新型コロナウィルスに「オンライン診療」が活用できないジレンマ【岩貞るみこの人道車医】

長野県伊那市で実証実験中(3月から実用化を予定)の、オンライン診療車両の車内に設けられたテレビ診察システム。病院にいるドクターの顔(写真はダミー)がはっきり見える。
長野県伊那市で実証実験中(3月から実用化を予定)の、オンライン診療車両の車内に設けられたテレビ診察システム。病院にいるドクターの顔(写真はダミー)がはっきり見える。全 4 枚

新型コロナと遠隔医療

新型コロナウィルスによる、日本での感染が拡大している。

厚労省では、
・風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く人
・解熱剤を飲みつづけなければならない人
・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある人

など感染が強く疑われる人は、最寄りの保健所や、各都道府県に設けられた帰国者・接触者電話相談センター(連絡先は都道府県別)に連絡するよう促している。

オンライン診療車両。伊那市では、看護師などの医療従事者をのせて、患者の家をまわる。モネテクノロジーズとフィリップスジャパン、伊那市がタッグを組む。オンライン診療車両。伊那市では、看護師などの医療従事者をのせて、患者の家をまわる。モネテクノロジーズとフィリップスジャパン、伊那市がタッグを組む。

なかでも、高齢者や、持病(糖尿病、心不全、呼吸器疾患=COPDなど)がある人や、抗がん剤を用いて免疫力が低下している人は、4日も待たずに2日くらいで連絡せよという。

それ以外については、電話相談窓口(0120-565653。9時00分~21時00分、記事執筆時)で相談を受け付けている。

車内のようす。車椅子の患者にも対応できる。車内のようす。車椅子の患者にも対応できる。

近くの病院に行っても、今は確定できる検査もできないし、治療できる方法もないばかりか、菌をばらまきかねないため、電話窓口で相談を受け付けるというのは正しいやり方だろう。

「オンライン診療」が使えれば

車内には、心電図や血圧計、血中酸素飽和濃度などが測れる医療機器がのせられる。車内には、心電図や血圧計、血中酸素飽和濃度などが測れる医療機器がのせられる。

けれど、ネット上には「電話がつながらない」「つながってもアルバイトが出て、ロクな助言が受けられない」という不安からくる不満の声を多くみかける。

早期治療開始できれば重症化しないですむのなら、早く医師の診察を受けたいと願うのは、人間として当然の感情だろう。もしも私がいま70歳ならば、運転免許の返納問題では「まだまだ若いから大丈夫。」というけれど、新型コロナにいたっては「高齢者だから、早く診察して!」と大きな声で懇願するに違いない。

今、多くの人たちは不安のなかにいる。

そこで活用できればいいのにと、心の底から思うのは、オンライン診療である。いわゆる、テレビ電話での診察だ。

これなら、家にいながら受診でき、病院で菌をまき散らすこともない。電話相談窓口でシロウトに応対をされるよりも、よっぽど信頼できる。心の平穏具合は雲泥の差だろう。

自動車業界では、過疎地の高齢者が病院に行く足を確保するべく、自動運転の研究開発が続けられている。でも、オンライン診療ができれば、(通院に限っていえば)自動運転の出番は減る。寒い雪の日に高齢者が家から出なくていいし、発熱を押して病院まで行く必要もないのだ。

実際、オンライン診療は、一部地域や診療機関ではすでに始まっている。実証実験ではない。本格運用だ。ただ、一般化するには多くの課題がある。

なにより、今回の新型コロナでは使えない。初診は不可だからだ。

求められるのは過疎化対策だけではない

今の法律では、医師と患者の信頼関係ができていなければ、オンライン診療は使えないことになっている。使っていいのは、3か月以上通院している患者。つまり、慢性疾患ということになるだろう。

そのほか、いざってときにすぐに医師が駆けつけられるよう、30分以内に会える範囲じゃないとダメと決められている。ドクターヘリの取材でお世話になり、信頼するドクターたちがいる日本医科大学千葉北総病院で私を診てもらいたいと願っても、どうがんばっても1時間以上かかる。この時点でアウトである。

さらに薬は、薬事法がからんでいる。医師は処方箋は出せるけれど、薬は、薬剤師が服薬指導をして手渡ししか認められていない。一部、離島や過疎地は除外されているというけれど、ほとんどの地域では不可なのである。

そのほかにも、あれこれオンライン診療を一般化できない法律がたくさんあるのだが、もっともこれは、テレビ電話でちゃらっと診察しまくって薬をどんどん出しちゃう悪徳医師を排除し、医療の質を保つためという理由なのだから仕方ない。ただ、今回の新型コロナに直面すると、もう少し、臨機応変に対応してもらいたい。過疎化はもちろん、こうした感染症に対しても、オンライン診療が上手に活用できる日が早く来ることを願ってやまないのである。

そして私たちは、今はパニックになることなく、新型コロナに対する正しい情報を入手し、正しく恐れて対応するしかない。

うがい、手洗い、がんばりましょう!

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

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