【トップインタビュー】新規参入のネクセンタイヤ、日本市場での次なる戦い方に迫る!ネクセンタイヤ トラビス・カン副会長

Travis Kang(トラビス・カン)ネクセンタイヤ代表取締役副会長
Travis Kang(トラビス・カン)ネクセンタイヤ代表取締役副会長全 21 枚

2017年、日本人にとってまだ知らぬ「革新的なタイヤメーカー」として日本上陸を果たした韓国のネクセンタイヤは、自動車業界で大きな話題となった。

あれから3年が経過し、またコロナ禍という状況でネクセンタイヤの日本市場戦略はいま、どうなっているのか?ネクセンタイヤのトラビス・カン代表取締役副会長(以下、カン副会長)に、直球勝負で様々な疑問、質問を投げかけてみた。

まずは、ネクセンタイヤの実態について確認して行きたい。創業はいま(2021年)から79年前の1942年で、興亞(フンア)ゴム工場として設立。1956年には韓国初の自動車用タイヤを生産した韓国自動車産業界では老舗企業だ。その後、1987年に仏ミシュラン、また91年に日本のオーツタイヤ(現在の住友ゴム工業のファルケン)と技術提携して世界市場への進出の地盤固めをした。現在、製造拠点は韓国国内に2カ所(ヤンサン、チャンニョン)、中国(青島)、そしてチェコ(ジャテツ)の合計4カ所にあり年間製造本数は約4000万本。そのうち、自動車メーカーの新車装着向けが約25%を占める。

具体的には、地元韓国車ではヒュンダイ、キアを筆頭とした各メーカー、欧米ではフォルクスワーゲングループのフォルクスワーゲン、ポルシェ、セアト、シュコダ、旧FCA(現在のステランティス)のクライスラー、ラムトラック、フィアットの他、シボレーやルノー。日系メーカーではスズキと三菱向けにタイヤを供給している。

多くの自動車メーカーにタイヤを供給している多くの自動車メーカーにタイヤを供給している
こうした新車装着による商品への信頼から、アフター市場での販売も拡大している。乗用車向けから商用車向けまでフルラインナップしているが、近年は欧米でのSUVシフトを受けてSUV向けタイヤの需要が伸びており、販売は世界20ケ国35拠点で展開している。また、フォークリフトなど産業機器向けの装着率が高いのもネクセンタイヤ事業の特長だ。

この他には、ゴルフボール事業を手がけたり、モータースポーツを活用した高性能タイヤ開発を今後強化する方針だ。こうして様々な領域を拡張する中で、商品に対する顧客満足度でも、過去には評価企業J.D.パワー(2016、2017年度評価)では日系メーカーを凌ぎ上位につけた。ブランド戦略の一環として、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティFCとの公式パートナーシップや、韓国プロ野球チームのネクセンヒーローズなど各種スポーツに積極的に関わっている。では、カン副会長にいろいろと聞いていこう。

コロナ禍に打ち勝つ、新たなる革新へのチャンス

----:コロナ禍で、自動車産業全体に対して、またタイヤ産業全体のこれからに対してどう感じていますか?

カン副会長:この1年間で、経済や文化など大きく変わりました。今回こうしてオンラインでインタビューを受けていることが、不思議ではなく、とても自然に感じられるようになりました。こうした大きな社会変化の中ではパラダイムシフトが起こります。保守的でなく、新しいアイデアで取り組む良い機会です。そもそも自動車は伝統的な産業ですからチャンスがあります。

----:具体的に、ネクセンタイヤで何か新しいアイデアは始まっていますか?

カン副会長:例えば、ユーザーとタイヤサービスセンターとネットを使った非対面でのサービス提供をしています。新型コロナウイルスが世界に拡大する前の、2020年1月から韓国国内で始めていました。ネットや電話でユーザーからタイヤ注文が入ると、総勢100台の整備車両がユーザーの元へ直接伺うサービスです。これを機に、今後も非対面で様々なタイヤサービスが生まれるだろうと考えています。

韓国では「NEXET LEVEL GO」というネットを使った非対面サービスを実施している韓国では「NEXET LEVEL GO」というネットを使った非対面サービスを実施している
----:では、未来の話をする前に、ネクセンの歴史を振り返る中で、どのタイミングが大きな変化点だったと思いますか? 

カン副会長:第1は、2000年に社名がネクセンタイヤになったことです。社内体制などすべてが大きく変わりました。そして第2は、2010年に世界初の完全自動化タイヤ製造施設として、韓国のチャンニョン工場を稼働させたことです。これがきっかけとなり、ポルシェ「カイエン」など高性能な新車への純正装着が実現できたと考えています。最近では、チェコのジャテツ新工場の稼働も弊社として大きな前進となりました。

----:ポルシェへ対応では、最新鋭の試験場であるヴィークル・ダイナミクス・テイスティングセンターの効果も大きいのではないでしょうか?

カン副会長:テイスティングセンターだけではなく、各種研究所を含めた研究開発、それ自体が自動車メーカーに対しても、また一般ユーザーに対しても、サービスの一部であると考えています。こうした、企業としての哲学と企業文化を社内で共有していくつもりです。

日本で非対面のサブスクモデル検討も

----:次に、日本市場についてですが、そもそもなぜ参入が2017年というタイミングだったのでしょうか?

