ラストワンマイルへの挑戦…WHILL株式会社 品質本部 執行役員本部長 堀出志野氏[インタビュー]

ラストワンマイルへの挑戦…WHILL株式会社 品質本部 執行役員本部長 堀出志野氏[インタビュー]
ラストワンマイルへの挑戦…WHILL株式会社 品質本部 執行役員本部長 堀出志野氏[インタビュー]全 3 枚

高齢者の免許返納などが社会課題となっている。そんななか現代社会の実情に応じた移動手段のソリューションが足りていないのではないか。WHILL株式会社品質本部執行役員本部長の堀出志野氏に聞いた。

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歩行領域のイノベーションが途上

---;原体験は?

ラストワンマイルへの挑戦…WHILL株式会社 品質本部 執行役員本部長 堀出志野氏[インタビュー]ラストワンマイルへの挑戦…WHILL株式会社 品質本部 執行役員本部長 堀出志野氏[インタビュー]

堀出氏;大きく2つあります。通学時に歩行領域のイノベーションが発展途上にあると感じたことと、また親戚が体がだんだん動かなくなる病気にかかったことです。人の手を借りずに、自分でしたいことができる、行きたいところに行ける環境をつくることはQOLの向上に寄与すると強く感じました。

高齢化が進み高齢者が増える中で、移動に不便を感じている人は多いのではないでしょうか。日本の後期高齢者1748万人のうち過半数の約900万人が500メートルを超えて歩行することが困難だと考えているというデータがあります。

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私たちは、多くの人が「頑張って」歩いているか、頑張って歩くことに不安を感じていると考えています。行ったら帰ってこないといけないので、出かける勇気が出ず引きこもってしまっていたり、もしくは、自分でむりやり自動車を運転していたりする人もいると思います。

---;運動機能が低下していても代替する移動手段がないのと、自分で歩くより楽なので自動車や自転車に乗る高齢者をたくさん見かけます。

堀出氏;大学の時から福祉工学の勉強をしていますが、現在の社会に応じた適切な移動のソリューションが提供できていないと考えています。WHILL(ウィル)はその間を埋める乗り物のポジショニングになっていると思います。

---;欧州ではいろいろな速度の電動車いすがありますね

堀出氏;日本の電動車いすは道路交通法により時速6キロに制限されています。しかしイギリスでは時速12キロまで出してよい電動車いすのクラスがあるなど、条件を満たせば速度の速い車いすにも乗れるようになっています。時速6キロは、早歩きと同じくらいの速度なので、もう少し速ければ、という声も少なくありません。

「車いすユーザー」の位置付けが広がってきている

---;ウィルで創業時から参画されて最近感じることは?

堀出氏;ウィルは2012年に創業しました。ミッションは“すべての人の移動を楽しくスマートにする”こと。2011年の東京モーターショーで発表したのは、手動の車いすを電動化するユニットでした。創業にあたって、私たちが解決すべき課題は車いすユーザーだけのものなのかと考えたところ、移動に困難を抱えているのは車いすユーザーだけではないと気がつきました。

創業から7年経ち、「車いす」の位置付けが広がってきていると感じています。従来、電動車いすというと“重度の障害を持った人が使うもの”とうイメージがありました。実際、生活の中で電動車いすに乗ったことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。しかし最近では電動車いすがより“気軽に出かけるためのツール”として捉えられる場面が増えてきており、新しいイメージの醸成ができつつあると感じます。

---;ウィルさんが、日本における電動車いすを気軽に出かけるツールへ受け入れられるようにイメージの転換に貢献されたと思います。

市場が温まり、新しいモビリティとして捉え始められた

堀出氏;ウィルのユーザーは7割が高齢者です。社会的な背景として、高齢自動車ドライバーによる悲惨な事故などがあり、代替モビリティとして電動車いすが、従来であれば必要ではなかった人にとっても有用なものというイメージができています。

