【三菱ふそう キャンター 新型】ふそうブラックベルトを採用し、新たな“顔”で登場

最終セレクト案
最終セレクト案全 25 枚

三菱ふそう『キャンター』がフルモデルチェンジし、10年ぶりにキャブデザインが一新された。

デザインの変遷をめぐって

新型キャンターのデザインを担当した、同社商品本部デザイン部アドバンスデザインマネージャーの土出哲之氏は、10年前に出た先代キャンターのデザインも手掛けている。「初めて自分のデザインが採用されて製品化されたクルマなので、とても思い入れがある」と述べ、2代続けての担当となったことを明かす。

三菱ふそうの製品は大型中型小型のトラックやバスなど幅広いレンジの製品が揃っており、多様な使われ方が想定されるクルマたちだ。それらに対して土出氏は、「信頼性、勇気、粘り強さ」という3つのキーワードを挙げ、「会社として信頼のある製品を、お客様に勇気を持って、新しい先進技術を取り入れ、継続的に提供し続けるという会社のブランドバリューをどのように形に活かしていくかがデザインの仕事だ」とこのキーワードの意味とともに自らの立ち位置を説明。

そして今回、改めて三菱ふそうはどういったデザイン変遷をたどって来たかを紐解いたという。「シンプルでモダン、凝縮感のあるデザインが見て取れた。例えば初代キャンターはいまのクルマに比べて非常にすっきりしており要素が最低限。ただしレイアウトのバランスは吟味に吟味を重ねている。ちょっとでも各要素が動いてしまうと、まったく別のものになってしまうくらい究極までシンプルにしたという良い事例だ」と解説。シンプルでモダン、凝縮感のあるデザインシンプルでモダン、凝縮感のあるデザイン三菱ふそうキャンター新型三菱ふそうキャンター新型

また70年代の大型トラック『Fシリーズ』は、「グリルを見ると、黒いグリルのかたまりの中にふそうの大きなブランディングの表現とともに、冷却の機能、灯火類も装備されており、複数の機能、複数の表現したいものがひとかたまりになっている。これも三菱ふそうデザインの特徴だ」と述べ、「そういった過去の製品から学ぶべきところを読み取った」と今回のデザインに活かしていったことを示唆した。

デジタルとアナログの両立

デザインの開発においては最近デジタル化が進んでいる。その一方、土出氏は三菱ふそうのデザインとして、「クレイモデラーが人間の手で削るなどでモデル化している。このように人間の手が入ることで温かみとともに、人が見て触ったときの心地よさが出来るのではないかと我々は常に信じている」。デジタルとアナログの相乗効果デジタルとアナログの相乗効果VRを用いた形状確認VRを用いた形状確認

一方で、「デジタルのメリットは効率化なので、効率化出来るところは積極的に採用している」と述べ、最新のVRなども利用しているという。そして、「どんどんデジタル化が進んでいる中でも、人の手は大事にして、上手くデジタルとアナログを組み合わせてデザイン開発をしている」と説明し、これらを両立していることを強調した。

ふそうブラックベルトを採用

土出氏は、「新しくクルマを作るにあたり、クルマの顔には何かしら主役になるものが必要だ」という。その理由は、「色々な要素がばらばらに散らばっていると、なかなかクルマがひとつとして見えてこない。しかし、ちゃんと主役級のキャラクターをひとつ設定することで、クルマのキャラクターが明快になる」と話す。新デザインアイデンティティ新デザインアイデンティティ

これは、最近の乗用車でも共通のブランドアイデンティティをあてはめていくことと同じで、「何かひとつ強いメッセージ性のあるデザインテーマを持たせたいと、近年発表された三菱ふそうのバスに既に取り入れている“ふそうブラックベルト”というモチーフを新型キャンターにも採用した」と説明する。

さらに三菱ふそうのエンブレムは、いままでは若干上下方向に圧縮されており、またボディ色の上に配されていたため、「ちょっと見づらかった」と土出氏。そこで、「ブラックベルト上に見えやすい縦横バランスの文字を置くことで、さらにブランドとしてのアピールした」という。また、「黒い部分が独立した要素になるので、お客様がどういったボディーカラーに塗ったとしても、ある程度ブランドを認知してもらえるだろう。そういったところでブランディングのあり方や表現も今回改めて考え直した」とコメントした。

