MaaS事業者をつなぐプラットフォーマー…電脳交通 取締役 北島昇氏[インタビュー]

株式会社電脳交通 取締役 北島昇氏
株式会社電脳交通 取締役 北島昇氏全 4 枚

徳島県の零細タクシー会社が、みずからの課題を解決するために開発したシステム。そのシステムは、課題を共有するその他多くのタクシー会社にとっても解決策になり得るものだった。

タクシー会社向けにクラウドベースの各種サービスを提供する株式会社電脳交通の取締役である北島昇氏に、同社が解決する課題や今後の展望を聞いた。

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中小タクシー会社の悩み


電脳交通は、中小のタクシー会社向けに、タクシー配車システムやコールセンター業務を提供し、急速にその業績を伸ばしている。

業績が好調な理由として、北島氏は、中小のタクシー会社にはある共通する課題があると言及する。

「タクシー業界全体のうち、約7割が10-15台の小規模事業者です。東京などでは大手のタクシー会社が多いのでピンと来ないかもしれませんが、全体としてはかなりロングテールな業界であると言えます。」

「そういった中小のタクシー会社にとって、売上のうち45-50%がドライバーの取り分、残りの半分で燃料費や保険料、そのほかにもいろいろな必要経費があり、さらにそのうえでシステム投資まで賄うのは難しい、という共通の課題があります。」

タクシー業界の現状(電脳交通資料より)タクシー業界の現状(電脳交通資料より)

もうひとつのポイントとして、流しですぐに拾うことができる都心部とは違い、地方においては電話配車の割合が非常に高く、75%にも及ぶ点がある。

「中小のタクシー会社では(人件費や人手不足が理由で)社長、あるいは奥さんが夜中までデスクに待機して電話を受け、無線で配車手配をする、という状況が見られます。電脳交通の創業者も、零細タクシー会社を経営するなかで、同じような悩みを抱えていました。(北島氏)」

中小タクシー会社にマッチする配車システム


人手が足りない。しかし大きな投資をするほどの余裕もない。さらにタクシー配車システムはこれまで、大手のタクシー会社を想定した大規模なものが多く、業界の7割を占める中小タクシー会社にマッチするものが無かった。

そのような状況に、クラウドベースの合理的なサービス設計によってリーズナブルな利用料金を実現した電脳交通のシステムがマッチしたのだ。

北島氏は、今後の事業成長についてこう言及した。

「地方の小さいタクシー会社のために、良質で安いサービスをどうやったら提供できるか、という想いで取り組んでおり、現在のところ14都府県で約1600台のタクシーに利用いただいています。今年度内に5000台にも届くと思います。」

タクシーの経営者が作ったサービス


電脳交通はタクシー配車システムとコールセンター業務を提供しており、必要性に応じて配車システムだけ、あるいは両方とも利用するケースがある。

タクシー配車システムは、タクシー車両に搭載される通信可能な車載タブレットと、配車する側のアプリケーションで構成される。

タクシードライバーは、タブレットで配車依頼のIP電話やメッセージを受信することができる。

ドライバー用システムイメージ(電脳交通資料より)ドライバー用システムイメージ(電脳交通資料より)

いっぽう配車する側は、配下のタクシーが一覧できる動態管理画面を見ながら配車を指示できる仕組みだ。

配車オペレーター用システムイメージ(電脳交通資料より)配車オペレーター用システムイメージ(電脳交通資料より)

「(一般的なタクシー無線と違い)タクシー車両は動態管理しているので、誰がどこに行けるのか、配車の手配がしやすくなっています。配車場所も、タバコ屋の横、スーパーの軒先など、地元のドライバーが分かりやすい言葉で具体的に指示できるようになっています。なにせドライバーも経験したタクシー会社の経営者が作っているものなので。(北島氏)」

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巨大企業から注目されるわけ


タクシーという移動手段は、ライドシェアとの競合や、MaaSの文脈において有力なモビリティでもあり、近年は話題に上がることが多い。

電脳交通は、そういったタクシー・ライドシェア関連スタートアップとは立場が大きく異なる。北島氏はこのように説明する。

「タクシー配車アプリはデマンドサイド(消費者側)が使うシステムですが、当社が提供するのはサプライサイド(事業者側)のシステムです。タクシー会社のためのものです。その点に大きな違いがあります。」

電脳交通が、JapanTaxiやJR西日本、NTTドコモ、ブロードバンドタワーなどといったそうそうたるメンバーから出資を受けていることも、その点と関係がある。

クラウドベースの配車サービスを広く提供することで、数多くのタクシー会社が同じシステムを利用している。つまり電脳交通は、タクシー業界が利用するクラウドプラットフォームを提供する側に、結果的になっているのだ。

例えばJapanTaxiは、サービスの成り立ち上、大手のタクシー会社との提携から始まっており、地方の中小タクシー会社ときめ細かく提携していくのは時間がかかる。

「数多くのタクシー会社が利用するプラットフォームを運営する当社と提携する理由が、そこにあるのではないか」と北島氏は説明する。

またJR西日本はMaaSの観点から、電車から降りたあとの二次交通をどう確保するか、という思惑がある。鉄道会社とタクシー会社が単独で実証実験を実施する事例は、これまでにいくつもあるが、複数のタクシー会社をネットワークしている電脳交通が注目されるのは当然と言える。

高層ビルからは見えなかった景色


実は北島氏は、今年2月に電脳交通にジョインしたばかり。その前は都内の一部上場企業で執行役員を務めていたという経歴だ。

徳島県のスタートアップでの毎日を過ごすうち、都心の高層ビルで、机上でビジネスを構想していた時には分からなかったことが見えてきたという。

「高齢者が免許を返納する代わりに、タクシーのクーポンを配ったら、おばあちゃんが何って言ったと思いますか?ご近所さんに、タクシーばっかり乗っていると思われたくない、と言ったそうです。あるいは、地方の人はあまり歩く生活をしていないので、バス停が少しでも遠くなるとバスに乗らなくなってしまう。ましてや高齢者の方は、バスはステップが高くて足が上がらない、乗れない、というんです。」

「そういった現場で何が起きるのかを知らずに、机上の議論に偏ってしまったという反省があります。もしMaaSを実現するなら、そういうサービスの最後の詰めをどれだけきちんと作りこめるかが重要なのに…。」

であるからこそ、MaaSを実現する段階において、モビリティの現実を知っている電脳交通が果たすべき役割があるという。

「MaaSを実現するにあたっては、目の前のお客様をきちんと見ながら、サービスを最後の詰めまで作り上げる、そういう汗臭い部分がかならず必要になってくると思います。それがぼくらの使命だと考えています。」

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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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