「人が動く時代からモノが動く時代へ」コロナ後の生活、クルマの使い方は何が変わるのか

コロナ後の生活、自動車社会はどのように変化するか
コロナ後の生活、自動車社会はどのように変化するか全 6 枚

新型コロナウイルス感染拡大防止のため2か月近くに及んだ外出自粛などの緊急事態が解除され、徐々にではあるがかつての日常を取り戻しつつある。一方で、コロナ後もその日常は大きく変化していくと予測される。

三菱総合研究所の研究員で、ITSやカーライフスタイルマーケティングなど自動車分野を担当する杉浦孝明氏は、「人が動く時代からモノが動く時代になる」と話す。人々の生活は、さらにその中でクルマの使い方、売れ方はどうなっていくのか。

就業スタイルの変化で住む場所も変わる

----:東京など長いところでは2か月近くにわたった緊急事態が全面解除され、『新たな日常』に向けて動き始めましたが、コロナ後の社会はどう変わっていくのでしょうか

杉浦氏(以下:敬称略):やはり就業スタイルが結構変化しているというのが一番大きいかなと思っていて、今回の緊急事態宣言でテレワークが推奨されて、アフターコロナ、この先も一定の割合でかなりの年数でテレワークが残るのではないでしょうか。

例えば半分の人は出社、残りの半分は家で仕事しても良いよというような就業スタイルの変化がでてくると思います。その割合の部分は今後の状況の変化によって何とも言えないところはありますが、就業スタイルの変化は出てくる。そうなると東京や大阪などの大都市居住者は一定の割合で生活スタイルや居住地も変わってくると思っています。

----:仕事の仕方だけではなく、居住地すら変化するとは

杉浦:今、住んでいる場所を皆さんがどう選んでいるのかというと、勤務地にどれくらい近いかというのが大きな要素となっていると思います。仮に出勤するのは週に1日か2日でいい、残りはテレワークでいいという話になってくると、そもそも通勤することを前提に居住地を選ぶ必要がなくなります。

むしろ郊外とか地方部でも住みやすい場所、あるいは安心して暮らせる場所だとか、通勤などを考えずに住む場所を変えたりとか、あるいは生活スタイルも変わってくるようになるのではないでしょうか。当然、仕事だけではなく、非日常という意味でいうと観光とか買い物とか、レジャーみたいなものもスタイルが変化してきて、あまり人混みがあるようなところへ買い物は行きたくないとか、都心部にあまり行きたくないなというケースも出てくると思います。

1~2割の変化で需給バランスは大きく崩れる

マスクを付けて出勤する人たちマスクを付けて出勤する人たち
----:仕事の仕方や生活スタイルが変わってくることで、社会そのものにも変化が生じてきますか

杉浦:1割とか2割ほどの一部の人が変化しただけでも、従来の需給バランスは大きく崩れます。例えばオフィスでいうと何割かの人がテレワークということになると、これを機会にオフィスの中をフリーアドレスにしたいと考えている事業者は非常に多い。

というのもフリーアドレスにして、一部の人をテレワークにすることは実は事業者側にもメリットがあって、オフィスとして借りている床面積を大幅に減らすことができます。当然オフィスの需給バランスが崩れてきて、オフィスをこれまで造って供給してきた不動産デベロッパーは構造的に変化をしていかなければないないといった『非線形、不連続な変化』が発生する。

その一方であくまで事業そのものは変化しなくても、消費動向やトレンドの変化で『量的変化』をしていくケースも考えられます。例えば東京や神奈川、大阪に住んでいる方々の一部が郊外や地方で暮らすようになると、クルマを必要とする生活へと変わり、一時的に自動車を製造、販売する側からすると国内に新しい需要を創出する可能性につながるとも考えられます。

また公共交通を敬遠する方もやはり出てきています。満員電車が嫌だとか、吊り革を掴むのが嫌だということで、今までは電車で会社や病院、買い物に行っていたのが、クルマを使おうという方が結構出てきている。公共交通からクルマの方へ嗜好が変化していくというのもあります。

さらに言えばシェアリング。前に誰が使ったのかわからないものを使うのは非常に抵抗があるという話も出てきている。そういう部分でも、クルマを所有するということに回帰する傾向が出てくると考えられます。

クルマの実益的な使い方が見直される

居住空間の快適性などクルマ選びの基準が変わる可能性も。写真はダイハツのタント居住空間の快適性などクルマ選びの基準が変わる可能性も。写真はダイハツのタント
----:クルマの選び方や、使われ方も変わってきますか

杉浦:安全機能がより重視されるのは当然あると思いますが、かなり実益的な使われ方が見直されるでしょう。やはり使い勝手が良い、ユーティリティが良いクルマを消費者が求める可能性はかなり高いので、例えばそれほど値段が高くなくても使い勝手の良い軽自動車とかコンパクトカー、1BOXなどがより求められる可能性があります。

足元で起きていることでは、高齢者の方とか、お子さんを病院へ連れていくという時に、みなさん待合室が怖いということで、診察券を出した後、クルマの中で待つというのが結構、今、一般的になっていると言います。そういうところで居住空間としての快適性みたいなものが、クルマの機能として求められると思います。

----:居住空間や快適性がより重視されてくるとなると、1人乗りや2人乗りのパーソナルモビリティの市場性はどうなりますか

杉浦:所有か共有化か、ということが大きいと思います。共有ということになるとハードルが高くなってくるでしょう。シェアリングは自転車であってもパーソナルモビリティのクルマであっても、ちょっと敬遠する傾向になると思う。

ただ自分で所有できるのであれば自転車より安全、雨もしのげるという観点からするとパーソナルモビリティの需要は出てくる。そこは値段次第というところもあります。ただ今の軽自動車はかなり性能が良く、コストパフォーマンスの面でもあの価格であれだけ性能の良いものはなかなか無いので、軽自動車の価値の見直しもかなり進むと考えられます。

都心経済圏から生活圏経済圏へ

----:外出自粛や巣ごもりで、ネットショッピングやデリバリーの利用頻度が高まったことで、今後、配送のあり方にも変化は生じてきますか

杉浦:大雑把に言うと「人が動く時代からモノが動く時代に」なると思います。配達も含めて物流の需要はすごく増えてくると思う。需要が増えるとはどういうことかというと、結局物流コストが上がるということです。これは小口物流もそうですが、企業間の部品の物流、いわゆるBtoBの物流も含めてコストが上がります。

一方で、都心部から郊外、あるいは地方へ活動の中心が移ってくると、自宅の周りで消費したり飲食したりということが多くなって、配達にしても家の周りになる。そうすると、都心経済圏から生活圏経済圏へ変わってくる。

都心に商業施設やオフィスを集積させて経済圏を成していたが、人が住んでいる場所、各駅間くらいの範囲、なんなく自転車で行ける範囲、1kmとか2kmくらいの範囲での経済圏というようなものが再確立してくるでしょう。

そうした生活圏経済圏みたいなものが生じる方向に誘導できれば、地方創生にもつながるし、職住近接で人の生活を豊かにしてくれるという、ピンチをチャンスに変えることができるのではないでしょうか。20、30年前の日本がそうでした。大きいショッピングモールがあったわけではない。だからそうした方向へ政策的に誘導できるかが、ひとつのポイントになるかもしれません。

《小松哲也》

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