【スバル レヴォーグ 新型】新世代アイサイトはスウェーデン社製に…日立から切り替えた理由

オプション装備される「渋滞時ハンズオフアシスト」でテストコース内走行する新型レヴォーグのプロトタイプ(写真提供・SUBARU)
オプション装備される「渋滞時ハンズオフアシスト」でテストコース内走行する新型レヴォーグのプロトタイプ(写真提供・SUBARU)全 10 枚

スバルはこの秋に発売する新型『レヴォーグ』で「Eyesight(アイサイト)」を一新する。そこでもっとも驚いたのは、中核となるステレオカメラの調達先を、これまで採用していた日立オートモティブ製から海外製へ変更したことだった。そこにはどんな意図があったのだろうか。

「基本的には機能とコストのバランスを考慮した中での選択です」と話すのは、スバル先進安全設計部主査の丸山匡氏だ。アイサイトは2008年に現行のベースとなる第1世代が登場し、その時点から日立オートモティブと共同で開発して来ている。その後も機能アップを重ねてVer. 3まで世代を重ね、その優れた制御技術は世界でもハイレベルな水準にあり、それがスバルの先進安全運転支援システム(ADAS)に対する評価を高めてきたのは間違いない。

一方で、アイサイトの課題となっていたのは、ステレオカメラの検知範囲の狭さにあった。この狭さ故にACC制御中の急な割り込みに対処できないことも少なからずあり、近年は交差点における衝突被害軽減ブレーキへの対応が自動車アセスメント(NCAP)の評価対象にもなっている。安全性を少しでも高めたいスバルとしてもこれらの対策は必須だったはずだ。当然、日立オートモティブにもその改良を求めたと思われるが、結果としてその求めに応じたのはスウェーデンのVeoneer(ヴィオニア)社だった。

このヴィオニア製ステレオカメラは、イメージセンサーにオン・セミコンダクター製1/3インチCMOSを組み込み、処理チップにはXilinx(ザイリンクス)社製を採用する。特にオン・セミコンダクター社は車載用チップメーカーとして圧倒的なシェアを持ち、アイサイトVer. 3でも既に採用済みだったという。そして、このCMOSが最大のメリットとしているものこそ広いダイナミックレンジである。カメラが苦手とする逆光下でも対応力が高く、この日のデモでも一般的なセンサーとの違いをアピールしていた。

新型レヴォーグの前グレードに搭載される新世代アイサイト。ステレオカメラはスウェーデンのVeoneer社製(写真提供・SUBARU)新型レヴォーグの前グレードに搭載される新世代アイサイト。ステレオカメラはスウェーデンのVeoneer社製(写真提供・SUBARU)

このステレオカメラで実現できた画角は従来比で約2倍。捉える範囲を広げたことによって自転車や歩行者の横断にも対処でき、右折時の対向車に対してもプリクラッシュブレーキ制御が可能となったという。しかし、ヴィオニア製ステレオカメラで広角化できたとはいえ、広角化すれば遠くの被写体を検知するのが難しくなるはず。丸山氏はこの件について「広角化しても従来のステレオカメラと検知距離を同じにするために、CMOSの画素数を従来の120万画素から230万画素にまで高めて対応しました」と答えた。つまり、画素数が増えれば、被写体の像が小さくても早い段階から認識はできるというわけだ。

では、日立オートモティブはこの対応ができなかったのだろうか。同社がステレオカメラの広角化技術として実装済みなのがスズキ『ハスラー』にある。この技術では左右のカメラが検知できる範囲をそれぞれ外側にずらすことで検知範囲を拡大したものだ。単純に画角を広げるだけならともかく、これでは左右の視差から生み出されるアイサイトならではの高精度検知はできなくなる可能性がある。スバルとしてもステレオカメラの左右幅を頑なに変えておらず、そこには左右の視差に対するこだわりがあったはずだ。

新世代アイサイトは従来比2倍の広角化を実現した上に、前後左右にレーダーを備えて検知範囲を拡大した(図版提供・SUBARU)新世代アイサイトは従来比2倍の広角化を実現した上に、前後左右にレーダーを備えて検知範囲を拡大した(図版提供・SUBARU)

もちろん、日立オートモティブも画素数を上げて広角化できいる技術もあったと思われる。しかし、画素数を上げればチップの処理能力も上げなければならず、丸山氏が言うように、そこには調達コストという問題が立ちはだかった可能性がある。この件に関しては具体的なコメントは得られなかったが、ヴィオニアはADAS部門で世界屈指の実績を持つ大手サプライヤーであり、こうしたコストへの対応も柔軟に行えたものと推察できる。

そして、新世代アイサイトではカメラで検知できない前側方から接近する出会い頭の車両も搭載した77GHzミリ波レーダーで検知(前側方プリクラッシュブレーキ)。また、プリクラッシュブレーキだけでは止まりきれないと判断したときはシステムが操舵制御を行って、回避スペースへの導くことができるという。そして、車線変更しようとした時に後側方にいる車両を見落としていると、リアに備えた24GHzマイクロ波レーダーによる「エマージェンシーレーンキープアシスト」が作動して警報と共に逸脱抑制をアシストするのだ。この万全の対応こそが新世代アイサイトの真髄とも言える。

検知範囲を拡大したことで新世代アイサイトが実現する4つの安全運転支援(図版提供・SUBARU)検知範囲を拡大したことで新世代アイサイトが実現する4つの安全運転支援(図版提供・SUBARU)

しかも新型レヴォーグでは、このアイサイトの基本機能を全グレードに標準装備する。安全面においてグレード別での差を設けないスバルならではの考え方が活かされた格好だ。加えて、新型レヴォーグでは+35万円を支払うことで、渋滞時ハンズオフ走行やドライバーの異常を検知して自動的に減速→停止させる機能も一歩進んだ機能も装備される。その機能はまさにADAS搭載車として世界トップクラスと言ってもいいものだ。公道での実走行でその実力を試す日を楽しみに待ちたい。

《会田肇》

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