【ボルボ S60 T8ポールスターエンジニアード 新型試乗】いかにしてボルボはドイツ車キラーになったか?…南陽一浩

ボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアード
ボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアード全 13 枚

ライバルと比較して、クルマのキャラクターも919万円という価格設定も、とても巧みでいいポジショニングだと思う。近頃ドイツ車イーターとして勢いが止まらないボルボの『S60』T8ポールスター・エンジニアード(以下PSE)のことだ。

アウディ『S4』の862万円よりざっと+50万円で、メルセデスAMG『C43』ステーションワゴンやクーペの996万~987万円と比べたら70~80万円ほどお得。それでいてハイブリッドAWDの新鮮味があるし、直4スーパーチャージド+電気モーターで420psものシステム総出力は、BMW 330e Mスポーツの292psをはるかに凌ぐ。
ボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアードボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアード
今回、箱根で試乗の機会を得たのは、初回ロットの限定30台が瞬く間に売り切れてしまったサルーン版のPSE。とはいえ『V60』や『XC60』にもT8 PSEが加わる見込みで、S60についても2021年モデルで夏以降に再入荷が予定されている。ちなみに比較対象の標準モデルとして、試乗にはS60 T5インスクリプションも連れ出した。こちらはベースの車両価格で614万円、パワーユニットはガソリン2リットルターボの254ps仕様というFFモデル。19インチホイールやダッシュボードに人工皮革を張ったり、リア・シートヒーターを備えなどの内装パッケージや、オプションのエアサスが備わっていたが、それでも700万円強にとどまるアッパー・エレガント仕様といえるだろう。

オーラ消せる!? ほどのさりげなさ

まず外寸上、T5とT8 PSEの違いはない。外観では、T8 PSEのバンパーなどはRデザインに準じるが、左右&アンダーグリルまで水平基調で、フロントグリルが枠までブラックになること、そしてグリル内でオフセットされたポールスターのバッジが、通常のRデザインとの相違点だ。ただしサイドビューは、かなり肉抜きされてバネ下重量軽減にも効果的であろう専用19インチホイールの向こうに、フロント37mm径ディスクと鮮やかなイエローのブレンボ製ブレーキキャリパーが覗く。それ以外、いわゆるスポーティ・エクスクルーシブ仕様にありがちな禍々しい攻撃性はまったくない。そういうオーラをわざわざ漂わせるタイプではないのだ。ボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアードボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアード

逆に、目に見えない部分での顕著な違いは、車重だ。FFで1680kg(試乗車はパノラマ・サンルーフ付きで+20kgだった)のT5に対し、リチウムイオンバッテリーを積んで前後の両車軸それぞれに電気モーターを組み合わされたAWDのT8 PSEは、2030kgもの重量がある。

シャシーの最大の特徴はフロントのストラットタワーバー、そしてオーリンズのダブルフローバルブ可変ダンパーだ。後者はアッパー側ダイヤルを時計周りに回すと固める方向で、22段階のうち工場出荷時は前6段、後9段戻しとなる。今回の試乗では前12段、後15段と、少し柔らかめ設定だった。いずれもボンネットを開けると目に見え、オーナーの所有する喜びをくすぐるディティールだ。ボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアードボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアード

堂に入った黒子 仕事ぶりは上質そのもの

シート形状はRデザインと同じだが、濃いチャコール色で中央部にスウェード調起毛素材という、よりスパルタン仕立てとなる。ブレーキキャリパー同様、鮮やかなイエローのシートベルトを締め、ゲート式ではなくシーケンシャル式のフロアATを操作し、がっしりした握りの太いステアリングを回しながら、スタートする。転がり出しは、ほぼ無音といっていい電気モーターのみでの走行だ。踏み込んで加速態勢に入っても、スムーズさと軽さからして、2トン超の車重は想像しにくい。ボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアードボルボ S60 T8ポールスター・エンジニアード

ドライブモードをデフォルトの「コンフォート」のまま、ゆっくり市街地を流す際のS60 T8 PSEは、よく躾けられた上質なサルーンだ。低速域でも足元がゴツゴツとした感触を返してくることはないのは、同時に試乗したS60 T5も同じだが、PSEはやはり上下動の抑制が効いている。そしてワインディングに入ると、その動的質感が、本来あるべき姿をようやく見せ始める。

「コンフォート」のままでも十分に速いのだが、「ダイナミック」モードにしてアクセルを踏み込むと、ドスの効いた、しかし強調されたエキゾーストノートが唸り出す。他のDrive-Eパワートレインと異なり、T8の2Lスーパーチャージドは最大トルク発生域が4500rpmと高めだ。電気モーターのトルクが合いの手というか、ブーストというより下支えの分厚いトルクとなっている雰囲気で、AWDの力強いトラクションでもって息の長い加速感が続くのだ。

ウイスキーでいえば最上級のシングルカスク

パワートレインの伸びやかさもさることながら、ブレーキのタッチと剛性感が素晴らしい。強めに踏んでもペダルのストローク量が深すぎず、浅い範囲で踏力による制動力コントロールがしやすい。減速キャパシティをたっぷり感じられつつも、ステアリング操舵を始めながらトレールブレーキの加減がしやすい、そんなタイプなのだ。
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ゆえに当然、コーナーでの挙動コントロール自体が楽しめる。いわゆるミズスマシっぽい動きではなく、ステアリング操舵に対する初期反応の適度な素早さ、控え目なロールから鮮やかに返って来るグリップ感と応答性、そしてアクセルの踏み込みに対して素早く立ち上がるAWDトラクションなど、どこにも粗さがなく、おそろしくハイレベルな調律が行きわたっている。

抑えの効いた大人味のスポ―ティなサルーンという点では、254psのS60 T5にも通底するものはある。だが、動的バランスというかボディのコントロールの面で、ひとつひとつの動きが、PSEに比べると大きく感じる。とはいえ、甘やかなベージュのレザーシートによるインスクリプション内装と、FFゆえのシンプルさには、他をもって替え難い魅力があるのも確かだ。
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タッチの緻密さ、抑揚の滑らかさ、その先を感じさせる奥行きという点で、ウイスキーに喩えればT5はジョニ黒、T8 PSEは極めて上等なシングルカスクのよう、そんな違いといえる。余計なアドオンを必要とせず、素にして上質であること、そういうプレミアムは今や少数派だからこそ、近頃のボルボは、大人が小気味よく感じられるクルマに仕上がっているのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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