「未来のライダーに伝えたい」ヤマハの社員6人でクラファン、『防災ライダー』に反響

ヤマハ発動機の社員6名が企画した『防災ライダーFIST-AID』プロジェクト。写真は返礼品のステッカー。
ヤマハ発動機の社員6名が企画した『防災ライダーFIST-AID』プロジェクト。写真は返礼品のステッカー。全 12 枚

嵐の後はパンク3倍!? 関西・四国を中心に被害をもたらした2018年の台風21号の後、道路はガレキやガラスなどが散乱し、パンク修理が前年の約3倍に。

チューブレスタイヤなら修理キットさえあれば比較的簡単に修理できるが、タイヘンなのはチューブ入りタイヤ。あらかじめパンク防止剤を注入しておくことでパンクを未然に抑止し、愛車を「災害仕様」にチューンできる。パンクロッカーがシャウトしているコミック調のイラストに惹きつけられ、気軽にスラスラ楽しく読めた。

これは完成したばかりの『防災100のテクニック』に載っている、ほんの1ページの内容に過ぎない。知ると知らないでは大違い、自分や大切な人を守る力となるノウハウが結集されていて、「へぇ~、知らなかった」と思わず唸ってしまう。そして、もう誰かに教えたくて仕方がない。

ヤマハ社員たちによってスタート

防災ライダーブックレット『防災100のテクニック』防災ライダーブックレット『防災100のテクニック』
防災ライダーブックレット『防災100のテクニック』は、クラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」で昨年9月1日にスタートした防災ライダープロジェクト『防災ライダーFIST-AID』への支援による返礼品としてもらえる。

『防災ライダーFIST-AID』は、相次ぐ自然災害において「安全を心がけるライダーだからこそできることはないか」をライダーひとりひとりが考え、同志と共有することをサポートするプロジェクト。西村慎一郎さん(ヤマハ発動機クリエイティブ本部)ら、6名のヤマハ社員たちによってスタートした。

目標額を500万円に設定したクラウドファンディングは、727名のサポーターにより応援購入総額663万7000円に達し終了。応援購入の返礼品は下記の3種類とし、支援で得られた収益は教習所やバイク防災訓練活動などへ還元し運用されていく。

■リターンA:3500円
防災ライダーブックレット & FIST-AIDステッカーS

■リターンB:2万2000円
いざという時のお守り I’ll BE BACK KIT

■リターンC:2万5000円
リターンA+B+ステッカーLサイズ
※いずれもマクアケ限定。

自分の手で守ってほしい

『防災ライダーFIST-AID』ステッカー。特にLサイズが人気だったという。『防災ライダーFIST-AID』ステッカー。特にLサイズが人気だったという。
免許取得時、我々ライダーは教習所でさまざまなことを学んだが、日々のライディングは自身の観察・判断・行動に委ねられている。災害においてもそれは同じで、周囲の状況、そしてその場にいる人々をよく見て、その瞬間の最善を尽くしたい。

小川岳大さん(ヤマハ発動機クリエイティブ本部)は、様々な災害現場で活躍するレスキューライダーの話しを聞き、日々、血のにじむような訓練を繰り返してもなお、救いきれない命があることに苦悩していることを知った。

安全を心がけるライダーだからこそ、いざという時に自らと大切な人の命は自分の手で守ってほしい。そんな思いが『FIST-AID』という言葉に込められている。FISTは握りこぶし、手、握手。AIDは助ける、救援、救済などを意味する。

いざというときのお守り

いざという時のお守り I’ll BE BACK KIT。これをベースに自身に必要なものを揃えて欲しい、という。いざという時のお守り I’ll BE BACK KIT。これをベースに自身に必要なものを揃えて欲しい、という。
I’ll BE BACK KITは「いざという時のお守り」と仲村拓哉さん(ヤマハ発動機クリエイティブ本部)は教えてくれた。セローの車載工具を『DeeN』とコラボしたマルチパーパスビットラチェットや、エマージェンシーブランケットなどサバイバルツールを加えてグレードアップ。クラウドファンディングでの反響は高く、もっとも高額なリターンCが最初に底をついた。

参画メンバーでもっとも若い尾崎達哉さん(ヤマハ発動機IT本部)はこう話す。「災害時に小回りがきくバイクは、カッコよくていい乗り物だと、このプロジェクトを通じて感じました。学生時代、まわりでそう思う人は残念ながらあまりいませんでした。社会的意義のある活動を今後もやっていきたいです」

『防災100のテクニック』ではコミカルに防災ノウハウが描かれている。『防災100のテクニック』ではコミカルに防災ノウハウが描かれている。
西村さんも「しっかり粘り強く継続・展開させていかねばなりません」と、プロジェクトのゴールではないことを強調する。防災ライダーブックレットは2冊セットとしており、1冊はクラウドファンディング支援者へ、もう1冊は未来のライダーに向けて教習所などに届ける。

「人と人の接触を避ける環境において、どうすれば駆け出しライダーにスキルアップの楽しさを引き継げるか? この課題解決が目的に加わりました。この小さな冊子に触れたライダーのタマゴが、バイクを取り巻く様々な環境やそこで創意工夫をおこなう真の楽しみに気づいてくれれば、こんなに嬉しいことはございません」

冊子の巻末でも綴られている西村さんのメッセージだ。

バイク神社で返礼品に願いを込めた

返礼品はすべて、「バイク神社」として知られる大歳神社でお祓いし、安全への願いを込めた。返礼品はすべて、「バイク神社」として知られる大歳神社でお祓いし、安全への願いを込めた。
ヘルメットやバイクなどに貼るのに適したサイズのステッカーは2枚を支援者に届け、1枚は有事に共に行動するパートナーライダーへ渡してもらう。ほかのドライバーやライダーの目につきやすい再帰反射素材を採用し、ステッカー下部には今回支援した同志の総数「727」を印字した。

支援者への返礼品は、バイク神社として知られる静岡県浜松市の大歳神社でお祓いし、願いを込めた。権禰宜の石津さんは学生時代からオートバイに乗る筋金入りのライダー。交通安全鐡馬御守などを求めるバイク乗りらが後を断たない。

冊子に使われた印刷用紙は「モンテシオン」といい、しっかりとした厚みがありつつもソフトな触り心地。東日本大震災で大きな被害を受けた日本製紙石巻工場で開発されたものだ。727名のサポーターたちだけでなく、多くの人がこのプロジェクトには関わっている。

未来のライダーのために

Lサイズのステッカーは玄関やガレージなど、外から見えるところに貼って欲しい、と話す。Lサイズのステッカーは玄関やガレージなど、外から見えるところに貼って欲しい、と話す。
「慈善の皮をかぶった売名と、お叱りをいただく覚悟はできています」とメンバーは口をそろえる。ライダーひとりひとりの経験や知識を分かち合えるきっかけをつくり、志あるライダーが安心して活躍できる文化を、みんなの力を合わせて育てていきたいと考えている。

最後に、バイクライターの筆者(青木タカオ)にとっても、いざという時に備え、自分も日頃からできることはないか、考えさせられる良いキッカケとなったことを付け加えておきたい。ライダーに限らず、自身の防災意識を高め、いざというときに備える。こうしたプロジェクトが大きなうねりとなり、もっと多くの人へ届けば『防災ライダーFIST-AID』の意義はますます大きくなる。

《青木タカオ》

モーターサイクルジャーナリスト 青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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