【トップインタビュー】プレミアム市場で躍進のボルボ「次の一手」とは?ボルボ・カー・ジャパン マーティン・パーソン社長

ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 マーティン・パーソン氏
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コロナ禍による影響をいまだ推し測り難かった今年3月、木村隆之前社長に代わり、ボルボ・カー・ジャパンの代表取締役社長に就任したマーティン・パーソン氏。日瑞間の渡航や出入国管理といった外的要因もあって着任が10月にずれ込み、最初の半年少々はリモート体制という、異例のスタートを切った。

とはいえ明治大学で経営学を学び、ボルボの日本法人でキャリアをスタートさせ、その10年後にはスウェーデン本社でグローバル顧客管理部門の責任者を務め、直近の7年間はロシアと中国に赴任。そんなパーソン社長は、「徐々に日本に近づいてはいました。戻って来られて本当に嬉しい」と、流暢な日本語で笑う。

プレミアム・セグメントにおけるボルボの立ち位置、日本での戦略について、パーソン社長が独占インタビューに応えた。

中国、ロシアと日本市場の違いと現状

ボルボカーズの主力車ボルボカーズの主力車
----:これまで経験してきた中国やロシアの市場と、日本市場との違いそして現状を、どのように捉えますか?

マーティン・パーソン社長(以下、パーソン社長):私がいた2015~18年頃の中国市場はきわめて活況で、EVの新ブランド参入が多かった。競合の質が日本市場との大きな違いです。いわゆるテック企業のメーカーのやり方は、内燃機関を経験している従来の自動車メーカーと異なり、正直いってEVを造る方がより簡単だと捉えている節がある。でも彼らはどうデジタルを盛り込むかという、新しい考え方をもち込んだ。自動車産業にとって良いチャレンジです。それはまだ日本市場では誰も挑んでいない。

日本市場は良くも悪くも、ゆっくりと変化している市場。中国ほど右肩上がりではなく、既存ブランドが群雄割拠で、ブランド間でも大きなシフトがない点はロシアと似ていますが、電動化という視点ではまた違います。ロシアはユーザーの動きより政府の施策が保守的で、欧州各国のように補助金も無ければ充電インフラも整いづらく、国土も広くて移動あたりの距離も長い。よってEVよりもスモールPHEVを促進することが重要でした。その点、日本はロシアと大きく異なり、フル電動化に移行しやすいでしょう。

実際、日本に戻って来て、思った以上に変わったことに驚きました。でもさらなる変化がこれから数年の時間軸で、自動車産業に訪れると見ています。まず電動化、次にカスタマーの行動の変化です。今日のカスタマーより明日のカスタマーはデジタルをより経験しています。さらなる選択肢、必ずしも購入ではなくサブスクリプションやカーシェアをも求める。これらはグローバルなトレンドですが、まだ日本では本格的に起きていないものの、間もなく起こると見ています。

----:プレミアム・セグメントでのボルボの立ち位置について、グローバル市場と日本市場それぞれにおいて、何か違いはありますか?

パーソン社長:今になって思うのですが、SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ、XC90以降、XC60やV60らを担うプラットフォーム)の導入以前から、日本ではボルボはつねにプレミアムとして捉えられてきました。対して他の市場では、必ずしもボルボはプレミアムやハイエンドの一角ではなかった。ところがSPAの登場以降、ボルボは急速に他の市場でもプレミアム・ブランドとして認知されました。

昔は、良質で安全なクルマ、でも必ずしもハイエンド・プレミアムではないという。明確に“(プレミアムという)クラブ入り”してブランドが上位移行できたのですが、日本ではスタート地点が高かった分、移行幅が相対的に小さかった。この変化がとてもドラマティックに起きた国もあって、とくにスウェーデン本国がそうでした(笑)。

いわばボルボにとってイメージやブランドの立ち位置という点では、日本に昔からあった感覚に世界中の他の市場が追いついたような。2015年から2019年にかけてのSPAプラットフォームの成功が、それだけ大きかったのです。5年前、私たちは自動車業界を見渡して、もっとも新しいプロダクト・ポートフォリオを始めるところでしたから。

デジタル・エクスペリエンスをどう組み合わせるか

ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 マーティン・パーソン氏ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 マーティン・パーソン氏
----:ではSPAやCMAという既存プラットフォームの成功を、次なる電動化戦略の中に活かすのに、具体的にはどのような展開を考えていますか?

