【MaaS】ANA 2020年を見据えUniversal MaaS急ピッチで推進…全日本空輸 企画室 MaaS推進部 大澤信陽氏[インタビュー]

【MaaS】ANA 2020年を見据えUniversal MaaS急ピッチで推進…全日本空輸 企画室 MaaS推進部 大澤信陽氏[インタビュー]
【MaaS】ANA 2020年を見据えUniversal MaaS急ピッチで推進…全日本空輸 企画室 MaaS推進部 大澤信陽氏[インタビュー]全 2 枚

日本は超高齢・長寿命社会に直面している。SDGsでも「誰ひとり取り残さない」と掲げられているように、ハンディーキャップの有無にかかわらず、誰もが自分らしく生活できる社会の実現が待望されている。

国内には高齢者および何らかの障害を持つ人は、全人口の約3割の4000万人。その内お出かけを躊躇して、思うように移動できていない人は約800万人にのぼると推定される。海外にも目を向けるとどうだろう。日本より後発的に高齢社会、超高齢社会を迎える国は数多くある。

この移動躊躇層は数多くの課題を抱える“イノベーションの種”だ。マーケットが成熟していない分まだまだやりようがある。

このように社会課題の解決と経済性を鑑みたものが、国連の掲げる持続可能な開発目標であり、ユニバーサルデザインの考え方だ。

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しかし日本では社会受容性が欧米と比べて高くないためぽっかり空いたマーケットとなっている。

そこに対して、仲間づくりを進め活動を促しているのが全日本空輸(ANA)企画室MaaS推進部 兼 デジタル変革室イノベーション推進部デジタルテックプロモーションチームの大澤信陽氏だ。

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移動の概念を変えたい


---; Universal MaaSが生まれた背景は?

大澤氏; 私の個人的な体験と活動に基づきます。
岡山に94歳の祖母が住んでいるのですが、ひ孫に会いたいと上京を願いつつも、ためらう気持ちが先行してなかなか実現しない時期がありました。祖母は長距離の自律的な歩行が困難なため、外出時は車いすや杖を利用することが多いのですが、その場合でも飛行機の搭乗は可能であり制度も整っています。しかし、祖母は周りに迷惑がかかるからと“躊躇”していたのです。周りのサポートもあって、約3年前に上京が実現し、ひ孫との対面で満面の笑みを浮かべ、生きる証、生き甲斐を得たと大喜びでした。これを他のお客様にも是非味わっていただきたいなと思ったのがきっかけです。

もう一つ、私の住んでいる地域の話なのですが、周囲には坂が多くクルマがないと生活に支障をきたすため、運転に不安を感じている方でもなかなか免許を手放すことができません。あるご高齢の方で週に2度も自損事故を起こされたケースがあり、これはひとごとではないな、何とかしなければ、と思いました。

そんな体験がきっかけで、“「移動」の概念を変えて、誰もが自由に移動できる社会を創る!”をスローガンにした、座っていれば家から目的地までバス、電車、飛行機などあらゆる移動手段をシームレスに乗り継いでいける、イス型の“パーソナルモビリティー×自動運転”を組み合わせた移動手段・サービスを提供できないかと考えるようになりました。

それをANAバーチャルハリウッド(さまざまなアイディアの実現をめざして、業務外で提案者と賛同者が職域を超えてチームをつくり自発的に活動するボトムアップ型提案制度)で提案したところ高く評価されました。私たちのチームには、客室乗務員や地上旅客係員、整備士だけでなく、何らかの障害を持っている社内外の方々がたくさん所属しており、それらメンバーと議論を重ねていくうちに「Universal MaaS」という考え方に進化しました。こうして高齢者のみならず障害をお持ちの方、更に広い意味で移動を躊躇する方々のお出かけを何とかしたいと思うようになりました。

---; 移動を躊躇している方への社会の理解や環境整備が日本は欧米に比べて遅れていると感じています。2020年に向けて加速化するかと思っていましたがその動きも弱いと感じています。やはり多様性を受け入れることか苦手な国民性が邪魔をしているように思います。渦となって変えていって欲しいと期待しています。

“ユニバーサルデザイン”のMaaSを目指す


---; ANAで呼びかけて作るUniversal MaaSとは?

