ロールスロイス史上最も成功した『ゴースト』が進化…新型のコンセプトは「脱・贅沢」

ロールスロイス ゴースト 新型
ロールスロイス ゴースト 新型全 15 枚

ロールス・ロイス・モーター・カーズは9月1日、新型『ゴースト』を発表。同社の歴史上最も成功したモデルがフルモデルチェンジした。

世界初のプラナー・サスペンション・システムを採用

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ロールスロイスといえば、マジック・カーペット・ライドを信条としているが、今回、それが大幅に進化した。それが「プラナー・サスペンション・システム」だ。同社によると、「これまでクルマでは実現できなかった、“陸上での飛行感覚”を実現した」という。

このプラナーとは“完全に平らで水平な幾何学的平面”を指す“プラナー”という単語にちなんでおり、10年間に及ぶ開発とテストによって生まれたものだ。物理的な技術開発のみならず、極めて高度なスキャニングやソフトウェア・テクノロジーも駆使したこのシステムは、フロント・サスペンション・アセンブリーの上部に世界初のアッパー・ウィッシュボーン・ダンパーを装着しており、これに連動して働く“フラッグベアラー・システム”を搭載。

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このシステムは、フロントガラスに一体化されたステレオカメラで前方の道路を読み取り、100km/hまでの速度域でサスペンションを事前に最適化。これにロールスロイス独自の“サテライト・エイデッド・トランスミッション”が加わる。これは、GPSデータを利用することで、これから向かう先のカーブに合わせて事前に最適なギアを選択する仕組みで、これらテクノロジーを専用のプラナー・ソフトウェア・システムがまとめて管理する。

また、5リンク式リアアクスルは、同じセルフレベリング式大容量エア・サスペンション・テクノロジーの恩恵を受けているほか、後輪操舵システムも採用している。前後のアクスルはプラナー・ソフトウェアで制御され、新型ゴーストのほかのサスペンション・テクノロジーの制御も行い、四輪駆動、四輪操舵、スタビリティコントロールなどの各システムを連携させ、路面状況やグリップレベルの変化に車両が一体となって対応。躍動的な運動性能を維持できるようサポートしている。

静かすぎると不安になる

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もうひとつロールスロイスを語るうえで静粛性は外せない。新型ゴーストが採用しているロールスロイスのスペースフレーム・アーキテクチャーはアルミニウム構造で、スチールに比べて高い音響インピーダンス特性を持っている。また、これは共鳴しやすい平面ではなく、複雑な形状で構成されており、バルクヘッドとフロアセクションも二重構造で、その間に複合素材製のダンピング・フェルトを挟み込み、室内に侵入する走行音を低減させている。さらにドア、ルーフ、二層構造のウィンドウガラスに挟まれた中間層、タイヤ内部、そしてアーキテクチャーを構成する大部分に、合計100kgを超える防音素材も使用している。

一方静粛性が向上すると、これまでほとんど感知できないわずかな音が耳に届き始める。ロールスロイスの音響技術者はこれを“ヒドゥン・インプット(隠れた入力)”と呼び、エンジニアが許容できないと定義したノイズを発生させていないかどうかを評価するため、あらゆるコンポーネントを調査し、必要に応じて設計を見直した。

例えば、エア・コンディショナーのダクト内側から許容できないレベルの送風音が発生していると判明したため、エンジニアはそれを取り外し、内部をなめらかに研磨することで、最終的なコンポーネントの製造に反映。また、プロペラシャフトの直径を調整して剛性を高め、音響特製を改善するなど多岐にわたって手が入れられた。この結果、ロールスロイス曰く、「完璧に無音のインテリア・スイート」が完成した。

しかし、それがかえって落ち着かないことが判明。そこで導き出された解決策が、わずかに音として感じられる柔らかな小声で話すときのような“ささやき”を作り出すことだった。これを実現するために、各コンポーネントが共通の共鳴周波数になるように、サウンド・チューニングを施す必要があった。

例えば、初期のプロトタイプのシートフレームは、ボディと異なる周波数で共鳴していたことから、そのノイズを単一の音にまとめる制振ユニットを開発。また、容量507リットルのラゲッジルームの空洞からは、高速走行時に身体に感じられる低周波ノイズが発生していた。そこでリア・パーセルシェルフの下にポートを設け、不快な音波を外に逃がすことで、全体的な音響特性との調和が図られたのだ。

デザインコンセプトはポスト・オピュレンス

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新型ゴーストのデザインコンセプトは、“ポスト・オピュレンス(脱贅沢)”である。これはすでに建築やファッション、ジュエリー、ボートなどのデザイン分野で確立されているもので、これ見よがしな表現ではなく、素材の本質的な価値によって定義づけられるものだ。新型ゴーストでもこのミニマルな美学を追求することは、デザインチームの絶対的な目標として最初から最後まで貫かれた。同時に紛れもなくロールスロイスであることも求められた。

そこでデザインチームは車幅を30mm広げることで、さりげなく存在感を表現。角張ったライトシグネチャーと交差する、シャープな弓状のラインによって縁取られ、存在感を主張しながらも美しいフロントエンドを生み出した。さらに、新型ゴーストのフロントエンドにはラジエーターグリル頂部の下に配された20個のLEDが、グリル内側のバーを淡く照らし独自の優美な個性が与えられている。