パーソン社長:電動化と同時にカスタマーにより多くのデジタル・エクスペリエンスを提供すること。全部が全部ではなく、私はオンライン/オフラインの混交が妥当と考えています。日本では今もプレミアムな一台を購入する際にパーソナルな何かが重視されます。一方で、“デジタルなもの”も必要。大事なのは、これら二者の異なるエクスペリエンスをどう組み合わせるか、です。

要は100%デジタル、600万~1000万円以上の買物をするカスタマーがすべてデジタル化を求めるとは、私には思えません。もうひとつの軸はモビリティ・プロダクト、ボルボが欧州で成果を上げているサブスクリプションの領域ですね。日本でも私たちは同様のプロダクトを展開していますが、もっと拡げられると考えています。

日本における最初のサブスクリプション・サービスの反応もポジティブでしたが、欧州でそうであるように、必ずしも所有しない方向ですね。車の購入にあたって修理メンテナンスや保険といったその他のコストの心配をせず、月々ワン・プライスで煩わしいすべてを解決できるという。そういう方向を求めるカスタマーはとくに若い世代に多いと確信しています。実際、コロナ禍の影響で車は要るけど所有したくはない、モビリティだけ必要、そうした層はいます。

----:ボルボは2025年までに販売の50%をオンライン化する目標を掲げていますが、日本にもそれは当てはまりますか?

パーソン社長:オンライン販売は増えていくと思います。日本での販売の50%がそうなるか、確たることはいえませんが、グローバルには“イエス”で、50%という数字で日本での成否を問うのは早過ぎると考えています。いずれにせよ、カスタマーが求める以上、オンライン取引が増えていくことに疑いはありません。

----:オンラインでの販売取引が増えた時、従来のディーラー網との関係をどのようにして保つのでしょうか?

パーソン社長:もちろん従来のディーラー店舗は、このオンライン・ネットワークの一部でもあります。というのも、私たちがオンラインでできることもあれば、実際の納車などオンラインでは無理なこともある。修理メンテナンスも当然、オンラインではできません。それにカスタマーは購入前に試乗したいものです。これが先ほども述べた、オンライン/オフラインの組み合わせどころです。

カスタマーは最初ほぼ必ずオンラインで調べてから、試乗のためにディーラーに赴いて、それからオンラインで購入するかもしれないですし、ディーラーに再び行って納車引き渡しや修理メンテナンスを必要とします。当然、私たちのディーラー・パートナーは試乗以降のほとんどの段階を担う訳ですから、私はそこに齟齬はなく、ただ仕事の進め方が変わるだけと考えています。

オンライン検索に対応した情報供給は私たちの役目ですが、試乗から先、実車を挟んでのカスタマー・エクスペリエンスはディーラーの強味、専門領域です。デジタル・エクスペリエンスやプラットフォームについては私たちが主導し、店舗でのリアルにおけるエクスペリエンスはディーラーが担うという分担です。

電動化は「エキサイティングなチャレンジ」

ボルボ XC40 リチャージ P8ボルボ XC40 リチャージ P8
----:日本での販売台数は直近の1~9月は前年比18%減、ボルボとしては日本で5年ぶりの前年割れでした。現況をどう分析し、今後どのような推移を見込まれますか?

パーソン社長:2020年にはふたつの側面があります。まず年前半はコロナ禍による大きな影響を被りました。通常の市場環境ではなかったということです。よって年後半に顕著に現れた多くのトレンドや需要から、物事やキー・パフォーマンスを判断すべきなのです。

第3四半期は良好で、勇気づけられる結果でした。ビジネスが戻って来て、我々の焦点は、いかに第4四半期でさらに強く伸ばせるか?にあります。ここで伸ばせたら、改善されたトレンドに対してパフォーマンスもついていけているということです。だから今年については、通年で判断することに大きな意味はないと思っています。

----:B5をはじめとする48V MHEVパワートレインが登場してから、カスタマー側にトレンドの変化はありましたか?

