モビリティのDXは人流よりも物流のインパクト大…ローランド・ベルガー パートナー 小野塚征志氏[インタビュー]

モビリティのDXは人流よりも物流のインパクト大…ローランド・ベルガー パートナー 小野塚征志氏[インタビュー]
モビリティのDXは人流よりも物流のインパクト大…ローランド・ベルガー パートナー 小野塚征志氏[インタビュー]全 1 枚

ロジスティクスの最先端動向に詳しく、「ロジスティクス4.0~物流の創造的革新~」の著者でもあり、経営戦略コンサンディングファームのローランド・ベルガーでパートナーを務める小野塚征志氏に聞いた。

小野塚氏は、 2月18日開催セミナー「MaaS×物流」の最前線に登壇し、新たなプラットフォームビジネスを創造するにあたっての3つの方向性を解説する。

5~10年遅れの日本の物流

小野塚氏:日本は、米国や欧州、中国に比べて、物流でのイノベーションが5年から10年遅れていると言われています。その理由は、日本のユニークな国柄にあります。

日本では、商品そのもの品質のみならず、段ボールなどの包装部分でも高い品質が求められます。また労働生産性が高いため、人がイレギュラーに対応したり、ベテランに任せるような属人的な部分で差別化を図ってきた歴史があります。そのため、物流のシステム化が遅れています。

他国では商品そのものに支障がなければ段ボールなどの箱が痛んでいても気にしません。多言語、多文化であるため、どんな人が作業しても同じように仕上がるように標準化を進める必要があります。地域によっては、ロボットやシステムが自動的に行った方が、セキュリティ的にもよい場合があります。このように物流の"省力化"や"標準化"が進みやすい環境があります。

---:省力化や標準化が進むとどうなるのでしょうか?

小野塚氏:日本の物流は、トラック運送会社が約6万社あり、下請け、孫請けといった慣習が残る労働集約型産業です。

しかし、省力化、標準化が進むと人手が必要なくなってきます。例えば、荷物を輸送するためには、これまではトラックとドライバーが必要でしたが、自動運転トラックの活用が進むと、トラックとドライバーがセットになった自動運転トラックを借りることができるようになり、荷物の量に応じて資本を投入すればよい様になります。このように物流は労働集約型から資本集約型へと変わり、”装置産業化”へのパラダイムシフトが起きるでしょう。

また物流の世界でも、旅行代理店のように物流を手配する日本通運、郵船ロジスティクス、近鉄エクスプレス、DHL、キューネ・アンド・ナーゲルといったフォワーダーが数千社あります。

旅行業界で、楽天トラベルやエクスペディアなどのプラットフォーマーの出現により、プレイヤーの構図がガラリと変わったような破壊と創造が物流業界でも起こると考えています。もし旅行業界のように、標準化によるデジタルマッチングが進めば、既存のフォワーダーは新たなデジタルフォワーダーにとって変わられる可能性もあります。

サプライチェーン全体の再構築が進む

さらに、デジタル化によりサプライチェーンの全体を見直す企業が出てくるかと予測されます。各種のメーカーを始めとする荷主企業は物流だけを行っているわけではありません。物流はサプライチェーンの中のごく一部です。開発、製造、営業、物流といったサプライチェーンを見直し、"モノ売り"から"コト売り"へとさらにシフトして行くことでしょう。

注目は自動運転時代の商用車メーカーの動き

---:自動車メーカーで注目している会社はありますか?

小野塚氏:自動運転時代の商用車メーカーの動きに着目しています。

自動運転時代になると、メンテナンス不良による事故リスクを減らすために、商用車メーカーはレンタルでトラックを貸し出すようになるでしょう。荷主企業としては、物流コストを落としたいので、必要な時に必要なトラックを借りることができるようになるため、助かるわけです。

このようにトラックやロボットを作っていたメーカーがサービサーになる。物流会社がTaaS(Truck as a Service)やRaaS(Robot as a Service)に代わるといった、商用車メーカーの新たな成長の機会がめぐってきています。

変革は2030年頃までは既存の産業の中で

---:どのようなスピードで変わるのでしょうか?

小野塚氏:劇的に変わるわけではありません。2030年頃までは既存の産業の中でのイノベーションが進むと見ています。2040年頃からはプレイヤーが変わる戦いが繰り広げられるでしょう。

また人手が物流で不要になることはありません。2040年以降ですら人間がその一部をサポートするような関係にあるでしょう。

物流はGDPに比例

---:人口減少化社会の地方の暮らしはどうなるのでしょうか?

小野塚氏:「過疎が進むと商品が届かなくなるのではないか」と言った質問をよく受けます。しかし物流市場は一般的にGDPに比例すると言われ、需要が減れば供給も減るといったように最適化されると見ています。

また人手不足の部分をロボットが補ったり、物流を含む新たなサプライチェーンの構築など、デジタルの活用により、今と同じくらいのサービスレベルを担保していることでしょう。

働き方改革、デジタル化などで、自宅で過ごすことは今後ますます増えます。その個人消費の情報を得るために、GoogleやAmazonなどが普及に向けた取組みを進めているのがスマートスピーカーです。在宅で受けるサービスの中でも変革が大きい分野は医療でしょう。

日本ならではの勝ち方
ロボットと人間が共に働く"協調型"

---:イノベーションが起こりにくい日本ならではの勝ち方はないのでしょうか?

小野塚氏:過去の学びとして、日本は他国で発明された技術を改良することに長けています。欧米や中国などの動きをウォッチし、取り込んで行く方法も一つの戦略でしょう。欧米などの海外で起きていることは、5~10年後に日本で起きるため、その動向をつかんでおくことは得策です。

また、個別対応力に優れた労働生産性の高い人間と、人と共に働くことのできるロボットが織りなす"協調型"を追求することで、他国よりも高い次元のロジスティクスを実現できる可能性があります。これは人とロボットの仕事の領域を分断して考える欧米や中国などでは真似し難いシステムでしょう。

小野塚氏が登壇する 2月18日開催セミナー「MaaS×物流」の最前線はこちら。

《楠田悦子》

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