【ホンダ ヴェゼル ハイブリッドRS 900km試乗】ファミリーカーとしてメチャクチャ使い倒せる[前編]

ホンダ ヴェゼル ハイブリッドRSのフロントビュー。フェンダーアーチモールはピアノブラック光沢仕上げ。あくまでオンロード主体であることを意識させられる部分だ。
ホンダ ヴェゼル ハイブリッドRSのフロントビュー。フェンダーアーチモールはピアノブラック光沢仕上げ。あくまでオンロード主体であることを意識させられる部分だ。全 20 枚

ホンダのコンパクトSUV『ヴェゼル ハイブリッド RS』で900kmあまりツーリングする機会があったので、インプレッションをお届けする(試乗は2019年初冬に実施)。

ヴェゼルは同社のサブコンパクト、第3世代『フィット』をベースに開発された。登場時期は2013年12月とすでにモデルライフ7年目に突入している。登場当初、電気モーターを内装したデュアルクラッチ式ハイブリッド自動変速機の欠陥をなかなか解消できず、度重なるリコールを余儀なくされたが、現在では安定している。

全長4.3m級というコンパクトなボディサイズながら、広い居住区と荷室を備えているのが特徴で、折からのSUVブームの追い風を受けて長らく好調な販売を記録し続けてきた。今回テストドライブしたハイブリッドRSは2016年の大規模改良時に追加された走りのグレードである。

ドライブルートは首都圏市街地および都市高速走行約250km、および東京を起点とした福島~新潟の山岳ルート周遊の2セットで、総走行距離は925.4km。道路比率は市街地4、郊外路3、高速1、山岳路2。路面コンディションはドライ8、若干のアイスを含むウェット2。1~4名乗車、エアコンAUTO。

論評の前に、ヴェゼルハイブリッドRSの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 初期型から変わらない秀逸なパッケージング。
2. SUVの高重心を感じさせない良好な運動性。
3. 初期型に比べ安定性が増したデュアルクラッチ式ハイブリッド変速機。
4. スポーティな性格に対してほどほどに良い燃費。
5. 車格に対して十分なスペックを持つ運転支援システム。

■短所
1. 初期型に比べるとかなり改善されたものの、しなやかさは今一歩。
2. 長距離ドライブの疲労耐性については凡庸。
3. ハーシュネス、ロードノイズが強めに出るアジア向けタイヤ。
4. 変速の切れ味は初期型に劣る。
5. アプローチアングルが浅く、オフロードは苦手。

ファミリーカーとしてメチャクチャ使い倒せる

ホンダ ヴェゼル ハイブリッドRSのリアビュー。伊東孝紳前社長時代に提唱された「エキサイティングHデザイン」テイストが最も色濃い1台。ホンダ ヴェゼル ハイブリッドRSのリアビュー。伊東孝紳前社長時代に提唱された「エキサイティングHデザイン」テイストが最も色濃い1台。
まずは900kmあまりのドライブを通じて得られた総合的印象から。丸っこいデザインのヴェゼルはスペシャリティ色が強いキャラクターのように見えるが、実際には居住区と荷室の配分が絶妙で、ファミリーカーとしてメチャクチャ使い倒せるクルマである。RSはさしずめそれにちょっぴり走りの要素を加味してツーリングへの適性を高めたグレードといった位置づけだが、実際のドライブインプレッションもそのイメージ通りだった。

都心部では空港送迎で4名乗車+旅行手荷物を積載してみたが、スペース的には余裕たっぷり。またフィットより高出力な1.5リットルDOHCエンジンをベースとしたハイブリッドパワートレインはさすがに強力で、フル荷重に近い状態でも動力性能に関して不満を抱くことはなかった。

その後、福島の檜枝岐から奥尾瀬、県境を越えて新潟の奥只見を経て小出に抜ける長大な山岳路、国道352号線ルートを通るドライブに2名乗車で出かけたが、ワイドタイヤと強化シャシーのおかげで険路も非常に良いペースで走ることができた。