大澤氏; MaaSアプリがどこでも使えるように相互連携するといったユニバーサルではなく、移動を躊躇している方々の目線で出発地から目的地までの移動をシームレスにつなぐ"ユニバーサルデザイン"のMaaSを掲げています。また、これまでは空港から空港までの移動を中心にサポートしてきましたが、空港の前後の移動も含めたdoor-to-doorでサポートしていきたいです。

交通事業者にとって安全や定時性は非常に大切です。お客様にとっても同様です。したがって移動を躊躇している人をハッピーにするだけではなく、交通関係に従事する人やその他の利用者にとってもハッピーになるように環境を整備していきたいと思っています。

具体的に取組むことは4つ。1.データ連携 2.最適な移動手段の提供 3.インフラ整備(心、手助け、設備)4.お出かけの動機づけです。

車いすで移動する方と一緒に観光したことがあるのですが、飛行機や電車を利用するには人のサポートが必要なため、交通事業者ごとに都度連絡しないといけません。彼ら彼女らが当たり前のこととしていつも行っていることなのですが、一緒について行った私の方が疲れてしまいそうになりました。

バスに乗る際には、わざわざスロープを手動でドライバーさんに出していただかないといけないので、ドライバーだけでなく他の利用者にも気を遣います。これはお出かけシーン全般に言えることですが、トイレのために途中下車も簡単にできませんし、下車できたとしても使えるトイレが簡単には探せないのです。

このような移動を躊躇させる要因となるものを解消できるような仕組みを設計しています。例えば、利用者がある一か所に連絡するだけで全旅程の交通事業者にリアルタイムに連絡が行き届き、イレギュラー発生時にも臨機応変な対応が可能となるようなサービス提供を検討しています。

---; 世界各国回りましたがアメリカはユニバーサルデザインが一番進んでいるように思います。

大澤氏; 日本ではあまり見かけない高機能車いすに乗った人を街のあちこちで見かけます。彼ら彼女らはまったく移動に対して躊躇していませんし、恐縮することなく堂々と振舞っています。周囲も特別扱いせずに対等な関係を保っています。

アメリカは法律を含めて社会の理解があること。加えて高機能で多能な移動手段が活用されていること。そしてハード面の環境整備も進んでいます。例えば、日本ではバスのスロープは手動式が主流ですが、アメリカではドライバーが運転席に座ったままボタン一つで自動的に開閉できるスロープが標準装備されています。お客様もドライバーも皆ハッピーですね。

一方、交通事業者側の視点に立つと、そのようなハード設備の即導入が難しいという事情もあるため、必要とされるタイミングで適切な手助けをさり気なく簡単に差し出せるような代替手段が必要です。その辺りまでを考慮した仕組みづくりができれば、移動躊躇(潜在)層が移動顕在層に変わると思います。

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2020年のオリンピック・パラリンピックの各施設をUniversal MaaSで繋ぎたい


---; 今後の活動やスケジュールは?

大澤氏; 小規模トライアルを重ねていきます。2019年6月27日にANA、京急電鉄、横須賀市、横浜国大の4者で、産官学共同プロジェクトの開始についてプレスリリースを出しました。2019年は、技術検証や実証実験を繰り返し行い、秋には皆さんに披露できるよう準備を進めてまいります。今年から来年にかけて、オリンピック・パラリンピックなどのビッグイベントが目白押しですので、可能な限り早く、誰もが「移動をあきらめない世界」を実現したいです。それには皆さんのご協力が不可欠ですので是非ともよろしくお願いいたします。

私たちが実現したい世界観を点・線・面で表現すると、現段階ではまだ点で、ようやく一本の線になりつつあります。まずは前述した4者を中心にプロトタイプを作り、徐々に賛同者を増やして複数の線を重ねて面にしていきたい。そして日本全国、世界各国に広げていきたいです。

考えに共感してくれる人に参画して欲しい


---;参画条件は?

大澤氏; 交通事業者だけではなく、あらゆる業界の方々に参画していただきたいです。世の中にはたくさんのテクノロジーが存在しています。それらのテクノロジーによって移動を躊躇する方々の問題の多くは解決できるでしょう。ただし、どのテクノロジーが、どの方々にマッチするかは人の数だけ組み合わせが存在していると言っても過言ではありません。ですから、前述したような仕組みだけではなく、移動を躊躇している方々自らが自らの力で、自分にマッチしたテクノロジーを見つけて解決していただけるような仕組みも作らねばと思っています。特にファーストワンマイル(出発地~最寄りのバス停や駅)、ミドルワンマイル(駅や港、空港内)、ラストワンマイル(最寄りのバス停や駅~目的地)の短距離移動手段不足の対策は急務です。そのような私たちの考えに共感し、当事者意識を持っていただける方々であれば、皆さんウェルカムです。それこそ躊躇せずに積極的に加わっていただきたいです。

---;日本では見かけないいろいろな移動手段やテクノロジーが世界にはたくさんありますね。しかし残念ながら日本でまだ社会の理解が低く、本当に使えるためにはどうしたらよいのか皆で考える機会が少ないように思います。事故が発生したら対応するような感じかもしれません。

大澤氏; 高齢者の免許返納問題が注目されています。ある意味チャンスですのでこのタイミングを逃さず、可能な限り共感者を集めて世の中の動きを変えていきたいですね。

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《楠田悦子》

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