【ホンダ アコード 新型】アコードはホンダの良心…チーフデザイナー[インタビュー]

ホンダ・アコード、デザイン A案
ホンダ・アコード、デザイン A案全 10 枚

10代目ホンダ『アコード』の開発キーワードのひとつにデザインが挙げられ、動感のある美しいスタイルが目指された。そこで、デザインの取りまとめ役を担った本田技術研究所デザインセンター、オートモビルデザイン開発室テクニカルデザインスタジオの古仲学チーフエンジニアデザイナーに話を伺った。

最重量級の仕事

北米や中国を中心に大きく台数を稼ぐアコード。当然のことながらホンダの柱のひとつであり、地域によってはフラッグシップモデルでもある。そんなアコードのチーフデザイナーに指名された気持ちはどうだったのか。

古仲さんは、「ついにきたなという感じだった」と感想を漏らす。「アコードは『シビック』に次いで伝統のあるブランド。それを担当するというのは(ホンダの柱であり、フラッグシップでもあるため)最重量級の仕事であり、私だけではなくエクステリアやインテリアのPL(プロジェクトリーダー)、設計の各担当の人間皆が、かなりヘビーな仕事として身が引き締まる思いで仕事を受けている」と重責だったことを振り返った。

実は古仲さん、「最初は断った」そうだ。その理由は「過去セダンをプロジェクトリーダーとして担当したことがなかった」こと。また、「これまではミニバン系が多く、『ステップワゴン』や『フリード』、『オデッセイ』を一世代ずつ担当してきたが、それらはどちらかというと(アコードと)対角線上にいる車種であり、基本的に日本市場がメインの車種。つまりクルマという観点で見ても視点を変えていかないといけないので、ちょっと難しい仕事をもらってしまったなという気持ちがあった」と述べた。ホンダ・アコード、デザイン B案ホンダ・アコード、デザイン B案

古仲さんは1997年から2002年までドイツのスタジオに駐在していた経験があり、これを活かすことを念頭に「腹をくくった」。そこはサテライトスタジオで、量産には直接着手することはなく、どちらかというと先行して新しいデザインを模索するところだった。量産に関わるにしても、リサーチ段階のデザインをヨーロッパのお客様の観点から提案することだったという。そこで一度だけアコードを提案したことがあったそうだ。「その時の経験をここで活かさないといけないと思った」という。

当時古仲さんは30代の前半で、その作業(モデル作成等)のほとんどはイタリアで行ったそうだ。「ちょうどセダン市場が盛り上がっていて、アルファロメオ『156』などがヨーロッパをはじめとした世界中で結構売れているなど、ドイツやイタリア、フランスなどでセダンが元気だった」と当時の状況を語る。

その中でアコードは、「売ってはいたが非常に地味な存在だった。また、ヨーロッパで見るアコードとアメリカで見るアコードの印象が全然違っていて、そういった差も含めてアコードはこうあるべきということを真剣に考えて提案した」と振り返る。ホンダ・アコード、デザイン C案ホンダ・アコード、デザイン C案

欧州での経験を活かす

古仲さんにその時の経験で最も印象的だったことを聞いてみると、「走る物体としての塊をきちんとデッサンすることを徹底的に勉強した」とのことだった。

現地では、デザイナー1人、イタリアのモデラー十数人とで、1/1のモデルをスケッチとテーピングの図面をその場で決めながら作成。「そういう作業を1年近く行った」と古仲さん。

「ところ変われば手法も全然違う。イタリア人なので自分たちのクルマ感が強烈にあり、こちらがクライアントにも関わらず、俺はこれがいいと主張してくるような、そういう強烈な人たちと一緒にアコードセダンを作った」。また、「彼らはアコードを知ってはいるものの、もっとこうあるべきだと彼らなりにいってくる。そういう人たちと意見を交わしながら作成した時に得た知見や経験を最大限活かしたい」と今回のアコードに向き合ったそうだ。ホンダ・アコード、デザイン案最終ホンダ・アコード、デザイン案最終

イタリアでのモデル作成の手法は、「作り方が全く違い、目から鱗だった。ショッキングなくらいで、これで本当にできるかと思った」と古仲さん。それはドイツとも日本とも全く違った。

