いを進めており、ネタもポロポロッと出てきているので、これらを実りあるものにしていく。そういうことが、トヨタさんとの協業関係のなかでは構造的にできてきたなという感じです。

----:なるほど、「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった変革を考えても協調領域というのは増えてきますね。

丸本:ええ、協調領域というのは変化しますよね。例えば自動運転技術での路車間通信など、これは誰が考えても競争というより、仲間づくりの方がいいというものがある。協業には色々なやり方があるでしょうが、マツダにとっては今のようなあり方が一番いいのではと思っています。一方で走る歓びと魂動デザインの深化は競争領域であり、どこまでも突き詰めて行きます。

「新世代商品元年」としてけん引する

----:米国、メキシコ、カナダによるNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しにより、新協定「USMCA」が合意されました。現地調達率を75%に引き上げるなど厳しい内容ですが、メキシコ工場やトヨタと米国アラバマ州に建設中の新工場ではどう対応していきますか。

丸本:北米の自動車の生産・販売の枠組みはNAFTAが前提なので、決裂するのでなく、まず合意できたことが良かったと受け止めています。ハードルは上がって行きますが、10年後や20年後と中長期的に考えたら、ある(高めの)レベルに行くのはあってしかるべきかなと思っている。

今、メキシコ工場の現地化率は70%弱に行っているので75%となるなら、更にいくらか取り組まなければなりませんが、まだ不透明なところも多いので、内容を確認しながら対応していきます。われわれにとってはメキシコとアラバマのシナジーをいかに最大化させるか、アラバマにおいてはトヨタさんとマツダのシナジーをいかに最大化させるかを考えていきます。

----:2019年は米中間の通商摩擦や日米間の新たな経済協議の開始など、不透明な要素が多くありますが、マツダにとってどのような年にしたいですか。

丸本:不透明な時代だからこそ、マツダの強みと独自性をぶれずに極め続けることが一番大切だと思っています。今、足元で色々あるということに右往左往するのでなく、今日や来年を見て行きたい。新中期計画の始まる年であり、新世代商品を導入していく年でもある。年内には新型マツダ3の海外での生産を始めるし、新世代商品第2弾となるSUVの量産にも着手しますので、19年は「新世代商品元年」として社内を引っ張って行きたいと考えています。

マツダ代表取締役社長兼CEO 丸本明氏マツダ代表取締役社長兼CEO 丸本明氏

丸本 明(まるもと・あきら)
1980年慶応義塾大工学部卒、東洋工業(現マツダ)入社。2代目『MPV』の開発主査を務めた後、99年に取締役となって欧州R&D事務所長などを歴任。2002年執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て13年副社長執行役員。常務時代から経営企画や財務などを担当し、歴代トップを支えてきた。18年6月に現職。中学時代はサッカー少年。広島県出身、61歳。

《インタビュアー:池原照雄(経済ジャーナリスト)/宮崎壮人(レスポンス編集長)》

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