【ホンダ NSX タイプS】最後で最高のNSXを目指してやり切った…開発責任者 水上聡氏[インタビュー]

ホンダ NSX タイプS と開発責任者の水上聡氏
ホンダ NSX タイプS と開発責任者の水上聡氏全 29 枚

おそらく最後の『NSX』となるだろう現行の2代目NSXに『NSX タイプS(NSX Type S)』が追加された。8月30日の正式発表とともに限定350台の事前予約が始まる。日本の割り当ては30台だが、読者がこの記事を目にするころには完売している可能性もある。

それくらい注目度の高いNSX タイプS。より精悍なフロント、空力面がかなり改善されたリアまわりで、ベースである現行の2代目NSXと印象も大きく変わってみえる。またタイプSはプレミアムスポーツに寄せたといいつつも、スポーツハイブリッドSH-AWDによる総出力は610psとパフォーマンスにもこだわりを見せる。

ホンダがこの車に込めた想いとはどんなものだろうか。NSX タイプSの開発責任者である水上聡氏(ホンダ 完成車開発統括部 車両企画管理部 LPL シニアチーフエンジニア)がインタビューに答えてくれた。

デザインに後付け感を出したくなかった

ホンダ NSX タイプSホンダ NSX タイプS
----:フロントとリアのデザインがかなり変わった印象を受けます。その狙いはなんですか?

水上聡氏(以下、敬称略):タイプSは2代目NSXの開発コンセプトである「New Sports eXperience」をあらゆるシーンで進化・洗練させ、スーパースポーツを全速・全域で体験してもらうことを目指しました。変えたというより進化なのですが、このときこだわったのは、進化した部分が全体フォルムに溶け込む感じ。なんというか、後付け感を出したくなかったということです。

「もともとこの形だったんじゃないか」というくらい全体になじんだフォルムを目指したのですが、デザイナーはよくやってくれたと思っています。

----:限定350台は少ないようにも思えますが。

水上:これが最後のNSXと思うとそうかもしれません。欲しいと思う人すべてに届けられないのは苦渋の決断ですが、生産期間など考えた総合的な結論です。

ホンダ NSX タイプSホンダ NSX タイプS
----:ボディカラーや内装のバリエーションも豊富ですね。

水上:台数は少ないですが、販売する地域性を考えていろいろなニーズに応えたいと思ったからです。アメリカではオレンジの売れ行きがよいとか、日本でよく出る色など、選択肢は絞らないようにしました。内装カラーやワンポイントの赤にもこだわり、ボディカラーとの組み合わせも楽しめます。

----:ボディ、内装色と素材、ホイールなど全組み合わせを考えると、限定350台がどれひとつ同じ組み合わせにならないようにできそうな勢いですね。

水上:オプションも入れると本当にそんな感じもします(笑)。ただ、限定販売でここまでバリエーションを用意できるのはパフォーマンスマニュファクチャリングセンター(PMC)という専用の工場だからです。他の量産車工場ではおそらく対応できなかったでしょう。

スーパースポーツカーとしては600ps以上はほしい

ホンダ NSX タイプSホンダ NSX タイプS
----:パワートレインの出力アップやサスペンション、空力などタイプSはパフォーマンス面の進化が見られます。ここでのこだわりのポイントはなんでしょうか。

水上:パフォーマンスでは、あえて数値的なところにもこだわりました。やはりスーパースポーツカーとしては600ps以上はほしい。V6ツインターボエンジンと電気モーターでシステム出力は610psとしました。

スペックだけ良くてもそれを体感できなければ意味ありませんので、610psの車をどう料理するかも腐心しました。エンジン、9速デュアルクラッチトランスミッション、ツインモーター、アクティブダンパーのきめ細かい制御、空力も含めたトータルで最大限の性能を発揮させたかったからです。

----:制御要素が多いとセッティングのバランスをとるのが大変で、全体のパフォーマンスをあげるのは難しくなる場合もあります。

水上:はい。そのためタイプSの設計では、それらの設定を一度リセットして新しく考えなおすようにしました。このとき柱に据えたのは、パフォーマンスにもっとも近い要素としての駆動力です。あらゆる路面、状況で4輪の働きを最大化させる。それに必要なトルクの出し方、4輪の配分、サスペンションの動き、車体の動きはどうすればいいか。どんな空力特性が必要かをチーム全体で考えました。

ホンダ NSX タイプSホンダ NSX タイプS
パフォーマンスデザインという考え方で、それこそ風洞でデザイナーがいっしょになってスポイラーの形状を考えたり、クレイモデルをその場で調整したり、ドライブトレーンのエンジニアが、普段はあまり考えなくてもよい車の姿勢までを考えたりもしました。

----:そのような取り組みはNSX特有のものですか。

水上:程度の違いはありますが、実はホンダの開発プロジェクトは、みんなそんな感じです。やる気がある人が手を挙げればけっこう応えてくれる会社だと思っています。自分もそういう人を集めました。

新しい時代には新しいNSXがあってもよい

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----:プレゼンでは、SH-AWDの制御でコーナー頂点で「巻き付くようなコーナリング」とおっしゃってました。これはどういう制御ですか。

水上:ひとことでは説明しにくいですが、コーナーで内向きのモーメントをつくるため、コーナリング中のヨーをうまく利用します。4輪の個別のトルク制御に加えダンパーのアクティブ制御によって実現します。もちろんタイヤのグリップや空力も考慮しています。

ミッドシップの場合、コーナーであまり内向きに曲げようとすると簡単にスピンしてしまうのですが、モーター制御を加えることで、常時4輪に最適なトルクをかけることができます。機械式ディファレンシャルやLSDの制御ではトルクの発生にタイムラグが生じたり、トルクゼロのタイヤがでてきたり、ましてや4輪個別のトルク配分はできません。

ホンダ NSX タイプS と開発責任者の水上聡氏ホンダ NSX タイプS と開発責任者の水上聡氏
----:タイプSの開発は終わったわけですが、次にやりたいことはありますか。

水上:私もエンジニアなので、やりたいことはまだまだあります。今回であればインテリアはまだできることはあったかもしれません。しかし、今度のタイプSでは、ひととおりのことをやり切った感覚はあります。

----:電動化の波の中で、EV版のNSXはどうですか? 可能性はありますか。

水上:いままでは、2代目NSXを極めるのが仕事でした。いま申したとおり、現状の最高峰は作れたと思っています。ですが、先のことはまったくわかりません。時代とともに続いているNSXを止めたくはないという気持ちはあります。新しい時代には新しいNSXがあってもよいと思っています。

ホンダ NSX 2020年モデル(手前)と初代NSX タイプSホンダ NSX 2020年モデル(手前)と初代NSX タイプS

《中尾真二》

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