マツダのSUVは本格オフロードも走れるか? CX-8、CX-5、CX-30でその実力を試す

マツダ SUV オフロード試乗会
マツダ SUV オフロード試乗会全 34 枚

マツダという名前から、オフロードやダートをイメージする人は少ないのではないだろうか。その昔WRCに参戦していたこともあったけれど、現在は断然レースシーンのイメージが強い。スポーツカー、スポーティカーの開発や操縦性の解析に積極的に取り組み、国産メーカーの中でも特にスポーツ色を強く打ち出している。加えて、近年のマツダは、スタイリッシュで洗練されたデザインを前面に押し出していて、人気のSUVでも泥やほこりが似合わない。

そんなこともあって、マツダとダート、オフロードはなかなかイメージが結びつきにくい。現在マツダ車に採用されている4WDは、i-ACTIVE AWDはと呼ばれるもので、前輪駆動車をベースに後輪へ駆動を分配し(パワーテイクオフ)、リヤデファレンシャル直前に電子制御式の多板クラッチ(4WDカップリング)を配置する、いわゆるオンデマンド式の4WDだ。駆動トルク配分もメカニズム上は100対0から50対50となっている。

オンデマンド式というと、フルタイム4WDと比べ格下に見られがちだが、マツダのi-ACTIVE AWDは、20個以上のセンサーを駆使して、前後駆動配分を積極的にコントロールするもので、その緻密で的確な制御はオンデマンド式の中で最も優れたシステムといっていい。

加えて、2019年の商品改良(『CX-5』は12月、『CX-8』は10月)でいくつかの商品改良に加え、オフロード・トラクション・アシストが追加された(『CX-30』は標準装備)。そのスペックを実証すべく、オフロード試乗会が行われた。試乗車はCX-8、CX-5、CX-30。この3車種を使って、モーグルコース(CX-8)、ヒルクライムコース(CX-5)、オフロード林間コース&オンロードワインディング(CX-30)で走らせることができた。

対角のタイヤが浮き上がるモーグルコースもクリア…CX-8

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モーグルコースはCX-8で試した。写真のように互い違いに凹凸が並べられた路面。4WDが最も苦手とする対角のタイヤが浮き上がった状態を作り出すことで、オフロード4WDの走破性の能力を見ることができる。それ以前にアプローチアングルとディパーチャーアングル、ランプブレークアングルが不足していると、鼻先やリヤバンパー、フロアがつかえてしまう。オーバーハングの飛び出しや車高も走破性を高める重要な要素となっている。

CX-8で感心したのは、最低地上高200mmを確保していること。SUVなら当たり前と思われるかもしれないが、操縦安定性を考えれば、車高は低いほうが有利。ましてオンデマンド式の4WDなので、本格オフロードはまず走らない、となればなおさらだ。最低地上高に余裕があるので、ランプブレークアングルが十分確保できていて、腹を擦ることとなく突起をクリアすることができる。

タイヤの対角が浮いた状態になると、ノーマルモードではタイヤが空転して前に進まなくなる。ところが、オフロード・トラクションモードに入れると、絶妙に空転するタイヤにブレーキがかかり、トラクションを発揮してくれるのだ。じつは、このモードに入れても、タイヤが空転してしまい前に進みにくい状態になってしまうことがあった。やはりトラクション性のが低いのか? …と思ったのだが、試乗車には、標準装着のオンロード用パターンのタイヤが装着されていた。横溝が極端に少なく、オンロード向けのタイヤだった。テストコースでは、もっと凹凸がキツイ(脱出しにくい)路面でもテストしているそうで、このオフロードでのトラクションがまったく望めないタイヤでクリアできるようにセッティングしているとのこと。

逆にタイヤを見てオフロードでのトラクション性能に驚かされた。だからといって標準装着のタイヤでオフロードを走り回るのはあまりお勧めできない。もしオフロード走行に興味があるならオフロード系のタイヤを履けば、走ることのできるフィールドは飛躍的に広くなりそうだ。

大きな石の突起や凹みがあるヒルクライムコースもグイグイ登る…CX-5

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ヒルクライムコースはCX-5でチャレンジした。CX-5はスタイリッシュな外観に似合わず(?)ロードクリアランスが210mmもある。しかもサスペンションストロークもSUVとしてはかなり長く取られている(フロントバンプ80mm/リバンプ80mm、リヤバンプ70mm/リバンプ85mm)。このストロークがヒルクライムでの接地性、トラクション大きく関わってくる。

