【スバル BRZ STIスポーツ 500km試乗】グリップ走行で気持ちよさ味わえるファインチューン

スバル BRZ STIスポーツ で500km試乗
スバル BRZ STIスポーツ で500km試乗全 21 枚

スバルとトヨタの共同企画によって生まれた2ドアクーペ『BRZ』のスポーツバージョン「STI Sport(STIスポーツ)」で500kmほどドライブする機会があったので、インプレッションをお届けする。

BRZのポテンシャルを引き出したチューニング

STI(スバルテクニカインターナショナル)はチューニングやレース活動を手がけるスバルの子会社。STIスポーツは近年にブランディングが始まったシリーズで、カリカリのチューニングではなく、ファインチューンによってノーマルの持つポテンシャルをきっちり引き出しつつ、動的、静的両面の質感を上げるというコンセプト。BRZのSTIスポーツはエンジン、変速機などはノーマルのままだが、タイヤ、シャシー、ボディ、内外装など広範に手が入れられている。

テストドライブしたのは6速MTで試乗ルートは東京~伊豆半島で、総走行距離は505.0km。おおまかな道路比率は市街地4、郊外2、高速2、山岳路2。路面コンディションはヘビーウェット&ウェットとドライが半々。1名乗車、エアコンON。

では、BRZ STIスポーツの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1.磨きこまれた前輪グリップが生む、路面コンディションによらず自在な操縦フィール
2.前期モデルに対してファイナルギアが低められたことで俄然高まった加速の敏捷性
3.固いながらもそこそこ良好な乗り心地
4.前期モデルに対してエンジン音が快音系に変わった
5.ホールド性が良く、滑りも小さいシート

■短所
1.加速感の向上と引き換えに明確に落ちた燃費性能
2.騒音・振動はスポーツモデルであることを勘案してもやや過大
3.先進安全システムを欠くこと
4.自動車工学の進化でCセグメントFWDスポーツに対するアドバンテージが感じられなくなった
5.個人的な印象だが外観の陳腐化が思った以上に早く、スペシャリティ性が希薄

グリップ走行で気持ちよさ味わえる

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では、ドライブを通じて得られた印象を述べていこう。まずはシャシー・ボディ性能から。500km強という比較的短いツーリングではあったが、STIチューンを受けたBRZはその他のグレードと比較するとドライブフィールに明確な違いがあることは十分に体感できた。ステアリングをどのくらい切ったらクルマがどう動くといったクルマとの対話性は豊かで、また動きが予想の範囲内に収まるという信頼感も高い。

そのドライブフィールを生んでいる最大の原動力は、フロントタイヤのグリップ力を最大限に生かすことを最重視したとおぼしきサスペンションセッティングやボディチューンだろう。BRZとトヨタ『86』は素性的にややテールハッピーな傾向があるのだが、スバルは無理にリアのグリップを上げるのではなく、フロントのジオメトリ変化を綺麗に出すことでそれを解決する道を選んだようだ。

その効果はてきめん。このツーリングでは箱根から伊豆スカイライン界隈で路面の至るところに雨水の流れが出現するくらいの豪雨に見舞われたのだが、そのようなタイヤのグリップが非常に弱くなる環境でも、前サスペンションがもたらす姿勢変化のインフォメーションが豊かなので、ある程度のペースを守って走ることに何の不安もなかった。

ドライでもコーナリングにおけるステアリングの切り足し量とロールの増加量が比較的ぴっちり合っているのは大きな美点で、ドライビングをとてもリズミカルなものにした。タイトターンを後輪をわざと滑らせて走るような真似をせずとも、グリップ走行で十分に気持ちよさを味わえた。

タイヤは215/40R18サイズのミシュラン「パイロットスポーツ4」。タイヤの幅は今どきのスポーツ車としては細いほうだが、カタログ値1250kgの車両重量を受け止めるのには十分。また、横Gが一定値を超えたところでズルッといきなり滑るのではなく、Gの高まりに応じてグリップの逃げが高まる感触が伝わってくるのが、いかにもツーリングスポーツという感じで好感を覚えた。タイヤのセレクト、履きこなしの両面で、とても良いチューニングに思えた。

