サブスク・EV・異業種参入…車はどうなるのか情報交換[ReVision 次世代ビークルサミット]

城づくりに見る日本企業が得意なすり合わせ。
城づくりに見る日本企業が得意なすり合わせ。全 9 枚

カーボンニュートラルやモビリティ革命など、業界を取り巻く話題は尽きない。どの企業も生き残りや成長を目指してそれぞれの取り組みをしているところだ。メディアは識者や記者の知見や分析を提供するが、現場の声や意見交換は、コロナ禍の影響もありままらならない。

6日から開催された「ReVision次世代ビークルサミット」は、OEM、サプライヤー、ソリューションプロバイダー、ITプラットフォーマーらのエンジニアやマネージャによって構成されるイベントだ。オンライン配信もされるいっぽう、対面でも開催となり、業界関係者100名以上があつまり、専門セミナーとともに、業界内の意見交換、名刺交換が活発に行われた。

変革を体現する業界3氏による基調講演

初日は、国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏、KINTO副社長執行役員の本條聡氏、本田技術研究所の岩田和之氏、ソニーグループ常務の川西泉氏による基調講演と、4名によるパネルディスカッションが行われた。この模様を紹介したい。タイトルは「これからのクルマのあり方と価値を見極める」で、清水氏が選んだ各業界で新しい取り組みを実践する3名が、それぞれの活動や取り組みを紹介した。その後、清水氏をモデレータとしたパネルディスカッションとなった。

最初のセッションは清水氏が担当した。まず「ダイムラーが2015年にCASEという言葉を発表したが、すでに5年以上経過し、CASEも2.0、3.0と考えるべき」と、業界を取り巻く変革が続いていることを示した。続けて「たとえば、日本はさまざまな職人が現場で協調しながら城を作り上げるように『すり合わせ』が得意だが、欧米にはなじまない文化でもある。これは日本の強みでもあるが、現在、それさえ通用しない部分がでている」として、認識のアップデートの重要性を説いた。

この点、今回基調講演に招いたホンダ、ソニーは時代の節目に新しい技術や製品を提示してきた企業であり、トヨタは糸を作る会社から織機を作る会社になり、自動車へと変革を遂げている。と、これからのクルマやその価値観を議論するにふさわしい企業と紹介した。トヨタGRヤリス“モリゾウセレクション”トヨタGRヤリス“モリゾウセレクション”

クルマのサブスクは認知の壁を越えて理解のフェーズに入った

KINTOは、2018年のCESで豊田章男社長が述べた「モビリティカンパニーになる」という言葉を具現したプロジェクトのひとつ。MONETやウーブン・プラネットといったトヨタの新しい事業を担う。住友商事との合弁によって生まれたKINTOは現在300人ほどが在籍し、累計契約数も2万を超えた。任意保険も含んだ定額プランや解約や乗り換えのしやすさにも配慮したプランを用意するなど、クルマを売ることが第一の事業目的ではない企業だ。

本條氏は、「いまでは海外展開も進み、地域によってはサブスクリプション以外のライドシェアも始めている。当初はサブスクリプションを認知してもらうことを優先してCMやイベントを展開していたが、いまは理解してもらうため、オンライン相談、自前のカスタマーセンター整備、ポップアップカウンターなどを強化している。CMもサービス説明から、そもそもクルマがあると楽しい、というメッセージに注力している」と延べた。

その結果、利用者の40%が20~30代で、同じく4割が増車か初めての車両としての利用、さらに60%がウェブ(スマホ)からの申込みというほど、クルマのサブスクリプションが定着してきたとする。CASE、MaaSは業界だけでなく消費者にもマインドの変化をもたらしているということだ。

今後は体験提供、移動目的の創出などさらにKINTOの付加価値を高めていくという。移動先でのクーポン利用、イベント開催、レジャーや旅行の提案などのサービスと、ヤリスの「モリゾウセレクション」にみるように、車両のカスタマイズ・パーソナライズにも取り組んでいる。「モリゾウセレクション」とは、KINTOで契約した車両のECU等の設定をユーザーごとにカスタマイズ可能とするサービスだ。ホンダeホンダe