多板クラッチの摩擦を使っているので4×4のようにユルユルと極低速で急坂を登ると、4WDカップリングユニットの発熱が大きくなるので、多用は出来ないが、数度なら軽々と急坂を上って見せる。タイヤがCX-8同様オンロード用パターンのタイヤであったにもかかわらず、驚くほどのトラクション性能を見せ坂道をグイグイ登っていくのだ。もちろん登り坂はフラットではなく、大きな石の突起や凹みがある本格的トライアルコースの急坂。あえて勢いを付けずゆっくり登ってみると、タイヤの空転に、瞬時に強すぎない的確なブレーキをかけている様子が伝わってくる。人がコントロールするよりはるかに繊細で、しかも4輪バラバラに制御している。改めて電子制御の偉力を実感させられる。

コース内にある、水が流れて深く掘れた凸路も余裕で乗り越えることができる。車高の高さが飾りやデザインではなく、性能としてちゃんと機能している点が頼もしい。2.2LのSKYACTIV-Dの粘り強い低中回転トルクと、軽々と吹き上がる軽快なエンジン特性がトライアルコースでも走りやすさを高めていたことを付け加えておきたい。

林間コース+ワインディングも緻密な制御で快適な走り…CX-30

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林間コースはCX-30で試乗した。『マツダ3』をベースにしたSUVて、最低地上高も175mmと3台の中では低め。その分オンロードでの乗り心地が素晴らしく良いのが特徴だ。一般道に走り出てみると、腰高感は全く感じられず、感覚的には普通の乗用車に乗っている感覚で走ることができる。特に感心させられたのがリヤの乗り心地だ。車高を高くした車は押しなべて突き上げが強く出やすいが、サスペンションアームの角度が良いのか、バネ/ショックの取り付け方法がいいのかとても快適。

操縦性も素直の一言で、Gベクタリングコントロールの効果もあるのだろうが、ハンドル操作に対してクルマの動きがスムーズで、気持ちよくカーブを走ることができるのだ。ドライバーが気持ちよいだけでなく、クルマの動きがぎくしゃくしないので、助手席や後席に乗る人も必要以上に体を揺すられないのがいい。

林道でも良好な走破性を見せてくれた。路面の凹凸をきれいに受け止め乗員を揺すらない。急坂の上り下りもオフロード・トラクション・モードをオンにすれば楽々。特筆絵うべきは上り坂で進路変更をしようとハンドルを切った時も接地圧の抜けたタイヤをブレーキが上手にフォローして空転を抑え、ズズズッ…ノーズが横に流れそうな(滑ってズレそうな)場面でも、何事もなかったかのように走り切ってくれること。というか、そういう制御をしてくれていることをドライバーがわからないくらい制御が緻密なのだ。メーカーが真剣に4WD制御に取り組むと、ブレーキ制御や前後駆動配分をここまで繊細・緻密にコントロールできるのだ、というのを改めて感じることができた。

従来のi-ACTIVE AWDが苦手としていたのが急坂での登坂だったが、オフロード・トラクション・アシストを採用することによって、苦手をかなり克服していると感じた。もはやオンデマンド4WDは、簡易型4WDではなく、その性能も十分に期待できるものに進化している。i-ACTIVE AWDの登場はその大きな転換点といえるくらい大幅な性能アップだったが、オフロード・トラクション・アシストの採用で、さらに走破性を高めている。

エンジンは1.8LのSKYACTIV-Dで、パワー/トルクとも2.2Lより控えめだが、1500~2500回転あたりのトルクが充実していた。オンロードでは、それでも絶対的なパワー感、トルク感でやや見劣りするように感じたが、林道を走らせてみると、低中回転域のトルクが充実しているので、非力な印象はなかった。あえて注文を付けるとすれば、ヒルディセントコントロールか、スキー場の長い下り坂モードがあると、ユーザーにとってはうれしいかもしれない。

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《斎藤聡》

斎藤聡

特に自動車の運転に関する技術、操縦性に関する分析を得意とする。平たくいうと、クルマを運転することの面白さ、楽しさを多くの人に伝え、共有したいと考えている。そうした視点に立った試乗インプレッション等を雑誌及びWEB媒体に寄稿。クルマと路面との接点であるタイヤにも興味をもっており、タイヤに関する試乗レポートも得意。また、安全運転の啓蒙や普及の重要性を痛感し、各種セーフティドライビングスクールのインストラクターも行っている。

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