【土井正己のMove the World】「フタバ・ウェイ」は真のグローバル化をなし得るか

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マフラ溶接工程
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日本の自動車部品メーカーは、ここ数年試練の時代を迎えている。乗用車の国内生産実績で見ると、2006年には975万台が国内で生産されたが、2015年は785万台とこの10年で約2割の生産が消滅している。これは、この10年間が概して円高の時代だったため、自動車メーカーが、海外にどんどん出て行ったことが大きい。生産が日本から海外にシフトしたわけだ。部品メーカーも海外に出て行ったが、現地で日本と同レベルの品質を確保し、価格面ではローカルの部品メーカーと同レベルでなければ、現地で戦えない。原価低減の努力は日本以上という話は良く聞く。

◆身の丈を超えた海外進出

「トヨタが2000年代に入って海外生産を年間50万台から60万台のレベルで増やして行った時に、当社も米国、チェコ、中国など海外にどんどん工場を増やしていった。正直、少し身の丈を超えていたところもあったように思える。人材の育成が追いつかず、現在においても海外工場が、決して高い収益状況とは言い難い」と愛知県でマフラーなどを生産するフタバ産業の吉貴寛良社長はこのように述べた。フタバ産業は、連結従業員が1万人を超える日本を代表する独立系の自動車部品メーカー。過去に不祥事などもあり、業績は低迷している。吉貴社長は、トヨタ時代には、米国駐在12年の経験もありまさに国際人だ。この6月に同社の副社長から社長に就任した。

◆国内生産頭打ち、海外は厳しい価格競争

日本の自動車部品メーカーは、国内の自動車生産が頭打ち、海外では厳しい価格競争、という過酷な経営環境に多かれ少なかれ置かれている。「世界に出て行ったフタバ産業は、これから本当の正念場を迎える。昨年度は赤字だった。自分の使命は、2020年までに高収益会社にすることだ。トヨタが国内生産300万台を維持すると言ってくれていることは、本当に有難い。これ以上、国内の自動車生産が減ると部品メーカーはやっていけなくなる。こちらサイドに来てみると、言葉の重みが良くわかった」と吉貴社長は述べる。

しかし、国内市場が伸びるわけでもない。海外も厳しい。では、どのようにして、高収益を目指すのであろうか。それを聞いてみた。

「まず、海外の工場においては、工場間でバックヤード機能(間接部門)をできるだけ統一し、そのエリアの統括会社を作ってきている。これで、間接費コストが大幅に削減でき、経営管理の質が高めることができる。それを進める。日本の工場は、マザー工場と位置付ける。日本には、生産技術機能がある。これには、しっかりと磨きかける。R&Dもあるので、お客様ニーズを取り入れた新規開発を強化していく。そして、このマザー工場で鍛えられたノウハウを海外に伝播させていく」と吉貴社長は述べる。

では、どのようにして日本のノウハウを世界に伝播させるのか。
「この会社は、昔は高収益な会社だった。技術力もある。きちっと仕事を細部まで行う文化もある。昨年、そのように感じて、これを“フタバ・ウェイ”として明文化してはどうか、と従業員に話した。みんなの目がきらキラキラとしだした。この会社には、素晴らしい歴史と文化が宿っている。みんなに自信を持って欲しかった。そして、さらに鍛え、“フタバ・ウェイ”として、それを世界に伝えていく。これしかないと思った」と吉貴社長は熱く語ってくれた。

◆「真のグローバル化」とは何か

これが、「真のグローバル化」の始まりであると思う。グローバル化とは、英語が流暢にできることでも、MBAを取ることでもない。自分たちの持つ「匠」に磨きをかけ、自信をもつこと、そして、それを世界に伝える手段を持ち、世界と競争をすることだ。競争は、時として世界の別の「匠」と融合をし、新たな「匠」を生み出す。これがクロスボーダー・イノベーションだ。このイノベーションが出来た時、「真のグローバル化」に到達したと言えるのではないだろうか。

日本の自動車部品産業の生き残りは、決してやさしいものではないが、大きな可能性を感じた。2020年、フタバ産業がこれまでの苦難を乗り越え、「真のグローバ化」をなしえていることを心から期待したい。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形 大学特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年 までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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