2020年自動車業界回復の道筋は?…日本政策投資銀行 産業調査部 高柿松之介氏[インタビュー]

2020年自動車業界回復の道筋は?…日本政策投資銀行 産業調査部 高柿松之介氏[インタビュー]
2020年自動車業界回復の道筋は?…日本政策投資銀行 産業調査部 高柿松之介氏[インタビュー]全 1 枚

2019年、ゴーンショック、テスラモデル3のブレーク、米中摩擦など大きく揺れた自動車業界だが、2020年も、トヨタがCESで企業主導のスマートシティ構想を発表し、ソニーはショーケースモデルながら走行可能なEVを発表するなど、スタートから大きな動きもみられる。

さらに、CAFE規制の次のマイルストーンである2021年も迫っている。グローバルでの自動車産業、その中での日本の位置づけはどうなるのだろうか。1月27日にそれを展望するセミナー「CES2020と自動車市場」が開催されるが、スピーカーの一人、日本政策投資銀行 産業調査部 高柿松之介氏に聞いた。

――セミナーではマクロな視点で自動車産業の現状と今後についてお話をいただくのですが、昨年までの自動車産業の振り返りをどうみているのでしょうか。

高柿氏(以下同):2018年から続く国内自動車販売台数の減少は、2019年もマイナスで着地するのはほぼ確実です。世界的にみても自動車業界をとりまく環境は苦しい状況といえます。世界市場での年間自動車販売台数も9500万台で足踏みまたは減少が続き、1億台達成まで、あと2、3年必要ではないかと言われています。

――グローバルでも厳しい状態が続く原因はなんでしょうか。

国や車種、あるいは分野によって細かく精査する必要はありますが、全体としてはやはり米中の貿易摩擦の影響が大きいと思っています。影響はおととし後半から顕在化し始めていました。中国で小型車の補助金が終了したことと相まって、減速の幅は予想以上でした。

欧州は新しいCAFE規制への対応と、中国ショックの影響がありました。中東・アジアは政情不安、通貨下落、インドのプライベートバンクのデフォルトなどが景気の下押しにつながっています。

全体として厳しい状況の中、北米は、その他の地域にくらべてここ数年、例外的に底堅い動きを示しています。ピークアウトはしているのですが、ピックアップトラックの人気は続いており、大きな変動もなく安定しています。懸念材料は、足もとでインセンティブの比率が再び上昇していることです。依存度が高まるとキャッシュバックなどの辞め時、落としどころが難しくなります。日本メーカーは、モデルチェンジの戦略とタイミングが要になりそうです。

――日本の国内自動車産業についてはどうでしょうか。

日本は、上期に各社の新車投入が活発でラインナップも充実していたと思います。消費増税については、税制対策により、駆け込み需要が抑えられる半面冷え込みも抑えられると見られていたのですが、足もとはやや落ち込みが大きいという印象です。

しかし、海外市場では、中国の減速にかかわらず、ハイブリッドの再評価など日系メーカーが善戦していました。サプライヤーの再編も進みましたので、今後、パワートレインの多様化で強みを発揮できると期待しています。

――2020年以降の自動車産業はどうでしょうか。展望について教えてください。

昨年までは少し厳しい状況が続きましたが、回復の兆しも見えています。中国市場も落ち込みがありましたが、中国自体の市場ポテンシャルはまだ高いものですし、先行きは減速の幅が緩やかになることも期待されます。各分野の落ち込みは一周した可能性があります。2020年には底を迎え、徐々に回復へ向かうこともありえると思います。

欧州をみても、Brexitに関する不透明性はやや低下し、各メーカーとも以前よりリスク対応しやすい状況となっています。中国の自動車市場が回復に向かえば、欧州の経済動向にもプラスの効果が期待されます。

状況が見通せないのが、アジア・中東ですね。巨大市場のインドがデフォルトのショックから、オートローンが組みにくくなっていたり、根本的な消費者マインドが奮いません。中東も情勢が安定しないので、楽観的な予測がしづらい状況です。

アジア新興国、中東などは、ある意味市場をけん引してきた部分もあるので、ここの伸びしろが見通せないと、全体としては若干厳しいと見るべきかもしれません。

――2020年は日本も同様とみていいでしょうか。

はい、市場の見通しは楽観的ではありません。一方、自動車の技術トレンドに見るプラス材料は、自動運転関連の規制緩和とオリンピックでしょう。トヨタはCESでスマートシティ構想を発表しました。こうした将来を見据えた事業者の動きについては、前向きに評価されることが期待されます。

CASEに関連して、メーカー、サプライヤーともに、国内外企業との再編が加速しています。今後も、提携や合併など業界再編がさらに加速すると思われます。

――トヨタの話が出ましたが、モビリティ革命やMaaSについてはどう見ていますか?

弊行では、MaaSを自動運転とそれをとりまく各種プラットフォームを合わせたものと定義しています。この視点では、現在のMaaSについて、今すぐに収益化できている事業はないと思っています。MaaSでは、それでどう稼ぐかではなく、どう生かすか、が戦略のポイントです。

生かすというのは、具体的には他産業、他サービスとの連携です。もっと掘り下げると、データの活用です。移動データ、購買データはサービス連携の要ですが、日本の場合、個通カードの整備が早く、データが閉じた形になっています。同様に自動車メーカーのデータも、まだ各社がバラバラで収集・活用している段階です。

ポイントは、これらをどうビジネスや収益に生かすかです。そのための電子決済も重要でしょうね。シンガポールMaaSでは、モビリティサービスに閉じることはせず、上位のサービス基盤として「スーパーアプリ」という考え方で臨んでいます。

ビジネスとしてどう成立させていくかで、今後のMaaSの広がりが決まってくるのではないでしょうか。

1月27日のセミナー「CES2020と自動車市場」では以上の論点について、具体的な数字などをお見せしながら話そうと思っています。

《中尾真二》

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