【メルセデスベンツ GLC F-CELL 新型試乗】世界初「燃料電池PHEV」を『EQC』と乗り比べてみた…中村孝仁

メルセデスベンツ GLC F-CELL
メルセデスベンツ GLC F-CELL全 27 枚

実にFCV(燃料電池車)の試乗は1998年以来のことだ。実は日本製のFCVであるトヨタ『ミライ』やホンダ『クラリティ』には乗ったことがない。

その今から22年も前に乗ったFCVは、当時自動車の未来は燃料電池に有りと世界中が大騒ぎした中で生まれたメルセデスベンツNe-car4とフォードP2000(うろ覚え)の2台だった。まだ色々な要素が確立される以前の話だから、メルセデスは液体水素を燃料としていたし、一方のフォードは気体水素を燃料としていた。

とまあ、黎明期からこのF-CELLには試乗していたのだが、メーカーの合従連衡にまで及んだ燃料電池騒動はものの数年で収縮。以後、深く潜航して開発が続けられていったのである。トヨタ・ミライはまさに世界初の量産燃料電池車だったものの、それ以後も堂々と市販を謳うモデルは現れず、ホンダ・クラリティもリース販売のみ。そしてこのメルセデスベンツ『GLC F-CELL』も目下のところリース販売のみである。

『EQC』と乗り比べてみた

メルセデスベンツ GLC F-CELLメルセデスベンツ GLC F-CELL
GLCと付くことからもわかるように、この燃料電池車はトヨタのような専用設計ではなく、既存のガソリン車GLCをベースとしている。そのために苦労の跡もあって、その最大のものはリアアクスル付近にある水素タンクの存在。それを保護する目的で、床下にカバーが付けられ、実はそいつが地上高を下げている。

具体的な地上高はわからないが、少なくともiPhone7は縦に入らず、10から12cm程度の地上高しかなかったので、走行にはそれなりの気を使う必要がありそうだった。このあたりが専用設計でなく、既存プラットフォームを使った弊害と言えなくもない。

メルセデスベンツ EQCメルセデスベンツ EQC
実は、今回はBEVの『EQC』と乗り比べという豪華な試乗を行った。以前EQCに乗った時に、そのロードノイズの遮断性能が素晴らしく良いと記した。一方で乗り心地に関しては 「上屋の揺れが比較的路面の凹凸に敏感に反応してしまう。」とも書いた。F-CELLと乗り比べてみると、驚いたことにF-CELLではその上屋の揺れがまるで感じられないのである。つまり、少なくとも乗り心地に関しては間違いなくEQCよりも上だ。

因みに車重はEQCの2600kgに対してF-CELLは2150kg。何とその差450kgもある。にもかかわらず、クルマの挙動のしっかり感やどっしりとした安定感に関してはF-CELLの方が上だった。それにロードノイズの遮断に関してもEQCをさらに上回るレベルとなっていた。というわけで、GLCをベースにした3台(ガソリン・ディーゼルを含む)を比べてみても、ことロードノイズの遮断という点に関しては、文句なくF-CELLに軍配が上がる。

世界初の「燃料電池プラグインハイブリッド」

メルセデスベンツ GLC F-CELLメルセデスベンツ GLC F-CELL
いちいち数値を並べたところであまり意味はないと思うが、性能的には最高出力160Kw、最大トルク370Nmということで、車重を考えると少々役不足のようにも思えるが、3人乗車での試乗でも、性能的に不満を覚えるようなことはなかった。

因みに航続距離は377km。そしてこのクルマはリチウムイオンバッテリーに外部から充電が出来るプラグインハイブリッド(PHEV)機能を備え、バッテリーのみでも41km走れることになっている。この燃料電池プラグインハイブリッドという機構は世界初のものである。

ただそうは言っても、満タンで試乗開始したわけではないのだが、航続距離は乗り出した時から130km程度と短く、それが大きく減るようなことはなかったのだが、90分後に返却した時は114kmに落ちていた。箱根の山を上がっていったので、降りる時にそれなりの回生が働いたからこの結果なのだと思う。

世界的に見てもまだ水素ステーションのインフラが少ないから、安全を担保するためにPHEVを加えたともいえる装備であるが、まあ安心感は高い。

メカニカルという印象よりも「電気」を感じる

メルセデスベンツ GLC F-CELLメルセデスベンツ GLC F-CELL
燃料電池とバッテリーの使用モードがあり、「ハイブリッド」をセレクトすると状況に応じて燃料電池側とバッテリー側を使い分ける。これを「F-CELL」モードにすると、燃料電池側の電源を使い、「バッテリー」というモードではバッテリー側のみを使う。さらに燃料電池からバッテリーにチャージする「チャージ」というモードも存在する。あれこれ試してみたが、室内からその違いを明確に判別するのは難しい。

一方で、エンジンルームを開いて(エンジンはないから何と呼べばよいやら)見ると、複雑な機構が顔をのぞかせ(上に載せてある分厚いゴムパッドを取る必要がある)、あちらこちらからモーター音と思しき複雑怪奇な音を奏でていた。その点は明らかにEQCよりも賑やかである。まあどちらもメカニカルという印象よりも「電気」を感じる。

リースとしている理由の一つは燃料タンクの寿命の問題があり、現在の法律では15年を超えて水素を充填してはならないことになっているはず(そんなに乗る人もいないけど)。この点は国交省も検討材料としているようだが、いずれにしてもタンクに寿命があることは確か。やはり今のクルマは機械技術だけで動いていた昔のクルマと違って、直し直し乗るということが出来ないようだ。

メルセデスベンツ GLC F-CELLメルセデスベンツ GLC F-CELL

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. 【スバル レヴォーグレイバック 新型試乗】「アウトバック」以来、30年にわたる挑戦の成果…諸星陽一
  2. ルノー『キャプチャー』新型、4月4日デビューへ
  3. ホンダ『フリード』次期型予想に注目! ボディ拡大? デザインは?…土曜ニュースランキング
  4. メルセデスベンツ、新型パワートレイン搭載の「GLA180」発売…高性能モデルAMG「GLA45S」も追加
  5. ドライブ中の突然の曇り問題にサヨナラ! DIYでウインドウ曇り防止 ~Weeklyメンテナンス~
  6. シトロエンが新型SUVクーペ『バサルト・ビジョン』を発表 南米で2024年内に発売へ
  7. 【メルセデスベンツ Eクラス 新型試乗】SUV全盛の今に、果たしてどのような人が選ぶのだろう?…河村康彦
  8. BYDが高級ブランド デンツァ『D9』の先行受注を開始! 同じ右ハンドル市場の日本投入は?…バンコクモーターショー2024
  9. 日産『エルグランド』一部仕様変更、安全装備を強化
  10. ボルボカーズ、ディーゼル車の生産を終了…2030年にEVメーカーへ
ランキングをもっと見る