【プジョー 208 新型試乗】「Bセグメントの完成形」と言っても過言ではない…中村孝仁

プジョー 208 GTライン
プジョー 208 GTライン全 23 枚

このところ、Bセグメントのクルマに乗ることが多い。トヨタ『ヤリス』、ホンダ『フィット』、『マツダ2』等々。他にVW『ポロ』なんかもあったりして、主要なハッチバック車が目白押しである。

この状況を見ていると、ハッチバックの主力はどうやらCセグメントからBセグメントに移行したという感覚が強い。クロスオーバーだのSUVだのといった新たなセグメントがここ10年ほどで大きく台頭した今となっては、昔はファミリーカーの代表格だったハッチバック車が、セダン同様に自動車の形態として片隅に追いやられる可能性すら感じせる今日この頃。

しかし、そうは言ってもBセグメントなら今もハッチバック車が完全に主力商品である。だから、どのメーカーも勢い力を入れる。結果としてよいクルマが誕生し、お互いに切磋琢磨する状況が作り出せているのではないかと思うわけである。

この半年ほどで、前述したBセグメントのハッチバック車に試乗した。まあ、ポロは少し前になるけれど…。その結果、如何にBセグメントのハッチバック車の出来が良くなっているか痛感させられた。燃費とハンドリングを求めると断然ヤリス。グレードにもよるが大人の感性を求めるとフィットとマツダ2。マツダ2にはディーゼルという日本市場のこのセグメントでは唯一無二のICE(内燃機関)の設定もある。

「205GTI」を彷彿させる

プジョー 208 GTラインプジョー 208 GTライン
そんな中で今回プジョー『208』に試乗した。このクルマ、ヨーロッパでは断トツの得票でカーオブザイヤーを獲得したという。それほどに評価が高いクルマのようだが、実際に試乗してみてヨーロッパ人の求める一つの完成形のBセグメントがこのクルマに見て取れるような気がした。とにかく大人のクルマである。昔プジョーのハッチバックに憧れたという人は(結構な年配者だろうが)、古くは『205GTI』というクルマをすぐに思い浮かべるのではないかと思う。

とても面白い話がある。我々の大先輩で既に鬼籍に入られている、徳大寺有恒氏が、このクルマを褒めちぎった。ユーザーは雑誌を持ってディーラーに現れ、「すごく褒めているけどどこがいいの? 」と営業マンに聞く。すると営業マンは「とりあえず乗ればわかると思います」と試乗を薦め、ユーザーは言われるままに試乗をし、わかったのかわからないまままかは不明だが、とにかくプジョー205GTIを求めていった結果、バカ売れしたそうだ。まだ輸入小型車がそれほど一般化する前の話だから、この手を買う人はいわゆる違いの分かる人だけ。それを何となく雰囲気とお洒落度で買わせてしまったある意味最初のクルマであったかもしれない。そんな魅力がプジョー205GTIにはあった。

208のリアクォーターから見たウィンドーグラフィックのデザインは、何となくその205GTIを彷彿させる。そして太めのCピラーにはGTIの代わりにGTラインとレタリングが入る。まあ当時のGTIは3ドア車だったから勿論デザインは全く異なるのだが、そんな印象を与えるところもある。

挙動ひとつひとつが大人びて感じられる

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ではこの208、Bセグメントの完成形と書いたが一体どこがそう感じさせたのか。ひとつは全体が醸し出す大人びた感性だ。別に本革シートであるわけでもないし、ウッドパネルがあるわけでもないが、とても豪華な印象がある。勿論華美ではない。メーターパネルがいい。クラスター内はディスプレイ化されているのだが、こいつが立体化されていて奥行きを感じさせる見せ方をしている。思わず「この手があったか!」と膝を叩いてしまう。

一新されたプラッットフォームは単なるしっかり感ではなく、すべての動きが緻密に計算されたかのような安心感を与えるし、クルマとしてのロール感だったりステアリングの応答性だったりを見事なほど薄皮に包み込んで剥き出し感をなくした動きを感じさせてくれる。この挙動ひとつひとつがとても大人びて感じられる要素である。

1.2リットルのピュアテック3気筒ユニットは、パフォーマンス的には先代よりも若干下がっている。もっともそれを補って余りあるのがトランスミッションで、このセグメントでは珍しい8ATを奢っている。トランスミッションではずいぶんと遠回りしたプジョーだが、ようやく最先端に到達した印象がある。このトランスミッションが数値的には後退したエンジンスペックを補っている印象だ。

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293万円を出してでも「GTライン」が欲しい理由

最後は293万円という値段を出してでもGTラインが欲しくなる理由である。因みに新しい208には下に「アリュール」と「スタイル」というグレードが控えるが、最後のスタイルは受注生産のようだから実質的にはアリュールとGTラインなのだが、この2車、見た目にだいぶ異なる。

一見同じように見えて、GTラインの方はホイールオープニングに黒の縁取りがある。これでタイヤを大きく見せ、全体的なバランスを俄然よくしている。次にヘッドライト回りのデザインが異なる。こちらも一見同じに見えるが、公式ホームページのラインナップのところで、GTラインとアリュールを見比べてみて欲しい。すぐにその違いに気付くはずである。

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突出した性能も、抜群の燃費性能もないが、実際に試乗してみてとても良いクルマに乗っている印象を与える。強いて難点を挙げると、ラゲッジスペース。折りたたんだ後席とフロアに大きな段差が出来てしまい、荷物の収納に少し困る。ここは浅くなってもフラットフロアを実現して欲しいところだ。

今回は300kmほどしか走れず、その大半を灼熱の一般道で過ごしたので、燃費は悪い。気温が高いとこのクルマはアイドリングストップを拒むからだ。設定からアイドリングストップを試みると「気温が適していない」としてアイドリングストップを拒むのだ。まあ、自分の体をよく知っていると好意的に理解する。

それにしても良くできたBセグメントである。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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