【MaaS】バスドライバー不足とMaaSへの期待、連携して地域の“移動の総量”を上げていく…西日本鉄道株式会社 経営企画部 課長 阿部政貴氏[インタビュー]

【MaaS】バスドライバー不足とMaaSへの期待、連携して地域の“移動の総量”を上げていく…西日本鉄道株式会社 経営企画部 課長 阿部政貴氏[インタビュー]
【MaaS】バスドライバー不足とMaaSへの期待、連携して地域の“移動の総量”を上げていく…西日本鉄道株式会社 経営企画部 課長 阿部政貴氏[インタビュー]全 1 枚

トヨタ自動車がMaaSアプリ「my route(マイルート)」の実証実験のパートナーに選び称賛する西日本鉄道(西鉄)とはどんな会社なのか。西日本鉄道の経営企画部課長 阿部政貴氏に聞いた。

西鉄グループの事業は運輸部門、都市開発・不動産部門(賃貸と宅地開発)、国際物流、流通・スーパーマーケット、ホテル・レジャーの構成で、なかでもバス事業の比率が大きいグループだ。

昔、福岡には鉄道・路面電車の会社が5社走っていた。昭和17年ごろに戦時統合でその5社が一緒になり西鉄ができた経緯がある。もともとは鉄道系の会社で福岡は鉄軌道が発達せず路面電車がカバーしてきたが、モータリゼーションで路面電車も廃線となり、バスに置き換わっていった。そのため西鉄のバス事業は大きくなっている。

福岡はバスのネットワークが面的に広がっていて、街の中まで乗換なしでアクセスできるニーズに応えてきた。福岡の在住者の間でもバスは使いやすいと評判だ。

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中心街と郊外のバスネットワークのバランス

---:福岡の中心街の天神は、非常に活気のある街です。一方で鉄道沿線の郊外は駅を中心に商店街があり、非常ににぎわいがあったのですが、郊外にショッピングセンターができはじめ、40~50年前に開発した駅も衰退と老朽化していて、なかなか活性化できない。昭和のにおいを残しながら建っているだけの状況になっている。第三の都市久留米も駅前が衰退してしまっていると、まちづくりの課題をうかがいました。

バスの課題は?

阿部氏:バス交通は全国的に利用者数を減らし、収益が減った分をバスの乗務員の賃金を調整しながら耐えてきた歴史があります。ここにきて、クルマを使う人の減少や、若い人のクルマ離れがあり、バスの利用者の減少に歯止めがかかってきています。

バスの需要があるにもかかわらず、魅力ある待遇を提示できていなかったので乗務員のなり手が不足している状況にあります。需要があるのに供給ができない課題が一番大きな課題だと思います。

福岡市内には鉄道、バス、徒歩、自転車など移動手段の選択肢がたくさんあります。しかし郊外は移動手段の選択肢が非常に少ないです。会社の事業としては収益性が低いものの、郊外のバス事業をやめてしまうとバスネットワーク全体が痛んでしまいます。バスなどの公共交通サービスの供給を圧倒的に増やすことは今後難しくなります。しかし今後も変わらず公共交通を提供する役割を果たしていかなければなりません。

そこでバスネットワークの中心である福岡市内のバスの本数を、他の移動手段のサービスを提供している方々と連携しながら、少し削って郊外に充てることができないかと考えています。そのためにもmy routeなどのMaaSという仕組みをうまく使って、モードをうまくつなげていきたいと思っています。

デジタルを使った見える化と最適化が大切

---:西鉄がこれまでやってきたことは?
阿部氏:福岡はバスのネットワークが面的に広がっていて、福岡の方は街の中まで一本でアクセスできるニーズに応えてきた歴史がありました。郊外で必要なバスが、街の中心部に集中し供給過剰になりがちです。これまでは郊外の路線をやめたり地域の補助金を頼りにコミュニティバスに変えたりしてきましたが、このような対応では先細りするだけですので、中心部のバス路線を大きく削って、副都心的なところを新たな拠点にして乗り換えさせるようなことをしています。

このような考え方に基づき街の中心部の路線を大きく削りましたが利用者数は減りませんでした。乗換える際に100円分のポイントを渡したり、朝のラッシュ時は直接街の中までアクセスできるようにしたりして配慮したりしています。

西鉄グループの交通系ICカード「nimoca(ニモカ)」 で利用者の流れは追っています。ICカードの利用者を可視化し、バス路線のダイアを引く担当者にできるだけ上質な情報を与えてスムーズにバスネットワークを調整するツールを活用しようとしています。福岡の街の中はたくさんバスが走っているので、人間のアナログではバスがどこを走っているのか、人間で追うには限界があり、それを見える化する必要があります。

