100台以上の多重事故、過失割合はどうなる?専門家に聞いた【岩貞るみこの人道車医】

2021年1月19日、東北自動車道下り線で、暴風雪によるホワイトアウトが原因とみられる多重事故が発生した。巻き込まれた乗用車やトラックは100台以上。壊れた車両が、地吹雪で真っ白になっている姿を報道で見て、胸がしめつけられる思いをした人も多いことだろう。亡くなった方のご冥福と、ケガをされた方の早期回復を祈るばかりである。

そして、次に気になるのは、やはり過失割合がどうなるのか?ということだ。追突の場合、追突した方が悪い。でも、された方に原因があるときもある。ただ、された方も、それより前に原因がある場合もあって……と、100台以上のクルマを、いったいどうやってジャッジするのだろう?

というわけで、損保のスペシャリストX氏にきいてみた(ご本人恥ずかしがり屋なので本名は伏せます)。

事故の過失割合、どう算出する?

まず、一般道とは異なる、高速道路上での追突事故の過失割合をざっくり確認しよう。追突されたクルマをA車。追突したクルマをB車とする。

1)A車が、整備不良やガス欠など、また、単独事故といった、自分の過失による原因で本線上に止まった場合。

A車が4割:B車が6割

2)A車の前方で事故などが発生していて、A車が路肩などに退避できるのにしなかったり、停止表示機材(三角表示板など)が設置できるのにしなかった場合。

A車が2割:B車が8割

3)A車の前方で事故などが発生していて、A車が路肩などに退避できなかったり(ケガをした場合を含む)、時間的余裕がなくて停止表示機材が設置できなかったり、設置したのに追突された場合。

A車が0割:B車が10割
※あくまでもざっくりです。

ここまで理解したうえで、では、先日のような多重事故の場合、どのようにして事故実態を確認していくのだろうか。

損害額の算出には数年かかる見通し

X氏によると、まず、第一原因車を割り出し、そこから、それぞれのドライバーに話を聞き、クルマの損傷具合を確認して、過失割合を決めていくという。

最近はドライブレコーダーを搭載しているクルマが多いため、この画像が大きな役割を果たすらしい。

みなさん、やっぱりドラレコ大事。そして年に一回、SDカードを確認しましょう!(SDカードの不具合により記録されていない事例多発中)

このとき、第一原因を作ったクルマが、チェーン規制が出ているのにノーマルタイヤで走っていた、ということがわかると、第一原因車の過失割合は大きくなるとのこと。

ただ、台数がこれだけ多くなると、過失割合を決めるのも、かなり時間がかかりそうだ。X氏によると、これまでの話は過失割合だけのことであり、ここからさらに、損害額を計算する作業があるという。

・車両が全損していたら、全損時価を調べ、修理をするなら修理費を算出する。
・台車代やトラックや営業車であれば車両の休業補償が発生するので、これも算出。
・人身事故であれば、死亡やケガ、後遺症への補償金額を算出する。
・慰謝料もあるし、人が仕事をできないあいだの休業補償も算出。

などなど、すべて完了するには、数年はかかるであろうというのが、X氏の見立てである。数年! 長期になるからといってうっかり忘れていると、請求権がなくなって時効になるケースもたまにあるとのこと。これは、要注意である。

高速道路側に過失はなかったのか

今回は、高速道路側に過失はなかったのか、という声も上がっている。風速だけをみれば、そのときにとった対策の50km/h規制に該当するが、地吹雪を含むホワイトアウト発生の可能性まで見越すべきであろうというものだ。

ただ、道路交通法第70条には、このように書いてある。

「車両等の運転者は、(中略)道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」

数メートル先も見えず、制限速度とされた50km/hでは危険であれば、運転者は危害を及ぼさない速度まで下げる義務が課されていることも、忘れないでおこう。ただし、超低速にした場合、今度は追突される危険性が高まることは事実。このあたりは、状況に応じて判断したい。

事故はいつ、巻き込まれるかわからない。雪道を走るときは、飲み物、食べ物、毛布など、クルマのなかに入れておこう。

リスクマネジメントをしまくってリスマネ疲れをしがちな私の場合、水、カロリーメイトなどの食料、使い捨てカイロはもちろん、マイナス27度まで対応の冬山登山用の寝袋も入れてある。いちども使ったことないけれど、災害は、忘れたころにやってくる。やはり、対策は忘れずに、なのである。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. 40アルファードの静粛性が一変!調音施工で快適性が飛躍的に向上
  2. トヨタ カムリ 新型、全車ハイブリッドに…今春米国発売
  3. 【ホンダ N-BOX 新型試乗】アイデアの詰まった使い勝手はまさに「ニッポンの国民車」だ…中村孝仁
  4. レゴ ブロック初心者再び! セナが愛用した「マクラーレン MP4/4」を組み立ててみたら感激した
  5. シトロエンの新デザイン採用、『C3エアクロス』新型を欧州発表
  6. [15秒でわかる]トヨタ『4ランナー』新型…オフロード仕様のTRDプロを設定
  7. ジムニー愛好者必見! ベルサスVV25MXが切り拓く新たなカスタムトレンドPR
  8. トヨタ堤工場、2週間生産停止の真相、『プリウス』後席ドア不具合で13万台超リコール[新聞ウォッチ]
  9. トヨタ『ランドクルーザー250』発売、520万円から…特別仕様車も
  10. 【株価】トヨタが小反発、『プリウス』13万台リコールも地合い好転で持ち直す
ランキングをもっと見る