また国の施策やメディアにおいても、ウィルのようなモビリティを高齢者向けの乗り物として捉え始める風潮ができてきたようにも感じています。

---;販路については変化はありますか。

もともと、日本での販売ルートは主に2つあります。1つはレンタルです。介護保険を用いたレンタルが主流で、介護卸事業者に購入していただいて、エンドユーザーの方にレンタルしていただくかたちです。2つめは販売です。レンタルと同じく介護卸事業者、またもともと電動車いすを扱ってこなかったパリミキなどのチャネルでも販売していただいており、最近はモビリティとして捉えていただき、自動車ディーラーなどでの取り扱いも拡大しています。

また、海外でも展開しています。現地の代理店がエンドユーザーに販売していて、現在は、北米とEU地域がメインとなっています。アメリカではオンラインでも販売しています。EU地域ではオランダに現地法人WHILL Europeという会社を立ち上げていて、イギリス、フランス、イタリアなどに販売しています。

また、個人向けのレンタル、販売だけでなく、公共の場所や、空港など広い場所でのシェアリングなども視野に入れ、ウィルをMaaSの文脈でも活用する動きも加速させています。

このようにプロモーション、プロダクトなどさまざまな点において、「すべての人の移動を楽しくスマートにする」という私達のミッションを実現するための準備が整ってきており、今年や来年がMaaSのスタート地点にあるのではないか、という感覚を持っています。

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ラストワンマイルの課題解決に貢献したい

---;MaaS事業について教えてください

堀出氏;飛行機、電車、バスのようにモビリティをサービスとして提供していることがMaaSと捉えるとすれば、電車やバスなど既存の交通機関を降りてからのラストワンマイルに課題を抱えている方に対して、あまりソリューションがない状況だと考えています。最終的には公道を、まるでインフラのように走行できることが理想ですが、まずは施設内などでの実証から開始しようとしています。

施設側が電動車いすを購入して配備することになると利用者の安全を施設が担わないといけません。施設として導入する場合は、自動停止機能について必ずといってよいほど要望があります。また、車いすの回収の人手などをへらすための自動運転機能も重要です。なかでも、乗客に対しての車椅子プッシュサービスを提供している空港では、サービスを要望される方が年々増えているという背景もあり、ウィルのようなモビリティに対する明確なニーズがありました。

そこで、自動運転や自動停止の機能をつけたウィルを用いて、空港でシェアリングサービスをはじめようとしています。

またシェアリングでは慣れている人が使用するわけではないので、はじめて使う人にも使えるようにする必要があります。通常の販売であれば1週間レンタルしてもらったり、納品時に1時間かけて練習してもらったり、ユーザー自身が家の敷地内などで練習したりしてから公道を走ることが可能ですが、シェアリングのユーザーは、その場にやってきてすぐ乗る方々に乗ってもらうことになります。そのようなユーザーに対してどう対応するのか、ユーザビリティの点でも、さまざまな工夫が必要になってきます。

社会の理解とインフラとの協調

---;課題に感じていることは?

堀出氏;ウィルの商品は低速の数キロ圏内用の移動手段で、乗ればとこでも行けるわけではないので、電車、バスなど他の移動手段との連携が必要になります。また、将来的に自動運転モデルが実用化し、たとえば建物内をウィルが走行するようになる、エレベーターやセキュリティシステムなどのインフラとも協調する必要があります。

---;自動走行に関する課題は?

堀出氏;技術的な課題はもちろんですが、法整備も課題となっています。電動車いすは、道路交通法上は運行させている人が歩行者という扱いです。しかし無人で電動車いすが自動走行している場合の法的解釈については結論がでていません。

またラストワンマイルにもさまざまなバリアがあります。段差、階段などの分かりやすいバリアに加え、歩行者や自転車などが通行する道路で安全に利用できる環境を広めていく必要があります。そしてユーザーのみならず、家族や社会も、小型のモビリティの挙動、走る場所、止める場所、入っていい店舗などを理解することが大切です。

このようにさまざまな課題はありますが、ウィルは、ミッションとして「すべての人の移動を楽しくスマートにする」を掲げ、またそのためのハードとソフトを兼ね備え、実際にお客様にプロダクトを届けている、他にはない立ち位置の会社です。ウィルというプロダクト、サービスを通して、歩道・室内領域の移動にイノベーションを起こしていきたいと考えています。

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《楠田悦子》

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