このふそうブラックベルトは、現在各大型中型小型それぞれのトラックバスに採用途中だ。土出氏は、「このデザインモチーフを全部のラインナップに“そのまま”あてはめるわけではない」と明言。例えば、「バスであればお客様を優しく運ぶものなので、若干エレガントな表現」。大型トラックであれば、「パワー、力でお客様の物資を運ぶという役割なので、それに見合った力強い表現」。そして小型トラックは、「街中を軽快にきびきびと走るクルマなので、軽快感などを表現させるなど、それぞれのクルマのキャラクターにあったあてはめ方をしていく」と語った。統一された新デザインアイデンティティ統一された新デザインアイデンティティ

長く使ってもらえ、飽きの来ないデザイン

新型キャンターをデザインするにあたり、土出氏は、「どういった形でキャンターらしさや、つまらない単なる箱に見えないようにするかにトライした」という。「トラックというとどうしても箱というイメージ。その中でどういった表現が出来るか、またお客様に対してどういった新しい価値観を提供出来るかを様々な方向でトライしている」と述べる。

そして新型キャンターは、「全体的にすっきりした品質感のあるデザイン」に仕上がった。「先代キャンターは部品の合わせを多く取ることで強いキャラクターに昇華したデザインであるのに対し、(新型は)方式を変えてなるべくすっきりとまとまるようなデザインにした」という。

その理由は、「初代キャンターと同様すっきり見せることで、長く使ってもらえる、古びない、飽きがこない、そういったデザインに大きく寄与する要素が生まれる。小型トラックはモデルチェンジのタイミングが大体10年近いので、変に流行を追うのではなく、長く愛せるクルマになるようにデザインにした」とのことだった。

また10年前にデビューした先代キャンターは、「タフ&ソリッドというテーマで、縦横の強いキャラクターによるデザインだった。そして今回、さらに長く使ってもらえるクルマとして、どうやったら全体としてすっきり見せられるか。これまでのデザインテーマを否定するわけではないが、各部品部品が独立したようなデザインから、それらがお互いに影響しあい、結果としてひとつのクルマに見えるところに注力した」と土出氏。外観デザイン概略外観デザイン概略

さらに、「通常世に出ているトラックは、力強さや大きさを表現したいので、縦基調のVラインが入っていることがすごく多い。しかし今回は、ふそうのデザインモチーフであるブラックベルトを用い、水平方向に広がるような勢いを感じさせるデザインにすることで、横方向に安定してワイドに見えるように表現」。そして、「全体としておおらかですっきりしたまとまりの中に、ヘッドライトやグリルなどの機能を取り入れた。魂は細部に宿るではないが、クルマに近寄ってそういった細かいところを見たときに、きちんとデザインされていることを感じてもらえるように、細かいところまで細心の注意を払ってデザインした」と話す。

また、土出氏によると、「トラックはベーシックグレードとハイグレードで比較をすると、どうしてもベーシックの方は、ハイグレードから(装備を)剥ぎ取ったようなイメージが付きまとう」という。しかし新型キャンターは、「ベーシックでもきちんとしたものをお客様に届けたいと、今回の特徴のひとつとして、新しいLEDのヘッドランプを全車標準装備した」。オプションでハロゲン仕様の設定はあり、「実を取るお客様に向けての仕様も用意」。そして、「こういったベーシックな使用であっても決して手を抜くことなく、きちんと見栄えの良いもので、さらに機能をちゃんと満たしているものをどうしたら提供出来るかという観点でデザインした」と語る。外観デザイン概略外観デザイン概略

土台をしっかりと

新型キャンターのフロント周りについて改めて土出氏は、「ふそうブラックベルトという新しいデザインアイデンティティが顔の主役。それによって水平基調の安定感のあるデザインを実現した。さらにその主役を際立たせるために、若干縦のラインや、ブラックベルトを主役とした台形のモチーフ(バンパー下の部位)を入れているが、これらはサブの要素としてメインのキャラクターを際立たせるための役割を担っている」と説明。

さらに細かいところでも、「車両の上から非常に大事なシンボルであるスリーダイヤの三菱マークを一番上に置き、それを支えるブラックベルトは非常に盤石な土台で、その中に三菱ふそうエンブレムを力強い新しいフォントを用いて配置。そこの下には全体としておおらかですっきりした印象の中に、細部にまでこだわったグリルモチーフや、ヘッドランプが入っている」。

その下には、「19年モデルから採用されている高精度ミリ波レーダーが引き続きバンパーのセンターに設定され、そのバンパー部分は単に機能だけではなく、造形的にもブラックベルトを支える台形のモチーフで安定感を持たせた。さらに機能面では仮にちょっとぶつけてしまっても、きちんと全体を支えられるように、なるべくワイドで幅を取ったバンパーを用いることで、機能や、見た目だけにならないように、全てを統合させて改めて新型キャンターに投入したのが特徴だ」と語った。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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