【ホンダ N-VAN 800km試乗】ライバル不在!あふれる“ホンダらしさ”が商用バンを変えた

ホンダ N-VAN +STYLE FUN・ターボ Honda SENSING
ホンダ N-VAN +STYLE FUN・ターボ Honda SENSING全 23 枚

ホンダが2018年夏に発売した軽商用バン『N-VAN』で関東~東北南部を800kmほどドライブする機会があったので、インプレッションをリポートする。

N-VANはホンダが展開している軽自動車「Nシリーズ」に属するモデルとしては唯一の商用車。ハイルーフボディで1900mmを軽く超えるフォルムはあたかもダイハツ『ハイゼット』やスズキ『エブリィ』のようなキャブオーバーバン(座席下にエンジンを置いた後輪駆動ベースのワンボックスバン)を思わせるが、実際はFWD(前輪駆動)プラットフォームを使って作られており、区分上はスズキ『アルトバン』などと同じボンネットバンという、ちょっとユニークな存在だ。

ドライブしたのは0.66リットルターボ64ps+CVTのハイルーフモデル。ドライブルートは東京を出発し、北関東の渡良瀬、宇都宮から福島浜通りのいわき、浪江町へ。そこから阿武隈山地を越えて中通りの二本松から東北自動車道および国道4号線で東京へ帰着するというもので、総走行距離は822.8km。道路比率は市街路2、郊外路4、高速2、山岳路2。1~2名乗車で、貨物は載せていない。エアコンAUTO。

では、N-VANの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 遊びなど不要という世界のビジネスバンにデザイン性、ファッション性を持ち込んだ新奇性。
2. サイドピラーレスドア採用で荷室へのアクセス性が抜群に良い。
3. 商用ワンボックスとしては望外に良い燃費。
4. ホンダセンシングを搭載するなど安全性への配慮が充実。
5. 一般的な商用バンに比べて格段に低床設計で、荷物の積み降ろし性は良さそう。

■短所
1. 最大積載量付近まで荷物を積むとウェット路などではトラクション不足になると予想される。
2. 荷室を1列目までフラットにできるが、人と貨物の併載性は『バモス』に遠く及ばない。
3. 乗り心地はキャブオーバーバンを大きく凌ぐが、遮音性は一般的な商用車レベル。
4. 床面積は広い半面、定型貨物をびっちり積むような配送車的用途ではライバルに劣る。
5. 助手席、後席の居住性は悪く、あくまで“おひとりさま”用。

ホンダらしさあふれる思想の独自性

ホンダ N-VAN +STYLE FUN・ターボ Honda SENSINGホンダ N-VAN +STYLE FUN・ターボ Honda SENSING
N-VANは久々に“ホンダらしさ”を濃密に帯びたクルマだった。そう感じさせられたのはクルマの技術や運動特性ではなく、商用車といえば積載性と耐久性一点張りの白バンという画一性に対するアンチテーゼという、思想の独自性であった。

昨年12月に開催された自動車のカラーのコンテスト、「オートカラーアウォード2018」で、ホンダはN-VANで移動花屋のデモを行っていたが、それがなかなかお洒落な雰囲気を醸していた。同コンテストでグランプリを獲得したのもむべなるかなという感があった。

実際のドライブでは荷物を満載してみたりしたわけではないが、商用車として何を大事にし、何を捨てるかという取捨選択が明瞭で、かつその視点が独特であることは十分に感じられた。まず捨てた分を挙げると、最大積載量350kgに近い重量物を積んだときのトラクション、荷室形状のスクエアさによる定型貨物の収容効率、Bピラーレス構造採用によるヘビーデューティー環境での耐久性。

Bピラーレスによる大開口部。乗用車ではダイハツ『タント』などの採用例があるが、商用車では初。Bピラーレスによる大開口部。乗用車ではダイハツ『タント』などの採用例があるが、商用車では初。
それと引き換えに得たものは、1ボックスキャブオーバーバンではちょっと見たことがない荷室の床面の低さ、巨大な側面開口部を設置したことによる荷室へのアクセス性の良さやカーマルシェなど用途の多様化、FWDプラットフォームを使ったことによる燃費の良さ、キャブオーバーでは不可能な1~3列目全通式の荷室等々。

N-VANはキャブオーバーバンと同様、最大積載量350kgだが、みんながみんな350kgの荷物を積むわけではない。たとえば前述の花屋などは、室内容積は必要だが重量的には小さい。つまり、N-VANは1ボックス=フリートユーザーという固定観念から離れ、そうでないものを求める顧客もいるのではないかということで商品企画を立て、それを市販にまで持っていったニッチさがホンダらしいのだ。果たしてそれは今のところ大当たりで、今年も販売は月平均4000台超のペースで推移している。商用車でロクな成功体験がなかったホンダにとっては、まさに新境地と言えるだろう。

N-BOXほどの滑らかな乗り味ではないが

では、実際のツーリングフィールを簡単に紹介していこう。まず長距離走行時の操縦性、安定性だが、基本的には性能十分で、とくに直進性についてはキャブオーバータイプとは比べ物にならないくらい良かった。試乗車は重心が高いハイルーフボディだったが、ドライで空荷の状態ではコーナリングも思いのほか安定していた。

FWD商用車の弱点らしきものが出たのはウェットコンディションのワインディングロードで、タイトコーナーの中間で意図的にスロットルペダルを強く踏んでやると、フロントのトラクションが失われ気味になりやすかった。貨物スペースに重量物を積んでいるとその傾向はさらに増すであろう。ただ、駆動以外の要素については安定性は高いので、低ミュー路において急発進、急加速をしたりしなければ、大きなネガにはならないのではないかとも思われた。

