【MaaS体験記】ダイハツが取り組む「福祉・介護MaaS」…香川県三豊市での実証実験の現場

共同送迎サービス車両に自宅前で乗車する介護風景
共同送迎サービス車両に自宅前で乗車する介護風景全 7 枚

今回の取材は、香川県三豊市において三豊市・三豊市社会福祉協議会・ダイハツが取り組む「福祉・介護MaaS」だ。介護・福祉施設における送迎サービスを、施設ごとではなく共同送迎サービスとして提供する取り組みである。

同時に、買い物やお出かけサービスなども展開しおよそ1か月間にわたり実証実験を行っている。今回は、実際の共同送迎の車に追走し、介護スタッフの業務を取材。介護施設に通所される利用者にも直接話を伺うことができた。

三豊市・ダイハツの福祉・介護MaaSとは

2019年に、三豊市とダイハツは、福祉の移動の困りごと解決の意見交換を実施し、全介護施設を訪問。その際に、送迎軌跡を把握・分析し、今回の取り組みのような方向性を模索した。同年10月には、両者で福祉介護ビジョンを策定し、連携協定を締結。2020年5月に、経済産業省のスマートモビリティチャレンジに応募し、同7月に『地域新MaaS創出推進事業』先進パイロット地域として採択された。

介護施設に向き合う活動は、ダイハツ独自でも取り組まれており、2018年に提供を開始した『らくぴた送迎支援システム』はその一環だ。今回の実証実験では、これまでの送迎支援等で培った経験則を応用し、地域一体で乗り合う共同送迎モデルを運行する。さらに、車両の空き時間を活用して買い物や通院等の移動サポートの可能性を探るというものだ。

共同送迎スタッフの着用するビブス共同送迎スタッフの着用するビブス

共同送迎サービスの実車体験

当日は、香川県三豊市の財田支所に「共同送迎サービス実証事業事務局」を構え、送迎のドライバーと添乗員を集めた朝会を行っていた。ドライバーと添乗員は「共同送迎スタッフ」と書かれたビブスを着用。そこで、車両用のスマホの配布と当日の巡回先スケジュールを確認、利用者のプロフィールと合わせて車両の停車場や玄関位置などを確認する。コロナ対策も含めて車両点検が終わると、時間に合わせて出発する。今回の実証実験では、計5台の車両に「共同送迎サービス実証車両」のラッピングがされている。

共同送迎サービス実証車両共同送迎サービス実証車両
最初に訪れたのは、比較的歩行も問題なさそうな方だったが、次に訪れたのは家族の肩を借りて歩行される方だった。三豊市は、高齢化率が35%になり、全国平均よりも7ポイント高い。共同送迎サービスの対象となるのは、80歳~90歳前後になる。自宅まで車で迎えに行っても、玄関から車に乗車するまでにもサポートが必要になる場合も多く、シルバーカーを用意したり、ドライバーが手を貸したり、ステップを置いて乗車しやすくするなどの工夫がされている。コロナ対策もされており、検温とアルコール消毒をしてからシートベルトを締める。もちろん降車する際にもサポートが必要となる。

財田町デイサービスセンターに到着後、降車する介護風景財田町デイサービスセンターに到着後、降車する介護風景
介護スタッフの業務の30%は、介護施設内での事務作業とは別にこうした送迎に時間が必要になり、朝夕の送迎時にはすべてのスタッフが出払ってしまう施設も多い。今回の実証実験では、そうした介護スタッフの業務効率アップをねらい、参加いただいている5つの介護施設それぞれから所有車を1台ずつ借り、そのうち4台を共同送迎に活用することで、車両の有効活用だけでなく業務負担が軽減され、施設内での業務に専念できるようになると、ダイハツの野村氏は話す。

買い物・通院お出かけサービスによる車両の有効活用

今回の実証実験では、共同送迎モデルのほかに、お出かけサービスも提供している。朝・夕の送迎だけに車両を利用すると、車両を利用しない時間が生まれてくるが、その点を考慮して、空き時間を買い物などの別の送迎サービスとしても活用する。

実際の利用者からは「買い物に行きたいというより、外に出たい」という声も多く、その送迎サービスを1週間も心待ちにされるほどの熱量があるとダイハツの花本氏は話す。このエリアは、バスやタクシーなどの交通の便も少なく、出かける場合には土日に家族の車を利用するしかなくなる。