パーソン社長:私たちのMHEVパワートレインのすべてに、とてもいいリアクションが得られています。これが電動化の出発点であると確信しています。我々は全ラインナップで48V MHEVによる電動化を完了していますし、ここでの成功がPHEVやBEVにおける成功の礎となることは確実です。それこそ日本市場で電動化が今すぐでなくても、やがて徐々に進んでいくという、先ほども申し上げた、私の確信です。

ボルボとして電動化を進める方向性ははっきりしており、グローバルで2025年までに販売の50%をフルEVとする目標を掲げていることはご存知の通り。電動化は未来、なのです。

ボルボ XC90 B5 MHEV(マイルドハイブリッド)のエンジンボルボ XC90 B5 MHEV(マイルドハイブリッド)のエンジン
----:あなたが日本に着任する前、日本市場で電動化が成功するという道筋は、チームの中で確信をもって捉えられていましたか?

パーソン社長:疑義があったとは思いません。でも電動化はまだ始まったばかりで、まったく新しいことで数字としてもまだ小さく、どう判断するかは容易ではない。しかし私たちがすでに成し遂げたのは、その戦略を明確化することでした。それはプレミアムEV市場でリーダーになることです。『リーフ』や『プリウス』のセグメントではなく、プレミアムEVとして。

----:そのためにボルボ・カー・ジャパンとして最大の課題、取り組むべきはどのようなことでしょうか?

パーソン社長:ふたつの異なる課題があり、両者のバランスを保ち続けることです。ひとつは販売面で回復すること、すなわち今、手元にある車を販売すること。それと同時に、未来に向けた変化を仕掛けていくこと。両方とも必要で、どちらか一方だけに集中することではありません。

今日の販売面だけに気をとられては未来はなく、未来だけにとらわれても今日のビジネスを逃す。これがまさしく今、私がチーム内で問うていること、前向きな未来についての話ですから、とてもエキサイティングなチャレンジだと思います。

高額の自動車を、修理サービスのないところで購入する人はいない

ボルボの販売店ボルボの販売店
----:今後、カスタマー・エクスペリエンスの上で、オンラインとオフラインが組み合わされるという点ですが、ディーラー店舗数や試乗ポイントは現状で足りている、それとも不足しているという認識ですか? あるいは店舗数も拡大して試乗の機会を広く増やしていくといった方向でしょうか?

パーソン社長:それも重要課題です。いま進めているのは、1か所ですべてを賄う・行える店舗ではない、ということです。もうすぐその変化を目にされると思いますが、例えばショールームはショッピングモール内に、修理サービスのサテライトや中古車センターは別に。リテールの基本フォーマットが変わる、ということです。

ただそれは、ボルボに触れることができるスペースが減るという意味ではありません。触れ方が変わるということです。実際にオンライン検索をされた方は、実車を見に行って、続いて試乗したくなりますよね? ショッピングモールや市街の店舗はおそらく、ディーラーのサービスすべてを賄うには難しいですから。

もうひとつ、中古車についても横浜に新しいユーズドカー・センターを開設しました。見た目はディーラーですが、ユーズドカーに特化した店舗です。ユーズドカーであっても体験はプレミアムという。これまでと異なるフォーマットにおける多様化は進めますが、カスタマーとの接点を絞ることはせず、リーチする手段が多様化するということです。

----:それがポールスターの場合だと、ハイファッションな通りにブティック的な店舗を構え、サービスは別という。

パーソン社長:そうです、ポールスターの戦略はブランド・スペースと、サービス・サイトが分かれていることで、とても興味深いと思います。繰り返しますが、私たちは従来のディーラーから離れることはありませんが、全体を異なるパースペクティブで捉え直すこと。逆にいえば、ボルボ・カー・ジャパンがサービスを直接に手がけることはない。それは私たちの職種ではないのです。インポーターとディーラー間の齟齬はよく言われることですが、ボルボではそれはないですし、我々はディーラーをパートナーとして今も強く必要としています。変化はあっても、齟齬はないのです。

電気自動車ブランド「ポールスター」が北京モーターショー2020で見せた「プリセプト」電気自動車ブランド「ポールスター」が北京モーターショー2020で見せた「プリセプト」
----:ポールスターの日本導入はいつ頃、という見通しはありますか?

