電動キックボードの会社ではない。自治体や官庁との対話、公共交通との調和役…Luup 代表取締役社長 岡井大輝氏[インタビュー]

電動キックボードの会社ではない。自治体や官庁との対話、公共交通との調和役…Luup 代表取締役社長 岡井大輝氏[インタビュー]
電動キックボードの会社ではない。自治体や官庁との対話、公共交通との調和役…Luup 代表取締役社長 岡井大輝氏[インタビュー]全 3 枚

電動キックボードのシェアリングや、Luup社調べでは世界初のシェアリング用高齢者向けの低速電動モビリティを開発した2018年7月創業のLuup(ループ)はどんな未来を描こうとしているのか。ループ代表取締役社長の岡井大輝氏に聞いた。

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電動キックボードの会社ではない

---;ループは電動キックボードのシェアリングを推進する会社というイメージがついています。しかし、どうやら違う世界観をお持ちのようですね?

LuupLuup

岡井氏;そうなんです。電動キックボードのシェアリングのイメージがついてしまっていますが、私たちが目指したい世界観は、“電動・小型・無人のモビリティ”の“シェアリング”サービスを提供して“すべての人に移動の自由”を届けたいと思っています。

一般の方に加えて、ターゲットとしているのが“障がいのある方、高齢者、外国人観光客”です。この3つのターゲット層へのサービス提供は、費用や人手がかかるためか、これまで一般的に避けられてきた傾向にあります。最近は随分バリアフリーが進んだり、外国人観光客に対する受入れ体制が整ってきたりしていますが、それでも鉄道はわかりにくいですし、まだまだ思うように外出しにくい状況になっています。せっかく海外から観光客がやってきても、オーバーツーリズムの問題に対応できておらず、経済活性の最大化につながっていません。

LuupLuup

---;デジタルの技術を使えば、もっといろいろなサービスが提供可能なはずですね。

岡井氏;3つのターゲット層は、車両の所有が難しい層でもあります。またレベル5の自動運転の実現までにはまだまだ時間がかかりそうです。IoTの技術革新やスマートフォンなどの普及で、小型電動モビリティと個人をつなげることが容易になったので、そういった所有を前提としないサービスを、うまく使っていくとことが現実的なのではないでしょうか。

自転車に乗れないのに、1~3km先のスーパーに自動車で行く高齢者の方をたくさん見てきました。しかし、このような人に対する適切な移動手段やサービスがないので、危ないですが自動車で移動するしかない状況です。このように高齢者や障がいのある方が安全に移動できる環境やサービスをつくる必要があります。

約30年前までは、おそらく電動よりも人力の方が安全だったかもしれません。IoTが発達した今日において、本当に人力の方が安全なのでしょうか。IoTの技術をうまく使えば、適切な言語や方法で「このエリアは危険だ」「進入禁止」などと伝えることも可能です。そして遠隔で速度を制限させたりすることも可能なのです。自転車が事故を起こす場所はだいたい決まっているわけですから、そのデータを活用できればと考えています。

---;交通事故の多い交差点や学校などの周辺は自動車側の速度制御もすればよいと思っていますが、まだできていませんね。

電動小型モビリティのMaaS

---;現在、御社はどんな事業を行っていて、将来的にはどんな役割を担っていきたいですか?

岡井氏;まず、機体の製造に関して、自社で日本に合った要件を企画し、工場にOEMで依頼する形で自社製造しています。これを、企業内でご活用いただいたり、普及に向けた実証実験を行ったりしています。

自社製造している理由は、シェアリング用の電動小型モビリティを製造してくれるメーカーが日本国内にないからです。BMW、VW、アウディも電動キックボードを作っているので、本当は日本のメーカーにも国産を作って欲しいと思っています。安全な車両の製造は、私たちよりも国産メーカーの方が長けています。

メーカーの方々にはよい車両を作ることに注力していただきたい。ループの役割はその車両がすぐにシェアリングサービスの中で溶け込んでいけるようなプラットフォームの作成と、自治体や官庁、公共交通との調和を図ることだと思っています。なので、弊社は各地域の企業や地元の方々と直接対話ができる実証実験を最重視します。

---;ループは電動小型モビリティのMaaSのプラットフォームをつくり、プラットフォーマーとサービスプロバイダーになろうとしているわけですね。

岡井氏;シェアリングのプラットフォームをつくったり、サービスプロバイダーになるだけではなく、自治体、警察などあらゆる地域の方々とのコミュニケーションやハレーションの調整も一括で請け負ってしまおうと思っています。地域とメーカーの“懸け橋” になりたいのです。

メーカーが製造したものを購入してシェアリングサービスを提供する側に回りたいと思っていて、二輪・四輪メーカーなどと密に話を続けています。

日本においては鉄道と自動車が圧倒的に便利です。したがって、ループが考える電動小型モビリティのMaaSも最終的にはこれらの中に取り込まれていくのだと思っています。

自治体との調整、既存の公共交通との調和は絶対

岡井氏;絶対はずせないことは自治体の調整と既存の公共交通の調和です。ループはすべての人に移動の自由を提供したいと考えていますが、ループが手掛けようとしている電動小型モビリティのシェアリングは、オンデマンド性と、時期を適切に見極めて届けるには適していますが、大量輸送に向いていません。

私たちは既存の公共交通などのサポート役、つまり鉄道、駐車場、バス、目的地などの伸びしろをつくることだと思っています。これまでつなぐことが難しかった移動手段を、小型で、電動で、無人なシェアリングサービスで有機的につなぐことができれば、ラストマイル、ファーストマイル、ミドルマイルの伸びしろをつくることができるのではないでしょうか。そうすればMaaSの形がレベルアップするのではないでしょうか。

デジタルの技術をうまく使いつつ、既存の公共交通などの移動手段がカバーできない余白をしっかり埋めていきたいと考えています。

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官庁との対話

---;自治体と話そうと思われたのはなぜですか?

