【ホンダ ヴェゼル 新型】電気と機械によるハイブリッド方式で高い走破性を実現した4WD

ホンダ・ヴェゼル 新型
ホンダ・ヴェゼル 新型全 16 枚

新型『ヴェゼル』の4WDシステムはエンジン部からの出力をプロペラシャフトでリアアクスルに伝える方式を採用している。一般的な4WDシステムといえるが、近年は前後に独立したモーターを搭載するHV、PHEV、EVが増えており、新型車においては、プロペラシャフトが存在する4WDの方がむしろ珍しい。

トヨタのTHS-IIや日産のe-POWERのように、リアの駆動は独立したモーターを動かせば4WDでもプロペラシャフトは不要という考え方もある。新型ヴェゼルはなぜこのようなレイアウトになったのか。一つには、e:HEVは、高速域ではモーター駆動ではなくエンジン出力を直接車輪の駆動力に伝える方式であることが関係する。

オンデマンドではないフルタイム4WD

前後に独立した動力源を持つ場合、前後のトルク配分制御はそれほど簡単ではない。物理的な接続がないので、車速やエンジン回転数やその他をセンサーによって把握し、どれくらいの前後配分がいいかを緻密に計算、制御する必要がある。加減速、コーナリング中は、4輪の荷重や最適トルクが秒以下で変わるからだ。

むやみに駆動力をかけても、安定性を損ね走行抵抗になりかねない。結果として後輪独立制御の4WDは、高速巡航や前輪が空転するなど特殊なシチュエーションでしか4WDにならないシステムとなりがちだ。フルタイム4WDというより、オンデマンド4WDといったほうが正確だ。プロペラシャフトで駆動を伝えるAWDプロペラシャフトで駆動を伝えるAWD

新型『ノート』の4WDシステムや一部のEVなど、モーターと電子制御の相性の良さから常時後輪を駆動させているシステムもある。しかし、この場合も、前後の各モーターの最大出力の幅で制御するのではなく、前輪か後輪、駆動の基準となる方の出力を目安に、片方にどれだけ「配分」するかを制御することになる。ならば、一つのモーター出力を機械的に分配しても同じことだ(多少の機械ロスはあるが)し、デフ(ディファレンシャル)によるトルク制御のほうがシンプルで確実という考え方も成り立つ。

「シンプルイズベスト」の発想は、4WDの走破性能向上に対する設計にも見て取れる。一般の車両は内輪差による左右のタイヤの回転差を吸収するためディファレンシャルギア(デフ)による差動機構を必要とする。しかし、デフは空転するタイヤにトルクが集中してしまい、ぬかるみなどで脱出できない欠点がある。

オフロード車や4WDは、LSD、フリーホイールハブ、デフロックといった機構でこれを回避するが、一般的なデフ(オープンデフ)でも、ブレーキを4輪別々に制御できれば、タイヤの空転によるトルク流出を防ぐことができる。e:HEVの4WDは、文字通りのフルタイム4WDであり、ビスカス、オープンデフのようなトルク抜けの問題を機械式と電子制御の組み合わせで解決したシステムといえる。

ヴェゼルの走破性を試す

この機能を試すため、新型ヴェゼル4WDによる悪路走破性と雪道でのスタック脱出を想定したテストをホンダが設定した。

内容は、スチール製のスロープ台とローラーを使った走破テストだ。台形のスロープ台をずらしたコースでは、乗り越えるとき対角の車輪だけが台に乗るような体勢となり、最低でも一輪が完全に空中に浮いてしまう。巨大な岩がごろごろしているような段差の激しい悪路走行を再現するものだ。

もう一つはシャシダイナモのローラー部分のみを取り外したような部品を2つ直線に並べたコース。ローラーの間隔はヴェゼルのホイールベースに合わせてあるので、片側2輪が両方ともローラーに乗る(空転する)。

どちらのコースも通常の車両は走破・脱出できないものだ。通常これらのテストは本格的なクロスカントリー4WDやオフロード仕様の車で行うものだが、新型ヴェゼルは普通に段差を越える感覚で進むことができた。とくに二輪がローラーに乗った状態は、機械式LSDを装着した4WDでも脱出が難しい。少なくともトラクションコントロールはOFFにしないと抜けられないパターンだ。ホンダ・ヴェゼル 新型ホンダ・ヴェゼル 新型

トラクションコントロールを気にせずローラーを走破

新型ヴェゼルのブレーキベクタリングは、このシチュエーションでも機能する。2輪がローラーに乗った状態でアクセルを踏むと、しばらく空転するがすぐにスリップしているタイヤにブレーキをかけ、ゆっくり車が前進してローラーを乗り越えることができた。ヴェゼルにトラクションコントロールはついているが、ローラーの脱出でそのスイッチを操作する必要はなかった。

つまりヴェゼルは、雪道などでスタックした場合、トラクションコントロールをONにしたまま脱出できる可能性があるということだ(もちろん、スリップが激しい場合はOFFにしたほうが脱出しやすい)。

筆者もそうだが、古い世代はなにかと機械的な接続や反応に慣れているので、電動車というとどうも信用しないフシがある。エンジンに対するパワー神話に近いものだが、これはおそらく遊園地のバッテリーカーやゴルフカートなど小出力電気駆動車のイメージが染みついているからだろう。現実の世界では、超高層ビルのエレベータ、巨大観覧車、立体駐車場の動力は電気モーターである。e:HEV(その他のシリーズハイブリッドやEV)4WDの実力を侮ると恥をかく。

新型ヴェゼルは、4WDとしての走行性能も電気と機械によるハイブリッド方式で実現している。

《中尾真二》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. マツダ、電動セダン『EZ-6』世界初公開、24年発売へ SUVコンセプトも…北京モーターショー2024
  2. 【ホンダ ヴェゼル 改良新型】開発責任者に聞いた、改良に求められた「バリュー」と「世界観」とは
  3. トヨタが新型BEVの『bZ3C』と『bZ3X』を世界初公開…北京モーターショー2024
  4. 見逃せない! ホイールのブレーキダスト除去術 ~Weeklyメンテナンス~
  5. Sズキが電動マッサージ器を「魔改造」、25mドラッグレースに挑戦!!
  6. <新連載>[低予算サウンドアップ術]“超基本機能”を駆使して「低音増強」を図る!
  7. 郵便局の集配車が「赤く蘇る」、KeePerが8000台を施工
  8. ホンダ『ヴェゼル』マイナーチェンジで3グレードに集約、納期改善へ…「HuNT」「PLaY」新設定で個性強調
  9. タイヤブランドGTラジアルよりオールシーズンタイヤ「4シーズンズ」発売
  10. ノンジャンル220台のマニアック車が集合…第15回自美研ミーティング
ランキングをもっと見る