パーソン社長:今のところ未定です。計画がない訳でなく、確定されていないという意味です。来るか否か? それについてもまだ決定といえるものはありません。

----:いわゆる従来のディーラーではない店舗というと、テスラが先行していますが、参考にするとことはありますか?

パーソン社長:イエスでもありノーでもあります。というのも(ディーラーとは)循環的システムにすることが大事で、一方でサービス体制も必要です。それらが一か所である必要はない。でもカスタマー・サービスの人材は要ります。ディーラーAが車を販売して、また別にサービスがある…という風ではなく、同じディーラーです。英語では「ハブと(複数の)スポーク」といういい方をしますが、ショールームは実際に存在しても修理サービスを賄えるハブに属するということ。高額の自動車を、修理サービスのないところで購入する人はいませんから。

ボルボの改革における次の局面をリードする

ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 マーティン・パーソン氏ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 マーティン・パーソン氏

----:今回、日本に戻って来る、ボルボの日本法人社長というポストにアサインされるにあたって、本社からはどのようなミッションだと説明されましたか?

パーソン社長:ボルボの改革における次の局面をリードすること、です。最初の段階はプロダクトをすべて一新すること、そしてブランドのより一層のプレミアム化でした。今から先は、私たちは次の段階と捉えていて、平たくいえばよりローカルに、現地に寄り添うことです。

前段階において、ボルボ・カー・ジャパンはSPAやCMAプラットフォームにおけるプロダクト展開を充実させましたが、これからは日本という現地の市場が求める方向に先んじて動いていきます。先ほど話題になった、販売ネットワーク網やデジタル・エクスペリエンスが、どのようなものになっていくべきか? こうしたところから改革の次世代への変化を導くことが、まさしく私の仕事です。

----:パーソン社長ご自身は、日本でボルボというブランドをどのような方向に導きたいと考えていますか?

パーソン社長:ボルボには優れた基本要素が揃っています。その多くは“安全”に基づくもので、そこに多大な注意を払う人々と、スカンジナビア・デザイン。これら守るべき3分野に、そこから生まれ出てくる革新を加えたい。電動化、デジタル・エクスペリエンス、(従来の所有型モデルではない)モビリティ・プロダクトですね。これら強固なベースの上に立って、革新という領域に拡大していきたいと考えています。

具体的には、ボルボについて「ワォ、進んでいるね」「新しいことをやっているね」「恐れずに始めるね」「考え方が違うね」といった風に、人々から思ってもらえるようになること。それが次なるフェイズですが、私たち自身の核となるものは失わないことです。

それにボルボはブランド・ステートメントとして、“移動する自由”を個人個人がサステナブルに追求できることを掲げています。これが人々に響くところ。移動する自由とは、人によっては必ずしも車を所有することではありません。パーソナルであることはボルボの強味であり、サステナブルで環境に注意を払い、安全であること、それがボルボのコアです。

ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 マーティン・パーソン氏ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 マーティン・パーソン氏

Martin Persson(マーティン・パーソン)
1999年にボルボ・カー・ジャパンの前身である、ボルボ・ジャパンに現地採用社員として入社。その後、2008年に本社採用となりスウェーデンに異動。グローバルCRMの責任者、ロシア及び中国でカスタマー・サービスの責任者、グローバル・カスタマー・サービス担当副社長を経て、2019年夏からボルボ・カー・ロシアの社長を務めた。2020年10月付でボルボ・カー・ジャパン代表取締役社長に就任。1971年生まれ。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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