タイヤは商用車用のブリヂストン「エコピア R680」。内圧は前280kPa、後350kPaと、乗用車よりずっと高く、パンパンである。タイヤは商用車用のブリヂストン「エコピア R680」。内圧は前280kPa、後350kPaと、乗用車よりずっと高く、パンパンである。
乗り心地は軽乗用スーパーハイトワゴンの『N-BOX』のように滑らかな乗り味というわけではない。重量物の積載に耐えるサスペンションセッティングが要求されるうえ、タイヤも145/80R12という小さいサイズの商用車用ラジアルのブリヂストン「エコピアR680」を2.8kg/cm2、後3.5kg/cm2と、乗用車用タイヤより格段に高い内圧で使うため、当然ハンディはある。それでもトラック構造のキャブオーバーバンとは一線を画する良さで、運転席に座っている限り、800kmツーリング程度であれば十分に受忍限度の範囲内だと感じられた。

動力性能は貨物積載時の負荷を考慮して最終減速比がN-BOXより低められている(エンジン回転数が全般的に高くなる)ことが効いていたのか、2名乗車+空荷では十分以上に俊足だった。CVTもいかにも最新のホンダの変速機という感じで、制御はとてもナチュラル、応答性も非常に高かった。

経済性の高さがN-VANの大きな武器

燃費については最終減速比が低い商用車仕立てということでさすがに落ちるであろうと予想していたのだが、実際のドライブでは燃費計測区間777.7kmで合計給油量34.75リットル、トータル燃費22.4km/リットルと、軽乗用スーパーハイトワゴンとそう変わらない数値を示した。今回のドライブでは市街地走行が2割どまりで燃費面で有利だったということはあるが、それでも長くて重い後輪駆動用プロペラシャフトを持つキャブオーバーバンだととてもこうはいかない。この経済性の高さはN-VANの大きな武器になろう。

車内は運転性だけがまともなエルゴノミクス設計を持ち、後は助手席、後席とも単なる腰かけというシート配置。運転席は簡素ながら上下方向に寸法的な余裕のあるFWDということもあってクッション厚などがしっかり取られており、多少の長時間ドライブであれば疲れとは無縁だった。

リアシートのスペースは狭くはないが、シートクッションは薄く、あくまでエマージェンシー。リアシートのスペースは狭くはないが、シートクッションは薄く、あくまでエマージェンシー。
それに対して助手席、後席は完全にエマージェンシー。ためしに助手席に約100km、後席にも短距離座ってみたが、どちらももちろん窮屈。ただし、このクルマの場合、最初から物置レベルであることを覚悟の上で乗り込んだためか、思ったほどストレスを感じなかった。窮屈さもこのクルマの特質として楽しむ心の余裕を持てば、案外大丈夫な気もした。

先進安全装備はホンダお得意の「ホンダセンシング」が付く。渋滞追従など高度な機能は付いていなかったが、仕事運転中の安全性はシティブレーキのみのクルマに比べて格段に高いであろう。ヘッドランプのハイ/ロー自動切換えも装備されており、世の中も進んだものだとあらためて思った次第。

単独ドライブ中は車中泊も試してみた。1列目から3列目までを全通フラットにし、寝袋にくるまって寝てみたのだが、身長170cmくらいだとまったくの余裕だった。ただし商用車であるため、床面は平らではなく金属プレスの凸凹を感じる。荒っぽい環境での就寝が苦にならない筆者は構わず安眠したが、デリケートな人はキャンプ用のマットを持ち歩いたほうがいいだろう。

1列目助手席までを倒して全通荷室としてみた。長尺物の積載性は随一。1列目助手席までを倒して全通荷室としてみた。長尺物の積載性は随一。

ライバル不在か

まとめに入る。N-VANは単なるNシリーズのバンタイプかと思いきや、ヘビーデューティでないコマーシャル用途の世界を楽しく彩る、なかなかクリエイティブなクルマだった。また、商用ではなく個人ユーザーが趣味のトランスポーターとして乗るのも十分ありであるように思われた。最近キャンピングカーが一部で流行っているが、この室内容積を生かしてバンコン(車体をそのまま流用し、内装だけをカスタマイズするキャンピングカー)を作るのも面白いかもしれない。

商用車としてのライバルはダイハツ『ハイゼットバン』、スズキ『エブリィ』のキャブオーバー2強。プラス三菱自動車『ミニキャブバン』/日産『NV100』だが、実際の軽商用車市場の動向をみるとボンネットバンのN-VANが非運送業のユーザーを中心にキャブオーバー市場を広く浅く食っている格好で、用途を巡って直接競合しているわけではなさそう。クルマを使って楽しくディスプレイしたい、あるいはお店の商品を持っていくクルマにも洒落感が欲しいといったニーズではボンネットバンの競合モデルが出てくるまではN-VANが独占状態になるだろう。

個人ユーザーで大荷物を運びたいというニーズにもN-VANは有用だが、2名+荷物という使い方だと助手席が観光バスの補助席状態なのがネックになる。返す返すも、2名ないし4名+荷物という移動への適性が究極に優れていた往年のホンダのリアエンジン1ボックス『バモス』がいかに名車だったかということに思いを致さずにはいられない。ちなみにそういう貨客コンビのユーティリティでは落ちるが、N-VANのロールーフは外観の雰囲気だけはちょっぴりバモス的である。

ホンダ N-VAN +STYLE FUN・ターボ Honda SENSINGホンダ N-VAN +STYLE FUN・ターボ Honda SENSING

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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