イタリア人の場合は「自分の感覚を信じて大きな塊から削り出していく。その時にモデラーには形が見えているような感じがする。一気にクレイを盛るのだが、そこからどんどんゲージなども当てないで削り出す」。一方ドイツは、「ひとつひとつゲージを当てて、まだ削り足りないとか緻密に仕上げていく」と違いを述べ、「(イタリアは)最終的に図面とどのくらい違っているのかをゲージを当てて確認することもあるが、基本的には自分たちの持っている感覚で削っていくこと」が驚きだったと話した。

車格の高いクルマに見せるために

さて、10代目アコードのデザインコンセプトは、クリーン、スポーティ、マチュアだ。なぜこの3つのワードに絞られたのか。古仲さんは、「最終的にそのように見えるクルマができたという部分もあり、最初からこの3つのワードに決めたわけではない」とのことだ。ホンダ・アコード、デザイン案最終ホンダ・アコード、デザイン案最終

合計5案以上あった中から最終的に選んだポイントは、「我々がアコードにどういうキャラクターを与えるか、どういうエクステリアの方向性にするかということだった」とし、そこで、「クリーン、スポーティ、マチュアという観点でデザインされた案を採用した。どちらかというと最初にコンセプトを決めて、こういうクルマのデザインにしようというよりも、色々な案を戦わせながた、今回新しいプラットフォームを表現するのに一番相応しいスタイリングの方向性で決めていった」と述べる。

そのデザインはかなりスポーティな印象だ。「アコードは初代から大きな価値として、気持ちの良い走りというイメージをお客様に提供している。ただしその時代時代においてアコードの芯の部分があり、少しスポーティ方向やオーソドックス方向に振れるなどの波は各ジェネレーションであった」と古仲さん。

「今回、結果的に非常にスポーティなアピアランスのクルマになってはいるが、私的にプライオリティを挙げたかったのは、前のジェネレーションよりも車格が高く見えるクルマにしたいことたった」という。ホンダ・アコードホンダ・アコード

「デザインモチーフそのものはデザイナーが色々提案してくれるが、それ以前の骨格、プロポーションを決める時にちゃんと車格が高く見えるためのベースを作るように、各ディメンジョン、ホイールベースをはじめフロントやリアのオーバーハング、全長・全幅・全高、ヒップポイント、Aピラーの位置などの全てが車格を高めるにどのようなパッケージ、骨格にしていくか。そこは相当開発責任者と戦った」とこだわりを語る。

基本的には、「ホイールベースはあまり伸ばしてほしくないというのが設計の本音。どうしてもウェイトが上がってしまい、また直進安定性は非常に良くなるがクイックなハンドリングという点では少し難しくなってしまう。ただしこのクラスのセダンとしては車格を高めるために最低このくらいのタイヤサイズとホイールベース、フロントとリアのオーバーハングのバランスは必要。全幅に関しては先代も1850mmあったので十分だったが、走りの分で10mmだけ幅を広げた。そういうところを一番こだわり、設計者とも侃侃諤々したところだ」と述べた。

アコードの芯はホンダの良心

古仲さんの先ほどのコメントに“アコードの芯”という言葉があった。これはどういうものなのだろう。「アコードはホンダの良心だと思っている。つまりホンダが作る最高のクルマがアコードだ。色々な事情はあるが、それをお客様に押し付けることなく、言い訳もせず、ちゃんとホンダの良心をアコードで見せるのが芯の部分だ」と話す。「シビックのLPL代行はシビックをホンダのへそだといっていた。そうするとアコードは(手を胸に当てながら)心の良心だとすごく思った」と考えを明かす。

そして、「アコードはすごく信頼されている商品。アメリカなどではアコードに乗っている人ならば絶対に良い人だと思われている。そのくらいアコードはそのユーザーの良心を表現している。そこをすごく大事にしなければいけない」とし、「デザインもこのクルマに乗っているヤツはちょっとやばいんじゃないかというのは絶対にありえないし、そういう意味ではあまり威圧感があるような、何かすごいものが来たというようなものであってはならない。これがアコードがどういうクルマであるべきか、アコードというクルマの意味は何なのか、ということへの私なりの解釈だ」とコメントした。本田技術研究所デザインセンター オートモビルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ チーフエンジニア デザイナーの古仲学さん本田技術研究所デザインセンター オートモビルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ チーフエンジニア デザイナーの古仲学さん

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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