モビリティビジネスの新規事業開発、投資家の見方…環境エネルギー投資 モビリティ事業創造室長 林隆介氏[インタビュー]

モビリティビジネスの新規事業開発、投資家の見方…環境エネルギー投資 モビリティ事業創造室長 林隆介氏[インタビュー]
モビリティビジネスの新規事業開発、投資家の見方…環境エネルギー投資 モビリティ事業創造室長 林隆介氏[インタビュー]全 1 枚

マイクロモビリティに関する法整備の進展、世界初となるレベル3自動運転車両の型式指定、トヨタのウーブン・プラネットの始動など、自動車業界のモビリティビジネスに関する動きが活発化している。業界では、かねてよりCASE車両やモビリティに関する新規ビジネスに取組んでいるところだが、投資家は、現状のモビリティビジネスをどう捉えているのだろうか。

この分野での取組を強化しているベンチャーキャピタルに「環境エネルギー投資」がある。エネルギー分野に特化した日本で唯一のベンチャーキャピタルである同社において、長年航空会社や自動車会社にて特にサービスのオンライン化、車両電動化、モビリティビジネス開発を行ってきた立場から、今では投資家として活動する林隆介氏に話を聞いた。林氏は、3月30日開催のオンラインセミナー「投資家から見たモビリティ事業の作り方」に登壇する。セミナーでは、林氏の話だけでなく、事例として、モビリティービジネスで起業した実際のベンチャー企業からのゲストも登壇する予定だ。

---:セミナーにはゲストも登壇するようですが、どんな内容になるのでしょうか。

林氏(以下同):内容はタイトルどおりではあります。投資家として日々接している起業家の提案や議論の中で、実際に評価しているポイント、どんな計画だと投資しやすいかといった点を解説します。しかし、そのままの内容では教科書的な事業計画書の書き方になってしまうので、ベンチャー企業2社にも自分達の事例を紹介してもらいます。

ただ、どの分野でもそうですが、事業プランや資料に正解、絶対というものはありません。こういうセミナーで紹介された事例や資料どおりにやれば成功するとは限りません。スライドのコピペでうまくいくような世界ではないのです。

ねらいは、アイデアはあるけど事業を始めるにはどうしたらいいかわからない、あるいはとりあえずの事業計画は作ったので出資者を探したい、といったステージの起業家の参考になるようなものを考えています。

---:起業家にとっては役立ちそうですね。たとえば自動車メーカーやサプライヤーでモビリティの新規事業を考えているような人でも参考になるでしょうか。

なると思います。新しい市場や事業という点では、大企業もベンチャーも同じです。投資家の、その中でもベンチャーキャピタルの視点にはなりますが、事業計画のどういった点を重視するのか、しないのかは自分たちの企画や新事業を考える上で参考になるでしょう。

---:なるほど。では、投資家の視点で現在のモビリティ市場をどう分析していますか。

モビリティビジネスは難しい市場だと思っています。その難しさはいくつかありますが、まずひとつは市場が業界、業種にまたがり広範であるという点です。モビリティ事業については道路や通信といったインフラから金融・物流・シェアリングなどサービス全般までたくさんのレイヤに無数のプレーヤーが存在します。

自動車業界の人と話をしていて感じるのは、自分達のレイヤの特定のプレーヤーとしての視点でしか考えていないことです。ベンチャー企業や起業家にも言えることですが、たとえば、EVを作るなら、充電網や電力のエコシステム(生態系)がどうなっているのか、考えなければなりません。

---:とはいえ、マイクロEVのベンチャーやスタートアップは充電網まで手が回らないですよね。

はい。だからこそ、モビリティビジネス全体のエコシステムを見て、どのポジションでどういうプレーヤーになるのかという分析が必要です。大企業でもベンチャーでも、モビリティ市場の中ではその一部を担うことしかできません。

大企業はカバーできるポジションが広いかもしれませんが、多くは本業の利益につながらない事業には手を出しません。MaaSといいながらやはり新車が売れなくなるようなビジネスとはなじまない本音があるでしょう。大企業のモビリティビジネスでうまくいかないのはこのパターンです。

したがって、わたしは各プレーヤーがサプライチェーンのどこでどんな役割を担うのか、どんなエコシステムができるのかを考えながら、投資先を決めています。

投資先がさまざまな事業や分野に分散しているように見えるかもしれませんが、わたしは全体のサプライチェーンの中で、ポイントとなる企業やチェーン抜けを埋める企業を探しています。

---:投資先を決めるとき、事業計画書で重視する点はなんでしょうか。

その製品、市場、事業についてどこまで深く考えているかです。計画の前提となる課題や状況が、まずそもそも存在しているのか、正しいのかという分析、課題に対するソリューションの分析、検証、そしてなぜ今なのか、タイミングの精査などがひとつの目安になります。あとは、実際にお金を出すので、採算がとれる、事業を成立させるのにどれくらいの資金が必要なのかとその期間も重要です。

ただ、ここで誤解してほしくないのは、将来のことは誰もわかりませんので、これらが揃っていれば出資する、しないという話ではありません。これらの要件を満たしていなくても、対象への深い分析やビジョンがあれば、投資対象になります。必要なら、投資家が足りない部分をアドバイスすることもあります。

そこは、企業の新規事業プロジェクトとは違う部分かもしれません。

---:企業の場合は赤字前提のプランなど受け入てもらえないですからね。

新規事業やベンチャー企業において、赤字は絶対悪というわけでもありません。結果論にはなりますが、アマゾンも創業から7年間は連続赤字でした。テスラも最初の10年はビジネスになっていないですよね。問題は、成長する要素があり5年後、10年後に10倍、20倍になるかどうかです。

結局のところ、成功するかどうかは「なぜ今か」というタイミングの読み方でもあります。入念なプランでも、時流とマッチしていないと成功しないのも事実です。アイデアはいいけど技術がついてこない。市場がコンセプトを理解しない、今なら売れたのに、というものはよくあります。

---:今まで林さんが述べたような投資の考え方は他の業界でも共通するものでしょうか。モビリティ関連特有のものでしょうか。

投資分野ごとの傾向の違いを論じるのは難しいですが、ここで説明したような視点は、日本の製造業からは出にくいのではないかと思っています。
また、プロダクトづくりは重要ですが、かっこいいとかワクワクするといった、もっと右脳に訴えるようなプランや製品があってもいいと思います。

国内のスタートアップは、技術力があるので設計の細部はこだわりがあり、よいものであるのはわかるのですが、見た目やデザインで損をしているところもあります。

林氏は、3月30日開催のオンラインセミナー「投資家から見たモビリティ事業の作り方」で、実際の事業計画書でのポイント、キャッシュフローの考え方、資金調達の方法について詳しく解説する予定だ。モビリティビジネスで起業したばかりのスタートアップの声も聞けるという。

《中尾真二》

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