サイド下部の“ワフト・ライン(ふわりと浮かぶようなライン)”はボートのデザインからインスパイアされたもので、光の反射を利用して表面を輝かせ、ピュアでシンプルな動きを感じさせている。そして、前後のドアのウィンドウ形状が等しい比率で割り振られ、これにより新型ゴーストがドライバーズカーとショーファー・ドリブンの両方のキャラクターを両立させたクルマであることを示唆。緩やかにアーチを描くルーフラインは、躍動感をさりげなく主張し、リアエンドはこの躍動感を引き継ぐように絞り込まれている。

最高品質の素材を使ったインテリア

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インテリアもエクステリアと同様にミニマリズムの原則を追求。ごてごてしたディテールやこれ見よがしな飾りを排除して、心から寛ぐことのできる空間を創り上げるだけでなく、素材の本質的な価値を活かし、ビスポークのカラー・パーソナライゼーションの効果を最大限に発揮させることが目指された。

しかし、リダクション(削減・縮小)やシンプリシティ(簡素)、エレガンス(優雅)で定義される環境を創り上げるのは極めて複雑で困難であり、最上級の素材を調達することも必要だった。装飾に頼らず、素材自体の魅力でお客様の厳しい審美眼にかなうためには、上質のレザー、ウッド、メタルも必須だ。そのために、新型ゴーストのインテリアに使用される1台あたり20枚のハーフ・ハイドのレザーは、自動車業界で最も厳しい品質管理を経て選別され、338枚(見えない箇所に使われるものも含む)のパネルはすべて最高品質で仕上げられている。

また、インテリアには凝った複雑なステッチはあえて使わず、驚くほど長いステッチを完全に真っ直ぐに縫い上げ、顧客の審美眼にかなうレベルに仕上げるために、ロールスロイスが長年培ってきたレザークラフトの高度な技術が活かされた。

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新型ゴーストのウッドセットには、素材のありのままの魅力を堪能できるオープンポア仕上げも用意。新しいウッドトリムも2種類用意され、そのひとつが“オブシディアン・アユース”で、これは溶岩石の色の多様さにインスパイアされたものだ。

もうひとつは“ダーク・アンバー”で、これはダークウッドの表面に微細なアルミニウムの粒子で細かな模様を施したもの。レザー・フィニッシュと同様、この素材も長い1枚の薄いベニアをむき出しの形で使用。その間には金属製エアベントが設けられ、ここからはMEPSフィルターで清浄化された空気がキャビンに送り出されている。

小さな星とGHOSTの文字と

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ロールスロイスのルーフにはスターライト・ヘッドライナーと呼ばれる満天の星空を模したルーフライニングが装備されている。それを踏まえ新型ゴーストの開発にあたっては、ロールスロイスの“ビスポーク・コレクティブ”のデザイナー、エンジニア、職人たちは“イルミネーテッド・フェイシア”を作り出した。

2年の歳月と延べ1万時間以上をかけて開発したスターライト・ヘッドライナーは、室内に“GHOST”の文字を幻想的に浮かび上がらせ、その周りには850個を超える小さな星が散りばめられている。助手席側ダッシュボードに装備されるこのワードマークと星の集まりは、ルームライトを点灯していないときは全く見えないように配慮。イルミネーション自体はフェイシアの上部と下部に取り付けられた152個のLEDから送られるが、それぞれが発する色はキャビンの時計や計器盤の照明に合わせて念入りに調整されている。

GHOSTのワードマークを均等に照らすため、厚さ2mmのライトガイドを使用し、その表面には9万個を超えるドットがレーザー・エッチング加工されている。これにより光が均等に分散されるだけではなく、フェイシアに沿って視線を動かしたときに、光がきらめいて見える効果を生み、スターライト・ヘッドライナーの繊細な輝きが反映されているのだ。

ロールスロイス史上最も技術的に進歩したモデル

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同社最高経営責任者のトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏は、「先代ゴーストは、年齢や思考がそれまでとは異なる、全く新しい世代の顧客層のニーズを満たすために生み出された。こうしたお客様は、やや小ぶりで、さりげない存在感のロールスロイスを求めており、このようなニーズに応えた結果、期待を大きく上回る成果をもたらした。2009年に発売されたゴーストは、その後の10年間で、ロールスロイスの116年の歴史上で最も多くの販売台数を誇るモデルとなった」と語る。

「今後の10年間にわたりゴーストを所有するお客様の心に響くような新製品を作り出すため、お客様が何を求めているのか、その声にじっくりと耳を傾けた。(ターゲットユーザーである)実業家や起業家などの方々は、ダイナミックで、静粛性と快適性に優れ、ミニマリズムを極めた新しいタイプのスーパー・ラグジュアリー・サルーンを求めている。その答えが新型ゴーストだ」

「先代ゴーストから受け継いだコンポーネントは、スピリット・オブ・エクスタシーと傘だけだ。それ以外のすべてがゼロからデザイン・開発・製作された」とコメント。その結果、「ロールスロイス史上最も技術的に進歩したモデルが誕生した」と話す。

「ロールスロイスブランドの柱となる要素を再解釈して生み出された、美しく、ミニマルでありながらも極めて手間のかかった製品であり、ゴーストのお客様の要求とも完璧に調和している。また、今の時代にも完璧に調和するクルマであると、私は考えている」

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《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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