「MBUX」とはメルセデスベンツが提案する新世代インフォテインメントシステムであり、Mercedes-Benz User eXperienceを意味している。
筆者は昨年、ドイツ仕様(英語版)のMBUXをテストする機会を得たが、今回は日本仕様のMBUXをテストしたので、彼我の比較も含め、その印象をレポートしたい。
MBUXでは、メーターとセンターディスプレイをフル液晶化し、“ツライチ”のフラットディスプレイにして一体化することにより、それぞれの役割を厳密に分けるのではなく、ユーザーの好みに応じて最適化・カスタマイズすることができる。確かに名前の通り、新しいユーザー体験である。
高性能タブレットのような快速UX
MBUXが初搭載された新型Aクラス(ドイツ仕様のA200)MBUXは、表示系HMIである10インチデュアルディスプレイと、入力系HMIであるタッチパネル、ステアリングスイッチ、センターコンソールのタッチパッド、および音声認識で構成されている。
このなかでMBUXのユーザー体験に最も貢献しているのは、タッチパネルが装備されているセンターディスプレイである。
日本仕様のA180センターディスプレイは、非常にレスポンスがよく快適に動作する。まるで高性能なタブレットを使っているかのような感触だ。MBUXの入力系HMIのなかでも最も頻繁に使われることになるこのタッチパネルの操作感が、MBUX全体の印象を良くしている。
そして、非常に多機能な『Aクラス』のインフォテインメントを、スマートフォン的なUIにまとめることで、スマホに慣れたユーザーを戸惑わせることなく使わせることに成功している。
日本仕様のA180具体的には、機能ごとに切り出したアプリ的なアイコンが浅い階層に並び、使いたい機能を直接タッチするUIだ。これによって、ADAS機能を含め膨大な機能数を矛盾なく実装している。
また、左右のステアリングスイッチもうまく機能している。左右で同じスイッチが並び、メーターディスプレイを右側、センターディスプレイを左側のスイッチで操作することが直感的に理解できる。親指で操作するタッチセンサーも、スマホ的UIにマッチしており迷わず使えるだろう。
日本仕様のA180反応が早く実用に足る音声認識
日本仕様のA180 そして注目の音声認識機能だ。まず感じるのは、発話してからの反応が早くストレスが少ないこと。オフラインとオンラインの動作を使い分けているとのことだが、実用上どちらか分かるほどの差はなかった。巷のAIスピーカーよりよほど素早く反応する。
特筆すべきは、ナビ関連機能だけでなく、例えばデフロスターやシートヒーター、スライディングルーフなど、車体の装備品の操作まで音声で操作できること。車両の電装品が急増している昨今、今後の発展性を感じる点だ。
日独仕様での気になる違い
日本仕様のA180ドイツ仕様(英語版)との比較という観点では、音声の認識精度および意図の理解ともにドイツ仕様のほうが優れていたことに言及したい。筆者のつたない英語であっても、英語版のほうが正確に聞き取る能力、それに対して的確な反応を返す能力は優れていた。
とはいえ、前述のように音声で操作できる範囲は広く、音声をコマンドとして覚えてしまえば便利に使えることは間違いない。
またそのほかドイツ仕様には、フロントカメラの映像にルートガイダンスの矢印などを重畳表示してナビ画面に表示するARガイダンス機能が装備されていたが、日本仕様では装備されていない。
かように日独の仕様にはいくつかの差異はあるものの、実用的な音声認識に加え、スマホ的なUIの快適さと相まって、クルマに乗った時にもれなく感じる、普段のスマホ生活との”UXギャップ”を感じなくて済むことが、MBUXならではの”ストレスのなさ”につながっている。多機能を快適に使えるUXこそ、MBUXを選ぶベネフィットと言えるだろう。