カーナビの根幹要素、地図とインターフェースはどう作られる?…Yahoo!カーナビ 開発の現場から

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ユーザーは横位置で使うことが圧倒的に多いという。そのため横幅を活かしたデザインを検討している
ユーザーは横位置で使うことが圧倒的に多いという。そのため横幅を活かしたデザインを検討している 全 7 枚 拡大写真

自動車は、性能や乗り心地と同じくらい、あるいはそれ以上にデザインが重視される。それはカタチが違えど同じで、スマートフォンのナビアプリでもデザイナーの役割が注目されるようになってきた。しかし、その仕事の内容はまだ理解されているとはいえない。

リリースアプリから3ヶ月あまりで200万ダウンロードを達成した『Yahoo!カーナビ』の開発拠点、Yahoo! JAPAN名古屋支社のマップイノベーションセンターで、カーナビデザインの現場と仕事内容を聞いてみた。

◆カーナビアプリでデザイナーが担う役割り

話を聞いたのは、Yahoo! JAPANのマップイノベーションセンターに所属しているデザイナーの星名努氏と山口匡氏。Yahoo!カーナビや『Yahoo!地図』のデザインを担当し、日々、膨大な地図データと格闘している。

まず、Yahoo!カーナビにおけるデザイナー役割について確認しておこう。一言でいえばアプリの「ガワ」を作るのがデザイナーの仕事だ。地図でいえばデータそのものを作るわけではなく、そのデータをいかに地図として表現するかがデザイナーの仕事だ。地図にある様々な要素から、どれを強く表現するのか、全体のトーンはどうするか、色合いは? といった要素を調整していく。そしてそれをファイルとして作り、実装するまでが仕事範囲だ。

地図以外の部分では、アイコンデザインや全体のバランス、色合いをデザインしていく。もちろん、アプリのデザインは装飾品などのデザインとは異なり、使いやすさや操作性という「性能」に直結する。見た目がよければいいというものではない。工業デザインも機能性が要求されるが、それと比較しても、よりダイレクトにアプリの出来を左右するといえる。

◆地図を作って30年の大ベテラン

星名氏は30年前にアルプス社に入社して以来、地図を作り続けてきたスペシャリスト。アルプス社は、かつて名古屋にあった地図制作会社で、主力製品である『アトラスRD』(紙に印刷した地図本)は絶大な人気を誇った。特に東海地方ではクルマで移動する営業マンやタクシードライバーのマストアイテムとして、他の追随を許さない評価を得ていた。しかし、カーナビや携帯電話の普及とともに紙地図の需要が落ち、アルプス社は2005年にYahoo! JAPANに完全子会社化され、2008年には吸収合併された。

星名氏は“地図といえば紙”という時代からデジタル移行の荒波を経験し、現在はYahoo! JAPANの社員となっている。波乱に満ちたキャリアと見受けるが、「アルプス社からYahoo! JAPANに移っても、仕事の根本は変わりません」(星名氏)と冷静に答える。とはいっても、紙の地図とカーナビ用の地図が違うことは素人でも分かる。やはりそこに苦労があったようだ。

「紙地図は1枚の絵でそれが完成形。必要な要素を整理してもれなく見やすく置いていくという難しさがある一方で、スマートフォン向けの地図の場合は小さな画面に、信じられないほど大きな文字で表示しろと言われます」と苦笑しながら星名氏は言う。ナビの地図画面となるとさらに見せ方は難しくなる。「刻々とスクロールするカーナビの地図は一瞬一瞬で変化し、そのすべてで見やすさ・分かりやすさを備えていなければなりません」(星名氏)。デザイナーの感性とスキルが要求される部分が多いカーナビ地図の見栄えは、他社サービスに対しての差別ポイントとなる重要な要素だ。

◆泥臭くても使いやすさを目指す

メニューのアイコンなど、地図以外のユーザーインターフェース部分のデザインを担当するのが山口氏だ。山口氏は、「Yahoo!カーナビでは、一般的な車載ナビとは大きく異なるインターフェースを持たせていますが、あくまでもわかりやすさを重視した結果で、決して奇をてらったものではありません」と断言する。

「デザイナーとしては、“パッと見た時のかっこよさ”にこだわりたいと思うのですが、Yahoo!カーナビに関しては“泥臭くてもいいから、分かりやすく”をテーマとしました。アイコンにはすべて文字を併記したり、音量がゼロの時に起動した際には音量を上げて使うように促すなどの工夫をしています。初めてアプリを触る人でも直感的に全ての機能が使いこなせるようなインターフェースを目指しています」(山口氏)。

ところで、現在はすべての携帯電話キャリアが通信データ量に制限を設けている。毎日のようにカーナビアプリを使う人なら、通信データ量は気になるだろう。だが実際に調べてみると、カーナビアプリや地図アプリは想像するほど大量の通信をしているわけではない。しかし、開発に際してデータ量には葛藤があるという。

デザイナーの立場から言えば「美しい地図」、そして「リッチな表現」を目指したい。それは当然、データの増加を招く。しかし、ユーザーの心理としては、たとえ現状のデータ量がわずかだとしても、増加する方向への変化は望まないだろう。そのため、デザイナーとしてはデータ量を抑えつつ、見栄えのする地図、アプリをデザインしなければならない。

ほかにも、大型化・高精細化するディスプレイへの対応など、アプリ開発におけるデザイナーの役割は、ますます大きくなっている。取材前は裏方、あるいは脇役といったイメージもあったが、それは誤りだ。ユーザーが直接目にし、触る部分を担当していることを考えれば、デザイナーはカーナビアプリの根幹を握るポジションのひとつであることは間違いない。

《山田正昭》

《まとめ・構成 北島友和》

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