【川崎大輔の流通大陸】アセアンからの外国人自動車整備エンジニア その2

採用したベトナム人技能時修正
採用したベトナム人技能時修正全 5 枚

外国人整備人材を活用している、若しくはこれから活用を決めた自動車整備会社の声から、整備業界における外国人活用の現状を探り、彼らとどのように向き合う必要があるのかを見ていく。

◆外国人労働者政策の大転換

日本政府は、外国人労働者政策の大転換を行った。経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で、新たな在留資格「特定技能」を設けた。今までの単純労働者は、技能実習制度を使った事実上の就労が広がっていた。しかし今回の大転換では真正面から単純労働者の就労資格を認めた。自動車整備業も例外ではない。

背景として、整備士の若者減少に加えて、高齢の整備士の引退が始まり、2017年の有効求人倍率は3.73倍。地域的に見ると、自動車保有台数が多い愛知県及び埼玉県においては有効求人倍率が8.35倍、及び6.08倍。自動車保有台数が少ない富山県及び福井県においても有効求人倍率が6.43倍、5.77倍となっており人手不足が加速化している。

洗車をするベトナム人整備人材洗車をするベトナム人整備人材

自動車整備分野の「特定技能1号」(在留期間は5年)は、自動車の日常点検整備、定期点検整備、及び分解整備を業務として行う。当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:整備内容の説明及び関連部品の販売、清掃等)に付随的に従事することは差し支えない。「特定技能1号」の在留資格を得るにためには、自動車整備技能と日本語能力の試験に合格する必要がある。向こう5年間の受け入れ上限を7000人として運用していく方針だ。長年の労働力不足を解消できる制度として注目されている。

初めての外国人受け入れ、社内の反応はマイナス

フィリピン技能実習生フィリピン技能実習生

株式会社アマギ(小川一弘社長、神奈川県相模原市)では、11名の整備技能実習生が働く(フィリピン人5名、ベトナム人6名)。初の外国人材として2018年1月にフィリピン人技能実習生3名がアマギにやってきた。小川社長は「社内の人々が外国人を受け入れるかどうかが心配でした。ほとんどの従業員から『外国人なんかやめたほうが良い!』『外国人に技術を教えられるか!』『俺は外国人と話しをしないぞ』という声が出てました」と本音を語る。外国人を受け入れる前の従業員の反応は決して良いものではなかったという。

しかし、小川社長は外国人と接する中で強い思いを感じたという。社内の人材不足から2017年5月にフィリピンを訪問して面接。「日本と全然違う! 強いパッションを感じました。今の日本人アルバイトは10年後何をしたいという希望を持っていません。それに比べ彼にはすごいパワーを感じました」(小川社長)。更に「雇用の決定をしたとき『ありがとうございます!』と大きく真剣な声を聞き、もう彼らしかないと強く思いました。将来的に人手を担い、今の社員が楽になるという思いを感じました」と語る。面接から帰国後は、社内の従業員に外国人の必要性を、事あるごとに語り続けたという。

チェンマイの技能実習センターチェンマイの技能実習センター

受け入れ態勢の構築と採用の必要性をしっかり説明

カーコンビニ倶楽部(林社長、東京都港区)では、年に4回、3泊5日のタイ実習生面接ツアーを全国の加盟店向けに開催している。実習生事業部の責任者である花形氏は「1回のツアーで参加する加盟店様は、最近では8から10社です。1社で2名ほど採用をしていきます。当然、面接時には日本語はほとんど話せませんので、彼らの顔や態度で本気度を見ます。一度、実習生を採用された企業様のリピート率は93%と高いです」。

ベトナムの技能実習生送り出し機関ベトナムの技能実習生送り出し機関

カーコンビニ倶楽部の加盟店が実習生の受け入れ時に不安に思う点として、(1)そもそも外国人アレルギーを持っているということ、(2)外国人採用の仕組みが不明、(3)逃げたりしないか、ということ。花形氏は「直営店で実際に採用した経験をしっかりと加盟店に話すことで加盟店の不安は少なくなります。また、どのような準備が必要か、そのような手順なのか、ということを説明し採用の仕組みを理解してもらいます。特にコストはどのくらいか、ということは時間をかけて説明し、しっかりと納得していただいてから採用してもらってます」と説明をしている。更に「ノービザでタイ人が日本に入国できる現在において、実習生が逃げるというのは社長(会社)の受け入れ方法が間違っているのです」と指摘する。

外国人整備人材の働く意欲は高い。外国人を社内で育成していくためには、言葉が通じないなりに、お互いに歩み寄ることが大切だ。国によって異なる文化や習慣、宗教観などへの理解も必要になる。外国人の採用を決めるのは経営者だが、一緒に働くのは現場の整備士たちだ。不安を取り除くためには、個人への理解、そして会社内における外国人整備人材の採用の必要性・重要性を浸透させておくのは重要だ。

日本人とは違う常識、受け入れには失敗も経験

鈴木自工株式会社(鈴木将仁社長、東京都江戸川区)では、2007年から外国人整備人材を雇用している。現在、鈴木自工では、元留学生、技能実習生、アルバイトとして、合計21名が働く(2019年5月時点)。ベトナム、フィリピン、中国、ネパール、アフリカなど、その国籍も幅広い。

鈴木社長は「実際に失敗したこともあります。道具を“ポイッ”とやるのを見て工場長が怒ったことがありました。それがきっかけで『工場長にいじめられた』といって外国人がやめてしまったことがありました」と語る。「文化も習慣も違う外国人には教えてなければわかりません。日本人だったらという常識のみで、教えてないことを怒ってしまったんです。日本人と感覚が違うということを踏まえて丁寧に教えてあげる必要がありました」と、しっかりと教えてあげることの大切さを指摘する。

鈴木自工では、外国人向けにマニュアルなど作ったり、目で見てわかりやすい表示、文章だけでなく写真などもつけるよう、丁寧でわかりやすい外国人への教育を意識している。

新しい在留資格の施行は、自動車整備の業界の中にも本格的に外国人が入ってくることを意味する。すべての自動車産業にかかわる企業が外国人の受け入れの問題に真正面から向き合う時代がきたといえる。そういう意味で業界全体での制度の理解、外国人の受け入れ態勢の構築、外国人活用の情報共有ということが大きなポイントとなる。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。2017年よりアセアンカービジネスキャリアを立ち上げアセアンからの自動車整備エンジニアの日本企業への紹介をスタート。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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