オンライン自動車販売は“アフターコロナ”で加速するか?【藤井真治のフォーカス・オン】

アメリカのトヨタディーラー(イメージ画像)
アメリカのトヨタディーラー(イメージ画像)全 3 枚

新型コロナウイルスの世界的な猛威は、世界中の医療や社会、国際政治のバランスだけでなく、産業構造やビジネスモデル自体を変えてしまうほどすさまじい。

自動車産業も例外ではない。自動車市場の急激な落ち込みへの対応に加えて、「新しい生活様式」の非接触社会に対応する自動車販売モデルへの変革が急務となっている。

加速化する自動車販売のデジタル化

これまで自動車販売はショールームへの顧客誘致やセールスマンのコンタクトといった方法で顧客と直接接点を深め、商談~受注~納車~アフターサービス~代替~商談というビジネスモデルサイクルを堅持してきた。とりわけレクサスなど高級ブランドは、ショールームの心地よさやセールスコンサルタントと呼ばれる販売員の「おもてなし」教育に多大な投資を行ってきた。

その前提は「お客様と面着で合う」ことである。その前提が新型コロナによって崩れようとしているわけだ。

ホームページやSNSといったデジタルツールは補助的な役割で、販売店によって多少の差異はあるものの、商品ラインアップや標準価格、販売拠点の場所といった情報提供や販売店と顧客のコミュニケーションなどがメインであった。また一部のブランドはECサイトへの出店を試行してはいるが、最終的には販売店が顧客と直接合ってフォローしオーダーを勝ち取っている。

そうした補完的役割だったオンラインツールが、今回新型コロナが引き金となりメインの販売プロセスになるのではないだろうか。顧客がパソコンやスマホを使い、販売員やサービスマンとの直接コンタクトなしにクルマを購入しメンテナンスができる時代に向け加速しそうな気配である。

テスラはオンライン販売を実施中

テスラはいわゆる「ディーラー」を持たないメーカー直販方式を採る。写真はテスラ名古屋ショールームテスラはいわゆる「ディーラー」を持たないメーカー直販方式を採る。写真はテスラ名古屋ショールーム
自動車販売店を持たないアメリカのEVブランド「テスラ」は、当初よりメーカーがオンラインでユーザーに直接販売する方式をとっている。新型コロナによって販売方式を変える必要がない唯一のメーカーである。

クルマを買いたい顧客はテスラが提供するサイトからインターネット上でメーカーにお好みのモデルを発注し、納車の案内を待つ。顧客はメーカーからの納車案内に合わせ納車ポイントにクルマを取りに行く。もともと後発ブランドとして販売/流通コストを極力低減しようという試みからスタートした方式が現在の新型コロナ対応のビジネスモデルとしても役に立ったわけだ。

海外の販売店では新型コロナ以前からデジタル販売がスタートしている

アメリカ・トヨタのオンライン販売サイト。アメリカ・トヨタのオンライン販売サイト。
傘下に販売店ネットワークを持つ大手ブランドもオンライン販売を試行している。アメリカでは、トヨタが全米の販売店に「SmartPath」(スマート・パス)という共通のオンライン販売用プラットフォームを提供し始めた。

メガディーラーのサイトを開けると、オンラインの引き合いボックスがある。チャット機能で担当者とコミュニケーションを図りながら、車種やカラー、オプションの選択ページ開けてお好みのクルマを仕立てる。次はローンの審査や登録のための個人情報ページ。ネット上で審査があっという間に終了し、最後に予約金の支払いを実施し終了。あとは販売店からのデリバリー案内をわくわくしながら待つ。ということになる。

インドでも現代自動車が、「Click to buy」(クリックトゥーバイ)というオンライン販売を開始した。大手販売店が独自にホームページ上に「オンライン販売窓口」を設け始めるケースも世界中で増えている。

テスラと異なり、大部分のブランドは販売店を介したオンライン販売とはなるが、他車商品比較などネットを駆使しているユーザーは販売員の余計な説明を聞くこともなく、また値引き交渉に煩わせされることもなくクルマを入手することが可能である。

日本はオンラインとオフライン販売のメリハリを目指すか?

一方、IT後進国の日本。政府はオンラインで10万の新型コロナ給付金を配るのにも手こずっている。自動車メーカーも総販売流通コスト削減や自動車販売店の経営状況改善、消費者のネット使用頻度の高まりという環境変化にも関わらずオンライン販売にはこれまで消極的だった。しかし、新型コロナショックにより消費者の行動様式の変化は加速される。他国同様に一歩踏み込んだオンライン販売を実行に移す時期にきていることは確実だ。

移動する、対面で話をする、現物に触れ感じる~といった現地現物機会(面着、オフライン)が販売店、顧客とも減るのはやむを得ない。

自動車販売業としてこれまで培ってきた「おもてなし」をオンライン上で具現化することは容易ではないが、やらざるを得ない状況に来ているようである。

藤井真治
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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