カン副会長:特に大きな意味はありません。海外メーカーに比べて、弊社は日本への参入が遅れましたが、やはり日本市場を研究することが、グローバル市場にも応用できると考えています。

----:では、これまでの日本市場での3年間を振りかえって、どう感じていますか?市場競争は激しく、新規の事業開拓はかなり難しいと思うのですが?Travis Kang(トラビス・カン)ネクセンタイヤ代表取締役副会長Travis Kang(トラビス・カン)ネクセンタイヤ代表取締役副会長

カン副会長:市場は「堅い」という印象です。イメージとしては、韓国市場と似ています。国産メーカーの割合が高く、業界全体として保守的という印象です。ただし、韓国市場との違いもあります。それは、フランチャイズなど、ディーラーネットワークが上手く動いている点です。さらにそこに、ガソリンスタンドなど様々な物流が結びついています。そこに、我々ネクセンタイヤの独自サービスを提供していくことで、日本市場にも溶け込んで行きたいと考えています。

----:具体的に、どういったサービスですか?

カン副会長:例えば、サンリオとコラボした、キティタイヤのような企画です。また、韓国で開始した、タイヤのレンタルサービスもできるのではと考えています。

----:日本でも部品量販店などがウィンタータイヤのレンタルサービスをしています。ネクセンタイヤの場合はウィンタータイヤに限らず、メーカーが主導する形でのいわゆるサブスクリプションサービスというイメージでしょうか?ハローキティとのコラボレーションも実施ハローキティとのコラボレーションも実施

カン副会長:その通りです。ネットや電話などユーザーとの非対面サービスとして、日本市場に合わせたかたちでの導入を考えています。日本市場への対応は、まだ初期段階ですが徐々に進めていく予定です。ネクセンタイヤは、日本市場に限らず、マーケットシェアを拡大するという視点だけではなく、例えばテスラのように、販売台数は大手と比べて少ないが、画期的なサービスを行うような、タイヤをモビリティビジネスの一環として考えています。

2030年、さらに2050年に向けて

----:では、モビリティという観点から、これからのタイヤについて、サービスを支える技術開発をどのように進めていかれる予定ですか?

カン副会長:現時点で(企業機密として)具体的には申し上げられませんが、例えばタイヤにセンサーやチップを装着した、いわゆるスマートタイヤという視点が重要と考えています。走る、曲がる、止まるという従来のタイヤ性能に加えて、通信などを使ってタイヤとクルマが情報共有することで、新しいサービス事業を開発して行きたいと考えています。

----:そうした必要性から、新たな研究開発体制を敷いたということでしょうか? 

カン副会長:それが、2020年に開設したネクセン未来研究所です。これまでネクセン中央研究所の中に研究グループとして存在していましたが、それを拡大させた形です。5年から10年先の社会や自動車産業の状況を予測して、ネクセンタイヤが市場にどうしていくべきか、またタイヤはどうあるべきなのかを研究開発しています。

----:では最後に未来についてですが、2035年、さらには2050年のネクセンタイヤはどうなっているとお考えですか?

カン副会長:そのころはおそらく、AI(人工知能)がCEO(最高経営責任者)になっているだろうと(笑)。タイヤ販売数で、世界トップ10入りを目指すといった方向性ではなく、もっと革新的な分野を自ら積極的に開拓することで、タイヤを自動車の単なるパーツのひとつではなく、新しいサービス実現へと結びつけていく。そう考えています。ネクセン中央研究所ネクセン中央研究所

インタビューを終えて

キーワードは、「革新と新サービス」だと思った。タイヤ業界ではいま、高性能タイヤ、スノータイヤ、そして直近ではオールシーズンタイヤなど、様々な技術開発は進んでいるものの、各社の多ブランド化が進み、また各国で国産大手の市場占有率が高く、さらにネット通販などでの価格競争も進み、新規参入で勝ち組になることは極めて難しい状況だ。そうした状況を十分承知の上で、日本市場で様々な試みを考えているネクセンタイヤ。カン副会長が言う「革新と新サービス」には、ネクセンタイヤという企業としての、信念と哲学がはっきり見て取れる。いわゆるスマートタイヤについては、日系や欧米各社も取り組んでいるが、ユーザーに対する新たなるサービスをしっかり見据えているケースは意外と少ない。

今回、ネクセンタイヤには、保守的な自動車産業界でブレークスルーを起こすポテンシャルを感じた。ネクセンタイヤの次の一手を大いに期待したい。Travis Kang(トラビス・カン)ネクセンタイヤ代表取締役副会長Travis Kang(トラビス・カン)ネクセンタイヤ代表取締役副会長

Travis Kang(トラビス・カン)
延世大学経営学部卒業後、ソウル国立大学経営学修士取得。証券会社を経て、2001年3月にネクセンタイヤ社に入社。財務部、経営企画室マネージングディレクター、販売部門や戦略企画室のトップなど多くの役職を歴任。ネクセンタイヤを世界的なブランドに育てるべく欧州での新車装着(OE)タイヤ市場での販売活動、スマート工場(スマート・ファクトリー)の建設や、マンチェスター・シティFCとのパートナーシップ締結などを主導してきた。2016年2月に代表取締役社長、2019年3月からは代表取締役副会長に就任。1971年生まれ。

《桃田健史》

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