ハイチューンエンジンらしい音になった

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次にパワートレイン。排気量2リットルの水平対向4気筒と6速マニュアルの組み合わせはデビュー当初と変わらないが、フィールは2015年までの前期型と比べて激変した。出力が200psから207psに向上した効果もあるだろうが、それにも増して効いていると思われたのはファイナルギアがローギアード化されたことだった。前期型はGPS計測速度100km/h時の回転数が2400rpmであったのに対し、今回は同2700rpm弱。この10%のローギアード化で、加速フィールは言うに及ばず、ギアチェンジのつながりも良くなった。

もう1点、前期型と大きく変わっていたのはエンジン音。BRZにはエンジン音を強調する共鳴ボックスが装着されているが、前期型は“ベーン”という濁った音が強調されてしまい、耳障りでしかなかった。が、後期型では音がリファインされ、ハイチューンエンジンらしい乾いた気持ちのよい音になっていた。

ローギア化と高出力化で犠牲になったのは燃費。前期型はリッター100psをうたうエンジンを搭載するスポーツクーペでありながら、アイドリングストップなしがハンディになりにくい郊外走行ではエコカーのような燃費で走ることができていた。

今回、すりきり満タン法で2区間、燃費を測ってみたが、市街地主体の149.6km区間が10.1km/リットル、郊外・高速主体の212.1km区間が13.7km/リットル。スポーティカーとしては許容範囲ではあるし、今回のような中距離ドライブではさして問題にならないであろうが、ハイオク仕様であることを考えると、ロングドライブではちょっとお財布に痛いかもしれない。

デートドライブにも何とか使えそうな乗り心地

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室内の居住感は、スポーツクーペとしては悪くない。もちろんスペース的には狭く、ほとんど2シーターだが、前席の空間設計はいい雰囲気だ。バケットシートで支えられる部分だけでなく、ドアトリムと上腕部の位置関係なども適切で、とりわけドライバーにとっては服を着るような感覚で乗れるクルマと言える。

シート形状はノーマルと同じように見受けられたが、革とスエードでちょっとゴージャスに仕立てられていた。サイドサポートを革にすると滑りやすくなったりすることがあるが、STIスポーツのシートはそんなことはなく、機能と見た目が両立していた。

乗り心地はかなり固いほうだが、前期型のような揺すられ感の強さはなく、固いなりにフラットで気持ちが良いものだった。ロングドライブにおける疲労の蓄積度合いを測れるほどには距離を延ばせなかったが、少なくとも2014年に行った前期型ドライブの時のように体のあちこちが凝ってしまうようなことはないだろう。スポーツドライブはもちろん、デートドライブなどにも何とか使えそうだった。

ライバルはロードスターRF、輸入車勢も

BRZ STIスポーツはバカっ速いリアルスポーツではないが、サーキットなどを走るための最小限の能力を持たせながら公道を気持ちよく走ることができる軽量クーペだった。長距離を旅するのにはあまり向いていなさそうだが、休日のちょっとした遠出をより楽しいものにしてくれそうな感触はあった。

後輪駆動のライバルとしてはマツダのハードトップセミオープン『ロードスターRF』のビルシュタインショックアブゾーバー装備グレード「RS」がまず挙がるであろう。あちらは2座だが、BRZも後席はほとんど使えないので、そこはいい勝負だ。両者を同時に走らせて試したわけではないが、速さは似たようなものであろう。キャラクター的にはRSのほうがツーリング向き、よりチューニングカーライクなフィールがあるのはBRZ STIスポーツと、微妙に違いがあるので、そこが選択の分かれ道となろう。兄弟モデルのトヨタ『86』のスペシャル版「GRスポーツ」もある意味ライバルだ。

RWDにこだわらなければ、ライバルは結構増える。フォルクスワーゲン『ゴルフGTI』、ルノー『メガーヌGT』などのライトなスポーツモデルが多数存在し、また同じスバルの『WRX STI』も価格的には近い。

BRZ STIスポーツはとても良い操縦性を持っていたが、自動車工学の進歩でFWD(前輪駆動)やAWD(4輪駆動)との差異はどんどん小さくなっている。一番違いが出るのは後輪を空転させてドリフトさせるときだが、そんな運転は派手さはあっても速さの面ではかえってマイナスなので、あまり正統的な楽しみ方とは言えない。

BRZ STIスポーツは現行モデルのポテンシャル的にはほぼ完成形といえるが、次期型があるとすれば、後輪駆動自体が特徴というレベルから、後輪駆動でなければ難しい味付けの素晴らしさを持たせるようなクルマを目指していただきたいところだというのが正直な感想であった。

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《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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