OEMが考えるMaaS:顧客を主語とした地域と業界の持続的発展…ダイハツ コーポレート本部 副本部長 谷本敦彦氏[インタビュー]

OEMが考えるMaaS:顧客を主語とした地域と業界の持続的発展…ダイハツ コーポレート本部 副本部長 谷本敦彦氏[インタビュー]
OEMが考えるMaaS:顧客を主語とした地域と業界の持続的発展…ダイハツ コーポレート本部 副本部長 谷本敦彦氏[インタビュー]全 1 枚

ダイハツの軽自動車は、福祉関係の特装品・架装車が豊富なことで業界では定評がある。車両だけでなく、介護施設向けの運行管理プラットフォームサービス「らくぴた送迎」も運営している。OEMが提供するモビリティサービス、シェアリングサービスのひとつといえるものだが、らくぴた送迎の特徴や狙いについて聞いた。

対応してくれたのは、ダイハツ工業株式会社 コーポレート本部 副本部長の谷本敦彦氏。らくぴた送迎は、介護福祉車両のオプションの延長という見方も可能だが、話を聞くと、OEMならではのモビリティ革命への社会的戦略が見えてきた。

谷本氏は、 3月25日開催セミナー「CASE・MaaSの最前線」に登壇し、ダイハツの福祉介護MaaSへの取組みについて講演する。セミナーはオンラインでも開催する。

――さっそくですが、「らくぴた送迎」を始めた経緯やその目的についてお話いただけますか。

谷本氏(以下同):らくぴた送迎は、介護福祉施設の送迎車両の配車、ルートなどの運行管理をするプラットフォームとスマホアプリです。ドライバー、介護士など限られたリソースの中、効率的なスケジュールで車両運行を最適化するソリューションです。ダイハツの福祉関連事業のひとつとして始めたものです。

サービス開始のきっかけは、2014年、私が海外赴任から戻ったときに次の事業を考えているときまで遡ります。当時、最初から福祉やMaaSをやろうという発想はなく、ダイハツとして何ができるかから考えました。ただ、介護福祉車両の領域は、ダイハツの得意分野のひとつでしたので、当時の介護福祉法改正もあり、この領域での新規事業の調査を始めました。

まず豊中市の介護施設100か所くらい、ひとつひとつに足を運び、困りごとを聞いて回りました。その中の課題からダイハツにできることを模索していったわけです。

――どのような課題があったのでしょうか。

改めて認識したのは、福祉車両に力を入れていた割には、事業者との接点がなく、販売店のケアも十分ではなかったことです。2015年には、介護施設・事業者専門の部隊を作り、サービス網を広げていきました。

この部隊は、ディーラーや特装車両室、法人事業部、プラットフォーム部隊と業務横断のプロジェクト型の事業として現在も続いています。現在、全国7万あるといわれている介護施設のうち3万ほどのデータを持っています。データは営業支援だけでなく、現場の要望を取り入れた各種介護装備オプションなど、車両開発にもフィードバックされています。

しかし、ここまでは、まだ自分達のビジネスの話です。顧客視点で介護施設のさまざまな課題も浮かび上がりました。

例えば、道路が狭かったりルートの関係で、送迎サービスの車が家の前まで来てくれない。時間通り来ない。といった問題があります。施設側は、人員や予算的に厳しくても送迎サービスをなくすことはできません。車両を増やせばサービス品質は上がりますが、間接コスト、ランニングコストが経営を圧迫します。

1日2回、数時間の送迎だけでは専任ドライバーを雇うことは難しく、スタッフや介護士が兼用することで、本来の介護サービスのリソースも食われてしまいます。

この問題については、旅客運送業界では車両管理システム、運行管理システムというソリューションが存在していましたが、介護施設やその送迎に特化したものがありませんでした。

――それが、らくぴた送迎を開発した理由ですね。

そうです。畑違いでもありましたが、2015年に介護施設専門部隊が活動を開始したとき、Salesforceと地図サービスを組み合わせた営業支援システム(SFA)を作った知見もありました。なので、自然にらくぴた送迎というプラットフォームサービスにつながりました。らくぴた送迎をうまく利用すれば、事業者は、3割くらい送迎にかかる負担を減らすことができます。ドライバーやスタッフの負荷を減らすことで、本来のサービス向上や付加価値にもつながります。

しかし、これはあくまで事業者単位、個別最適のソリューションです。各事業者の合理化、差別化戦略にはマッチしますが、ひとたび地方にいくとそれ以前の問題が深刻です。たとえば市町村合併。各事業者は、少ない拠点でより広域をカバーしなければならない場合が増えています。過疎地の人は5時間の半日サービスに1時間以上かけて移動しなければならないこともあります。

――なるほど。ただ、そこまでいくと地方行政や地域活性化の問題でもあるように思います。ダイハツとしてこの部分でも取組みを広げるのですか?

はい。考えています。2019年10月にリリースしていますが、香川県三豊市で共同送迎の検討を開始しました。らくぴた送迎は、あくまで一事業者向け。いわば競争領域のソリューションです。これを地域一体で行う共同送迎という協調領域に展開する方法を探るための検討です。

三豊市の人口は5万人ほど。介護施設は40くらい。送迎車両は約200台です。その他基本的なデータはすでに得られたので、運行管理を地域全体で考えるように最適化します。三豊市周辺は、介護施設がビジネスとしてサービスを提供できる限界に近づいています。地元や事業者のコンセンサスがとれれば、介護保健の送迎サービスの部分を共同の運営主体に集約できるのではと考えています。

――非常に有意義な取組みですが、私企業としてのダイハツがそこまでする動機はなんでしょう。端的にいえば、マネタイズポイントはどこにあるのですか。

マクロな取組みなので、これでダイハツの福祉車両がたくさん売れる、といった直接的な効果は期待していません。スタートは下地もあった介護福祉の領域でしたが、最終的にはそれだけを見ているわけではありません。

高齢者の買い物や移動の足、障害者などのリハビリや通院の送迎といった展開も考えられます。これまでの自動車オーナー以外に、移動というサービス、社会課題の解決の道筋を考えて切り開いていくことは、地域のビジネスを活性化させ、人々がずっとそこに暮らしていける社会環境を作ります。経済を回していくための取組みです。

人手不足や介護保険によるビジネスの限界から、事業者の倒産、廃止がなくなりません。介護施設や関連市場がなくなれば、必要としている人が困りますし、雇用や経済への影響もあります。昔のように企業は物を売って終わりというわけにはいかない時代です。少子高齢化や地域活性化の問題に、包括的な貢献はできませんが、自動車メーカーならではの貢献をすることに価値があると思っています。

ー刈り取るだけで種を撒かないビジネスは長続きしないということですね。本日はありがとうございました。

谷本氏が登壇するセミナーはこちら。

《中尾真二》

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