岡井氏;1つは、IoTは技術的には何でもできますが、地元の課題が分からないためです。既存の調和を図るためにも、街ごとに異なる課題を把握する必要があります。そのためにも自治体や官庁と連携することが最適解だと思いました。

そして世界的なライドシェアや自転車シェアサービスの動向を見てみると、自治体を無視した結果、破綻してしまったケースが目立ちます。「競争」という市場原理を持ち込んではいけないと思っています。

---;公共交通の移動手段のサービスは社会インフラで、海外の多くの都市では公共交通に税金を投入しているような市場において、市場原理を持ち込むとその生態系が共倒れしてしまう状況になってしまいます。

岡井氏;自治体と一緒に作り上げることが、社会インフラとしては重要です。そして人の命を預かり、100年残るインフラを作るためには、安全面については官庁と対話を進めていく必要があるかと思います。

電動キックボートを原付扱いにするのは危ない

---;岡井氏が会長を務める国内の電動キックボード事業者(mobby ride、ヤフー参加のZコーポレーションmymerit)を中心に2019年5月に設立したマイクロモビリティ推進協議会とは?

岡井氏;国内の電動キックボード事業者を集めて設立した業界団体です。法規制ではカバーできない部分の安全基準や、保険加入などの事業者向けのガイドラインを作成したりしています。また、現在は電動キックボード事業者のみですが、マイクロモビリティ事業者にもどんどん加入いただきたいと考えています。ちなみに、法規制ではカバーできないと言いましたが、電動キックボードはいま原動機付自転車扱いになっています。ただし原付として走行させるのは現時点では安全性が確認できていないため、危険だと我々は考えており、原付でない形を想定して実証実験を実施しています。

---;原付として走行するためには、ナンバープレート、ミラー、運転免許証、ヘルメットが必要ですね。

岡井氏;その上で、電動キックボートを原付として走行させる場合、時速約20km未満で車道を走ることになります。しかし周りの自動車との速度のミスマッチが激しく、かつ路側帯などに入れないため、狭い道などで自動車と接触の危険がある場合に逃げる場所がないことが問題です。

ゆっくり歩く人が通る歩道に速度の速い原付が入れば危ないのと同様に、自動車が速く走る車道に、最高速度の遅い電動キックボードが走行するのは危険だと考えています。

これについては、1社だけが声を上げていても仕方がありません。これも「マイクロモビリティ推進協議会」を作った目的の一つです。協議会の参加者においては、電動キックボードを原付と捉えるのは現時点では安全の確認がとれておらず、危ないとの見解で一致しています。この協議会に入っている企業は、共に関係省庁に対して対話を進めていく仲間と捉えおり、同じ方向を向いて動けています。

この協議会の業界団体でいま行っていることは、実証データを全事業者で収集することです。電動キックボードをはじめとする電動マイクロモビリティは、どこをどういった条件で走行すれば安全なのかについて、関係省庁と話し合うためです。

電動キックボードは日本でも急速に増えつつありますが、現行制度のまま原付自転車として普及してしまうと、車道だけしか走行できず危険です。しかし、法律改正には時間がかかることも認識していますし、歩行者との調和も考える必要があります。そのため、車道以外に路側帯も走行できる「軽車両」に位置付けるということを早急にご対応いただけないか、政府に対して提案しています。なお、将来的には、通行区分など、電動キックボードの特質にふさわしいルールをきめ細やかに設定するため、新たなカテゴリーを設けることが理想的です。

---;海外ではどのような法整備が行われているのですか?

岡井氏;ドイツもイタリアはもともと法律に該当するカテゴリーがなかったため、電動キックボードの走行が禁止されていました。しかし、今年法改正が行われ、一定のルールの下で認められることになりました。

ドイツは速度制限が時速20kmで、14歳以上は運転免許もヘルメットも不要で自転車道と車道そして指定された歩道での走行が可能です。保険の加入は必要です(2019年5月に法制度が改正され6月に施行)。

イタリアは速度制限が車道では時速30km、自転車道が時速20km、歩道は時速6km。14歳以上は運転免許、ヘルメット、保険の加入も不要です。

他方、既存の法律でも走行できたために急速に普及した国もあり、こうした国では様々なトラブルが生じて規制が強化されたケースもあります。例えばフランスです。つまり、海外では、規制緩和・強化ともに事例がありますが、規制の「適正化」に向けた議論が活発に行われています。日本においてはまだ議論が始まったばかりですが、適切な制度に向けた議論を行っていく必要があると思います。

---;無人の自動運転の実装まで時間がかかる中、自転車、原付、電動キックボードなどのカテゴリーは潜在的な需要が非常に高いと感じています。新しい使い方、デザイン、ライフスタイル提案、社会との対話など、さまざまな角度から期待しています。

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《楠田悦子》

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