【川崎大輔の流通大陸】レクサス、日本のおもてなしでタイ人の心を掴む

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ショールーム入り口
ショールーム入り口 全 8 枚 拡大写真

2017年9月にバンコクのスクムウィットにあるレクサスショールームを訪問、レクサスオートシティ社の総責任者である吉田広宣ゼネラルマネージャーにタイにおけるレクサスについて話を聞いた。

◆ 好調なタイの新車販売

タイ国トヨタ自動車の菅野社長は、7月にバンコクで記者会見を行い、2017年のタイの新車販売台数は83万台で、2016年の76万8788台から8%増加する見通しだと発表した。実際に発表当時の2017年上半期(1~6月)の新車販売台数は全体で40万9980台に達して前年同期比で11.2%増加。7月も前年同月比で7.5%増加している。今年のタイ国内の新車販売は好調だ。各社自動車メーカーによる新モデルの投入や、ファーストカーバイヤープログラム(初めて自動車を購入した人を対象とした税金の還付制度)の買い替え期間終了に伴う買い替え需要、更にタイ経済の景気回復などの影響で、去年と比較して回復傾向にある。

◆ 高級車レクサス、都市から地方へ

好調なタイの新車市場を背景に、レクサスブランドも地方へ攻め始めた。レクサスブランドをタイ国内で販売するディーラーはバンコク市内に2社、合計3つのショールームがある。自動車部品・組み立てメーカーのタイルン・ユニオンカー(1967年創業)が母体のレクサスオートシティ社は、スクムウィットの店舗とバンコク北西部のラムイントラの店舗、2つのショールームを運営。一方のレクサスバンコク社はホェイクワン地区の1つのショールームを運営している。

レクサスオートシティは2005年にオープン、2016年から2ショールーム体制となった。2017年上半期のレクサスブランド全体の販売台数は300台強、そのうち8割がバンコクで販売され都市集中型となっている。今後は地方への拡大を広げていくため、地方でのアフターサービス(レクサスサービスコーナー)を充実させていく方向だ。

地方のトヨタショールームにあるサービスセンターの中に、研修したレクサス用整備スタッフを配置。現在、チェンマイからプーケットなどタイ全体で7箇所存在するレクサスサービスセンターを拡充する。現在、レクサスオートシティ社ではロードショーの機会を増やしている。ロードショーとは、バンコク郊外や地方都市のデパートや大型ショッピングモールで行うレクサス車展示イベントだ。徐々に地方の人々がレクサスに興味を持ってきているようだ。

現在、8つのモデル(CT、IS、ES、RC、GS、NX、RX、LS)で展開されているレクサスブランドも、2018年には10モデルへ拡張してターゲット層を広げる。タイで一番の人気はコンパクトクロスオーバーのNX。NXの人気がレクサスの層の幅を広げた。今年11月にマイナーチェンジも行われる予定で大きな期待がされている。

◆ レクサスの差別化は日本のおもてなし

タイ、レクサスブランドの課題は、メルセデスやBMWなど高級車市場の競合と比べた価格差だ。レクサスはタイで現地生産をしていない。そのため税金が高く、販売価格に上乗せされる。その結果タイ生産のメルセデスやBMWに割安感が生じる。それに対してレクサスブランドは、メイドインジャパンのクオリティ、更にプレミアムブランドとしてこだわる日本流サービスを提供して差別化を図っている。

スクムウィットのショールームは8割がタイ人顧客(2割は日本人含む外国人)だ。「8割のタイ人はバンコク市内にメルセデスやBMWが当たり前に走っている中で、レクサスの希少性と日本流サービスにステイタスを感じてくれている」(吉田氏)。更に「細かいこだわり、気配りなどの日本流のおもてなし。タイ人がこういうところも理解してきてくれている。おもてなしが理解できると、ただ高級、車の性能だけで(購入する)車を選択しない。レクサスのスタッフにはおもてなしトレーニングもしている。」と語る。

スクムウィットのショールームには、お客様の感動の声が店内に掲示されている。ラウンジのドリンクメニューも豊富だが朝食のサービスもある。店内にはマッサージチェア、携帯の充電器を配備。雨が降った時のための折り畳み傘なども用意されている。整備の待ち時間が長いお客様には近隣の高級デパートまでの運転手付き送迎サービスも実施している。リムジンはもちろん最新型のレクサスだ。

またお客様が新車購入と同時に附帯するレクサスエリートクラブは、ゴルフ場を貸し切って開催される年4回のレクサスゴルフカップに参加ができ、各大会の上位者は海外で開催される世界大会に出場することができる。更に映画館を貸し切っての先行上映会やクルージング、高級ホテルの有名シェフによる料理教室などもある。これらすべてのアミューズメントは無料で提供されている。

◆ 当たり前ではない、おもてなしの心

吉田氏は「(タイ人に)ハッと驚くアメージングを体感していただきたい」と語る。スクムウィット19時まで営業をしている。それによって会社帰りに新型モデルの試乗するだけでなく、整備をした車を受け取ることができる。日本では当たり前のサービスとなるが、タイでは通常、新車ディーラーの営業は17時までだ。

確かにタイ人は親日で日本ブランドを尊敬している。厚い信頼、期待によって指名買いがなされることもあろう。しかし顧客に対して心を込めた待遇のおもてなし、こういった精神をタイ人が理解するようになったら、更に強いリピーター顧客になる。そして日本をもっと理解してくれるようになる。

タイは昔の日本がたどったスピードより、はやいスピードで自動車市場の成長を遂げていく。市場が飽和するのも時間の問題だ。しかし、そのときにも売れるものが日本には残っている。おもてなしというサービスだ。日本にいれば当たり前に感じているサービス。日本の企業がアセアンに進出していくときに、もっと誇って良いものだと感じている。タイのレクサスブランドはまさにそのおもてなしの心でタイ人の心を掴み始めている。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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