難点は乗り心地のゴツつきや上下の揺すられ感が強めなことと、ロングドライブ時の疲労耐性がやや低めであること。だが、乗り心地については悪いを通り越してチューニングが未成熟と思うくらいガチンガチンだった初期型に比べれば、文字通り長足の進化と言えるくらい改善されていたのも事実。最初からこのくらいの仕上がりであれば、ヴェゼルはもっと強固な定番商品になれたことだろう。

ナチュラルで好感の持てる走り味

タイヤはダンロップ「エナセーブEC503」。グリップ力は車重に対して十分以上だが、しなやかさでは最新のタイヤに劣る。タイヤはダンロップ「エナセーブEC503」。グリップ力は車重に対して十分以上だが、しなやかさでは最新のタイヤに劣る。
では、詳細について述べていこう。まずはロングドライブを支える走行性能や快適性から。ヴェゼルRSは通常モデルにちょっぴり走りのファクターを加味したグレード。装着タイヤは225/50R18と太く、それを履きこなすためにシャシーも強化されている。RS特有の装備としては、左右輪を結合し、ボディのねじれや共振を制御するホンダご自慢のパフォーマンスダンパー(ヤマハ製)がある。

そんなスペックはともかく、ヴェゼルの走り味はナチュラルで好感の持てるものだった。通常グレードより直径がひとまわり大きいタイヤを履きながら最低地上高が変わらないことから、サスペンションのスプリングレートがノーマルより高められているものと推察されるが、初期型のように変に突っ張ったような固さはなく、ステアリングを切った時のロールの発生はスムーズになった。

また、コーナリング中に路面のうねりを踏んだ時のサスペンションの追従性も初期型に対して大幅に向上しており、舗装面が荒れたコンディションでも安定したグリップが得られた。

小さいといえどもSUVなのでクルマの動きがシャープという印象は受けない。が、コーナリングでロール角が大きくなるのに合わせてステアリングの反力も強まっていくという味付けが結構しっかりできているので、ロールセンターが高いわりにコントロールはしやすい。

225サイズのタイヤは1310kgの自重に対して十分すぎるほどのグリップ力を持つが、そのグリップ力で強引に曲がるというのではなく、路面にタイヤをしっかり圧着させ、横Gの高まりに伴うフィールの変化をインフォメーションとして捉えながら曲がるという、なかなか好ましいチューニングである。

シチュエーション別のパフォーマンスは

ヴェゼル ハイブリッドRS。国道352号線奥只見湖岸区間にて。ヴェゼル ハイブリッドRS。国道352号線奥只見湖岸区間にて。
今回のドライブのハイライトであった国道352号線区間は昔と違って舗装状態はおおむね良好だが、カーブだらけの狭隘な道が130kmほども続くという点では立派な険路だ。ロールセンターの高いSUVはもともとそういう道は苦手科目で、クルマによってはストレスフルなドライブになる。ヴェゼルRSは前述のようなチューニングのおかげでロールセンターの高さを意識させられることがあまりなく、足の良いハッチバックのような感覚で走ることができた。

そんな山岳路での良好なパフォーマンスに比べ、高速道路では一歩落ちる。安定性が悪いというほどではないのだが、太いタイヤを履いているせいか、直進性はそれほど良好というわけではなく、深めのワダチができているようなところでのワンダリング(左右にチョロチョロとブレる動き)も少し大きめだった。言うなればフツーである。

そして距離は短かく、コンディションもグラベルのみであったがオフロード。ここはハッキリと苦手科目である。オンロードでは荒れた場所であってもサスペンションがよく路面に追従していたが、グラベルでは接地性も乗り心地も良くない。また、シャシー性能以前にヴェゼルはフロントバンパー前端が低く、アンジュレーションが大きめなオフロードではすぐにフロントバンパー下部を擦りそうになる。185mmの最低地上高はオフロードではなく、雪道用と考えた方がいいだろう。

