【ボルボ S60 新型試乗】「V90」にも下克上?な乗り心地と操舵感…井元康一郎

ボルボ S60 T5 Inscriptionのフロントビュー。実車は大変に伸びやかな印象で、そのイメージをなるべくトレースできるような焦点距離と角度で撮ってみた。
ボルボ S60 T5 Inscriptionのフロントビュー。実車は大変に伸びやかな印象で、そのイメージをなるべくトレースできるような焦点距離と角度で撮ってみた。全 19 枚

ボルボのプレミアムDセグメントセダン『S60』を短距離テストドライブする機会があったので、ショートインプレッションをお届けする。

昨年秋に日本デビューを果たしたS60は現状、日本におけるボルボのラインナップの中で唯一のノッチバックセダンモデルである。今日、世界的にセダン退潮のトレンドが続いており、ボルボも御多分に漏れず。そのような中、ボルボは新しいS60をスペシャリティカーと位置づけて開発したという。

あえて世の潮流に反した消費行動を取るスノッブな消費者は、プレミアム狙いのブランドにとって実は重要なターゲット。かつてボルボは『262Cベルトーネ』や『780』などのクーペでそういう顧客を取りに行っていた。4ドアのS60はそれらよりは民主的だが、タスクは同じと考えていいだろう。

スリークかつ上品なスペシャリティ・セダン

ボルボ S60 T5 Inscriptionのサイドビュー。低いウェストラインのおかげで全長4.8mアンダーのわりには前後に伸びやかに見える。ボルボ S60 T5 Inscriptionのサイドビュー。低いウェストラインのおかげで全長4.8mアンダーのわりには前後に伸びやかに見える。
そんなS60の実車の仕上がり具合だが、スペシャリティカーとしての性格は確実にあった。ハードウェア的にはシャシーやフロアはステーションワゴンの『V60』と完全共用でホイールベースも同一。外板も前半分やドアは共用、さらにインテリアもダッシュボードまわり、前席は共用。

ステーションワゴンはセダンの派生で作られることが多いが、ボルボの場合は 逆にステーションワゴンの派生でセダンが作られたという感が強く、いかにも後ろ半分を後から整形しましたというような印象だ。

ところがクルマという商品はわからないもので、その後から整形しましたという造形がはからずもハンドメイド感を醸していた。S60が海外で先行発表されたとき、配信された写真を見て「これはさすがに妙ちくりんじゃないか!?」という印象を抱いたのだが、実物はそんな先入観とは真逆で、とてもスリークかつ上品に見えた。このスタイリングがS60の最大の持ち味と言えよう。

「V90」にも下克上?な乗り心地と操舵感

前席。インパネ、ダッシュボード、センターコンソールなどは基本的にワゴンと同一デザイン。前席。インパネ、ダッシュボード、センターコンソールなどは基本的にワゴンと同一デザイン。
テストドライブしたのは純エンジン車の上位グレード「Inscription(インスクリプション)」。実際に走らせてみると…と言っても箱根の山岳路を中心に2時間足らずドライブしてみただけだが、ファーストインプレッションは上々だった。

サスペンションは固めだが、道路の細かい荒れを実によく吸収し、“ゴツゴツッ”という感触を伴いながらも質の高い滑らかなフィールが終始維持された。似た感触のモデルを挙げるならば、モデル廃止となった同社のコンパクトスポーツ『V40 D4 R-Design』、テスラ『モデル3』あたり。

ハンドリングも今回乗った限りにおいてだが、十分に良好であるように感じられた。国道1号旧道をはじめ急カーブが連続する区間を軽く流す程度であれば、何のドラマも起らない。それでいて、ステアリングを切り始めてから鼻先が向きを変える瞬間のヴィヴィッドさの演出は優れており、路面に粘りついたままぐいぐいとS字をクリアするようなフィールであった。

この良好な乗り心地と操舵感は上級モデル『V90』のバネサス車に対して下克上状態にあるが、それには235/45R18サイズのコンチネンタル社製「PlemiumContact 6」タイヤも相当貢献しているものと推察された。

タイヤはコンチネンタル「PremiumContact 6」。ナイスフィールだった。タイヤはコンチネンタル「PremiumContact 6」。ナイスフィールだった。

ウェルバランスな「T5インスクリプション」

パワートレインは最高出力187kW(254ps)/最大トルク350Nm(35.7kgm)の2リットル直4ター ボ+8速AT。制限速度の低い日本の道路ではこのくらいの性能があればご馳走様と言えるくらいのパフォーマンスで、箱根中腹の急勾配、有料道路の合流等々、何のストレスもなかった。

これ以上の加速が欲しいカスタマーには合成出力250kW(340ps)のプラグインハイブリッド「T6 Twin Engine AWD Inscription」という選択肢もあることはあるが、価格差が165万円もあることを考えると、T5インスクリプションがウェルバランスであろう。

もちろん187kWでも過剰であることに変わりはなく、パワーは必要十分でOKというカスタマーには逆に125万円安い140kW(190ps)版の「T4 Momentum(モメンタム)」もかなり魅力的に感じられよう。

車内はプレミアムDセグメントとしてはライバルの平均より広い。とくに後席は一見スリークなルーフラインに似合わず頭上空間、膝下空間とも余裕たっぷりで、大人4人が窮屈な思いをすることなく、数泊の宿泊旅行をこなすことができそうだった。室内の採光性の良さはボルボ車全体に通じる美点だが、試乗車にはグラストップがオプション装着されており、余計コージーな雰囲気であった。

助手席側から。助手席側から。
開口部の広いグラストップは室内を明るくするのに非常に効果的だった。開口部の広いグラストップは室内を明るくするのに非常に効果的だった。

定番御三家からちょっと距離を置いたキャラクター

SUVブームに押されて退潮気味のセダンだが、プジョー『508』、そしてこのS60と、スペシャリティカー的な仕立てのものは市場からわりと好意的に受け取られており、販売台数をむしろ伸ばしている。

このトレンドが今後どう変化していくかは予断を許さないが、少なくとも流行にあえて乗りたくないというカスタマーにとっては、BMW『3シリーズ』、メルセデスベンツ『Cクラス』、アウディ『A4』のプレミアムDセグメント定番御三家からちょっと距離を置いたキャラクターのセダンが登場したことは歓迎すべきことであろう。

ボルボ S60 T5 Inscriptionのリアビュー。ワゴンモデル『V60』をセダンに整形して作られたが、その不自然さを非常に上手く“アク”に昇華させているのが印象的だった。ボルボ S60 T5 Inscriptionのリアビュー。ワゴンモデル『V60』をセダンに整形して作られたが、その不自然さを非常に上手く“アク”に昇華させているのが印象的だった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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