介護施設に通う石川さんは、お出かけサービスを利用すると、これまで100円バスなどコミュニティバスを乗り継いで行かないと行けない場所へも行けると喜ぶ。また、共同送迎サービスに変わったことで、ほかの介護施設の利用者とも乗り合いになる場合もあり、これまで会ってなかった知人にも久しぶりに会うなど楽しい機会にもなっていると話す。

一方、実証実験当初は、送迎時の停車場の違いやルートの最適化がしきれずにドライバーと話すこともあったと言い、これまでの介護スタッフとの違いや、ナビなどシステム面での改善点も指摘があった。

樋本デイサービスに通所される石川さん樋本デイサービスに通所される石川さん

介護施設の業務効率化につながる取り組み

財田支所にある共同送迎サービス実証実験事務局には、ダイハツから3名のスタッフが常勤している。事務局では、送迎の計画が確認できる管理画面があり、欠席や当日のルート、スケジュールを計算して当日ドライバーに渡すスマホアプリと連携する。現在は、介護施設からの連絡は電話がほとんどだが、今後は、介護施設からの欠席連絡なども連携しデジタル完結する仕組みも検討しているとダイハツの野村氏は言う。

ダイハツ工業株式会社 野村和弘氏ダイハツ工業株式会社 野村和弘氏
今回参加している介護施設は5施設で、1施設につき10人~20人くらいの利用者に対して介護スタッフは3~4人程度がほとんどだ。介護施設で所有する車の数と介護スタッフの数はだいたい同じで、今回の実証実験で1台を共同送迎に提供することで、介護スタッフ1人の業務負担を減らすことができる。一方、共同送迎のドライバーは介護スタッフとは同じではないため、その対応の質が問われるケースもあると言う。

介護施設の送迎は、利用者の自宅に訪問し、必要であれば送迎前に朝食や着替え、家の戸締まりなどを見守ることもあると樋本デイサービス福祉介護士の大平さんは話す。それだけ介護施設の送迎をされる介護スタッフと利用者との関係性は深い。生活に入りこむような関係性のなかから必要となる対応力は、介護・福祉におけるサービスには求められてくると言う。

今回訪れた樋本デイサービスでも実証実験のメリットを実感されているが、今後事業化をすすめていくためには、そうしたドライバーの質的向上と、地域を広げるためにも参加施設を増やす取り組みも必要になると言う。また、これまでも送迎をおこなっていた樋本デイサービスでは、実証実験によりデジタル化された送迎計画管理をキッカケに施設のその他の業務の見直しもおこないデジタル化を推進している。

樋本デイサービス 介護福祉士 大平可奈さん樋本デイサービス 介護福祉士 大平可奈さん

地域共同で支える移動サービスとして

介護スタッフは1年の中でも休みがほとんどない。少人数でシフトを組んで回している中で、事務処理対応や送迎など体力も必要にある。今回の実証実験をはじめたことで、介護スタッフの業務が格段に軽減され、施設側でもサービス面の強化に取り組めるというメリットのほうが大きい。

一方、これまで見えにくかった要介護者・要支援者との関係性をどこまで共同送迎に求めるのかといったソフト面での課題や、送迎計画管理や車両管理などデジタルを活用する一面も見えたことで、これからの介護・福祉サービスに必要になってくる一端を見ることができた。

地域高齢者の課題は、おもに利用者の側面で知る機会が多いが、地域交通におけるドライバーの高齢化と同様に、介護スタッフの高齢化にも通じるものがある。いかに業務負担を軽減し、業務効率アップを目指すのか、そこにはデジタル化を念頭にして人を介さないで提供するサービスが求められてくるが、これまで提供していた送迎サービスを単に有償化することは難しい。

買い物・通院等お出かけサービスやモノの輸送など、これまでなかったサービスをキッカケに、地域共同で要介護者・要支援者や高齢者でも移動しやすいサービスとして定着させていくが求められる。

今回の実証実験は、短期間にそうした付加価値をどこまで福祉介護事業者に享受いただけたかが焦点となり、介護施設における取り組みとして全国から注目を寄せる。

■MaaS 3つ星評価

エリアの大きさ:★☆☆
実証実験の浸透:★★☆
利用者の評価:★★☆
事業者の関わり:★★★
将来性:★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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