快適性は一級品まであと一息

前席。スエード素材が随所に使われており、上質感は前期型より増した。前席。スエード素材が随所に使われており、上質感は前期型より増した。
次に快適性。乗り心地は初期型に対しては大きなアドバンテージを持っており、市街地、高速道路、山岳路と、シチュエーションを問わず大幅に改善された。初期型ユーザーがテストドライブをしたら、違いにびっくりすることだろう。

BCセグメントSUVのライバルとの相対比較でも、乗り心地はビリという状況からは完全に抜け出しており、中位グループにランクアップしている。標準型より足が引き締められたスポーティグレードということを考慮すれば、十分に許容できるレベルだ。

特質だが、サスペンションの上下振幅が小さい領域ではフリクション感が小さく振動吸収が大変スムーズで、振幅が大きくなるにつれてその質が加速度的に落ちていく傾向があった。具体的には舗装面の綺麗なところでは滑走感は非常に良く、落ち着いた乗り心地が保たれる。少々のアンジュレーション(路面のうねり)やひび割れの多い箇所の乗り越えも滑らか。

が、抑揚の大きなアンジュレーション、段差やギャップが多いところでは緩衝、揺すられ感の抑制とも甘めになる。そのネガがとりわけ強く出たのは走りの項目で述べたグラベル路、および路盤がガタガタなことこのうえない奥只見シルバーライン内のトンネル区間だった。もっともその点も初期型に比べればはるかに良く、同格のライバルでももっと下のクルマもあるので、ダメと言うほどではない。

こういう味になるのは、ショックアブゾーバーが振幅が大きく、ピストンスピードも速い領域を苦手とする特性を持っているからと推察される。ストロークが大きくてもコーナリングでロールするときのようなピストンスピードの遅い領域についてはとても良かったので、一級品まであと一息だ。

もう1段、コンフォート寄りのタイヤを選ぶのも一興

龍王峡にてオフロードも少し走ってみたが、足とグラベル路の愛称は良くなく、オンロードのほうが断然良かった。龍王峡にてオフロードも少し走ってみたが、足とグラベル路の愛称は良くなく、オンロードのほうが断然良かった。
もう一点、路面が荒れ気味のところでのゴロゴロ感などの雑味が出やすい原因として考えられるのはタイヤチョイス。標準装着タイヤはダンロップ「エナセーブ EC503」。エナセーブは同社のエコタイヤの定番ブランドであるが、EC503という品番は見たこともない。トレッドパターンが10年くらい前の「RV503」とほぼ同一なので、それをベースとしたOEM品と思われる。

このEC503、グリップは悪くないしパターンノイズもそこそこ静かなのだが、ドライブフィールは変形を抑えて燃費を稼ぐ前世代のエコタイヤという感じで、サイドウォール、トレッド面ともかなり固い感触だった。225/50R18はアフターマーケットでリプレイス品が豊富に存在するサイズなので、交換のときにはもう1段コンフォート寄りのものにするのも一興。最近ではハイグリップタイヤでももっとしなやかなものもあるので、タイヤへの造詣が深いショップを見つけていろいろ相談してみるといいと思った。

後編では前期型から大きく変更されたハイブリッドパワートレイン、居住性・ユーティリティ、運転支援システムなどについて述べていこうと思う。

フロントAピラーをもう少し立て、リアドアの切り欠きが後方に行くにつれて落ち込むのをもう少し緩くすればもっと乗降性は良くなりそう…だと思ったが、現状でもデザインのために使い勝手を犠牲にしたと感じられるほどではなく、実用性は十分以上。フロントAピラーをもう少し立て、リアドアの切り欠きが後方に行くにつれて落ち込むのをもう少し緩くすればもっと乗降性は良くなりそう…だと思ったが、現状でもデザインのために使い勝手を犠牲にしたと感じられるほどではなく、実用性は十分以上。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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