このような取組みにより必要なバスの乗務員の数を劇的に減らすことが出来ないかと考えています。

いま西鉄の外にあるビックデータの解析にも取組んでいます。将来的には他の移動手段で移動している人のデータを組み合わせたり、天候情報など移動に変化が起こりうる要素を考慮するなど他のオープンデータと組み合わせて、より良いものを作りたいと思っています。さらにはAIを組み合わせて、ある程度機械が提案してくれるものを作りたいと思っています。

このようなシステムは福岡だけのためだけではなく、できれはいろんな方々に使っていただけるように開発していきたいと思っています。

---:交通系ICカードの導入をしても、決済機能が中心で、利用者の流れを追えていないところが多いのではないでしょうか。西鉄の取組みは一歩先を行っているように思います。

my routeとの連携がうまくいったのも、トヨタの担当者も言及していましたが、御社のこれまでのまちづくりの取組み、地域の移動手段の質を下げない努力やIT活用などの土台があったからでしょう。

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MaaSは“おでかけのきっかけ”“つなげる道具”

---:西鉄風に言うとMaaSとは街づくりの観点からは “おでかけのきっかけ”だとうかがいました。ではバス事業の観点からは?

阿部氏:“いろいろなものをつなげる道具”にしたいと思っています。日本ではこれまで公共交通は民間が担ってきたので、移動手段同士が競争をしてきた歴史があります。しかし乗務員不足、バス事業は利益が出ないなど競争している場合ではない状況になってきています。交通事業者が各々で解決するのではなく、みんなが少しずつつながりあう。そうすると新しいものができるのではないでしょうか。まずは“ハブとなる組織や仕組み”を形成して、my routeという道具を使ってつなげていく。お客様不在の事業者間競争で利用者を遠ざけないということを事業として考えていかないといけないと思います。

ハブとなる組織や仕組みが大切

---:ハブとなる組織や仕組みをどのように作るのでしょうか?

阿部氏:交通事業者間でコミュニケーションをしながら形成していく必要があります。ハブの形成目的ではなく、日ごろからのコミュニケーションを大切にしていくべきだと思います。

これまで福岡都市圏は鉄軌道が強くないので、西鉄一社でバスを軸に採算路線、不採算路線の両方を含めて、ネットワークを形成しようとしてきました。これからは西鉄は運賃などを含めて“つながる道具”“つながる交通体系” を作って、大きな移動で強いところがあるなら任せていく、小さな移動はバスではないものに変えていく、小さな移動を担っている事業者と組んでいく、なければ作っていく。バスだけですべてにコミットすることはやめて、濃淡をつけていきたい。そのためのハブを形成する必要があると思っています。

自治体や国が構造をおさせている欧州と違って、おそらく日本の状況を見ていると、自治体や国がハブをつくることは難しく、民間の交通事業者がハブを形成したいという気持ちにならないと難しいとおもいます。民間事業者が外とつながることを試行して、便利な道具を使っていくことが大切だと思います。

地域の民間交通事業者が連携して“街の移動の総量”を増やす

民間事業者間で顧客を取り合って、すり減っていてばかりではいけないと思います。地域の事業者みんなで移動の総量、分担する形もあってよいのではないでしょうか。いきなりは理解されませんし、ハブを作っていけません。しかし連携していくマインドを作ることが非常に大切だと思っています。

バス事業者をはじめ他モードとの連携の話を、人口減少やドライバー不足などで環境がもっと悪化する前にしないといけないと思っています。それを民間の交通事業者がまず理解することが大切だと思います。

---:収益の分配はどのようにするのでしょうか?

my routeは既存の西鉄のグループ内で使えるワンデイパスを入れています。my routeには入れていませんが、福岡市内の公共交通はすべて使えるパスも既存にあります。

そして九州にはSUNQパス(サンキューパス)があります。九州や山口県下関市周辺の高速バス、一般路線バスのほぼ全線が乗り放題となるフリーパスチケットです。利用できるバス路線数は約2,400路線にものぼり、一部の船舶でも使えるようになってもあります。SUNQパスの収益の分配方法は、利用者の数をモニタリングする期間を決めて、利用者の数をカウントして、データをとって分配しています。事業者間の信頼関係が非常に大切になります。利用者の数をカウントする方法は、乗務員がカウントするアナログな方法だからです。

このような仕組みをmy routeなどのデジタルアプリに載せることは、課題はあるにせよ、お客様の利便性向上においても、作業効率化においてもありだと思います。そして移動手段だけではなく、ここにまちづくりへの活用の要素を加えることが重要だと思います。

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《楠田悦子》

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