EVの価値はクルマとしての移動+分散電源

次の登壇者は本田技術研究所の岩田氏。岩田氏は、同社の電動化について、グローバルでの気候変動問題への取り組み、カーボンニュートラルの動きが内燃機関禁止の方向に傾いていることを挙げた。この動きは新興国にもひろがりつつあり、流れは停められない。さらに、カリフォルニアは2024年までにNOXもゼロにすると発表している。NOX規制、ゼロエミッションが徹底されると、水素燃焼やeFuel燃料も使えなくなる。EV・FCV化は避けられないという認識だ。

しかし、もともと内燃機関の研究開発をしていた岩田氏は、EVにも課題が多いとする。主にバッテリーによるものだが、コスト、劣化、コバルト(資源)リスク、系統電源への充電負荷などだ。バッテリーコストについては、ここ数年での進化・コストダウンには目をみはるものがあるが、エネルギー密度で液体燃料に劣るバッテリーは、距離や性能とともに容量を増やさなければならない傾向にある。仮に10円/Whまでコストが下がったとしても80kWhのバッテリー(プレミアムクラスのEV)を搭載したら、バッテリーだけで80万円かかってしまう。岩田氏はバッテリーの価格低下は飽和に近づいていると見ている。

エンジン技術者として岩田氏はまた、電気モーターの効率は96%以上ある。トルクカーブも、バッテリーの容量やインバーター制御によって変わるものの、特性そのものはどの車両も相似形となる。内燃機関は、エネルギー効率が悪く液体燃料のエネルギー密度をかなり無駄にしている。そのため、内燃機関の技術革新は効率改善が原動力であり、さまざまな技術が開発された。しかし、モーターは理想的な動力源ともいえ、そこに技術革新の余地が限られる。例えば、岩田氏は、VTEC(可変点火時期制御)の知見を応用し、モーター版のVTEC(可変トルク制御)を開発したことがあるという。実験、研究としては大きな成果だったが、製品として車両に実装するには、費用対効果が微妙で、ビジネスにはならないと判断した。

バッテリー価格の飽和、モーター効率の良さは、製品としての自動車にメーカーが付加価値をつけにくいことを意味すると岩田氏は指摘する。

「EVの優位性はランニングコスト、ゼロエミッションの他に、電池としての価値、停まっているときの価値に注目する必要がある。走行に何十kWhもバッテリーは必要だが、一般家庭は5kWhもあれば十分で、1日で使い切ることは難しいくらいだ」

系統負荷の問題は、EVバッテリーを家庭や地域の蓄電・分散電源とすることで対策になるかもしれない。災害時やレジリエンスという視点でも、EV電源は有効だ。岩田氏は「避難場所の医療機器の電源として、品質の悪い発電機は使えないことがある。不安定な電源は精密な医療機器の誤作動や故障を引き起こすからだ。また、避難所内部では排気ガスを出す発電機は使えない。とくにコロナ野戦病院のような施設は肺疾患への十分な配慮が必要だ」とも指摘する。

平時でもクリーンで安定した電源のニーズはある。野外の音楽コンサートでも、きれいな直流電源であるバッテリーは、音響機器の理想的な電源だ。実際、プロのミュージシャンがエレキギターの音が明らかに変ると評価しているという。ソニーVISION-SソニーVISION-S

スマホで起きたことがCASEでも起きる

ソニー川西氏は、同社とマグナシュタイアが開発したEV、『VISION S』について、設計コンセプトについて語った。

川西氏の所属する部署はAIロボティクス事業部。アイボやドローン(Airpeak)やADAS技術を開発している。共通するのは自律(Autonomous)制御だ。CES 2020で発表されたVISION Sは、ソニーのセンサー技術やロボティクスがモビリティサービスでどのように活かせるかという実験と提案だ。コンセプトとプロトタイプを発表した2020年と翌年は公道で実際走行可能なまでに仕上げた。

ソニーが車両開発を行おうと思った経緯について、川西氏は次のように語る。

「ソニーはフィーチャーフォン(ガラケー)からスマートフォンに切り替わる時代を当事者としてやってきた。スマートフォンでは通信事業者ではないプラットフォーマー(アップル、グーグル)が市場を牽引した。背景にはハードウェア価格の相対的な低下、ライフスタイルの変化などもあるが、同じような変化がCASEによってもたらされる予感がした。ならばと車両開発のプロジェクトをスタートさせた」

このコンセプトは、安全・安心と感動体験の2つだそうだ。安全・安心は自動車という命を預かる製品への敬意から。感動体験はモビリティにソニーが提供できる象徴的な要素として考えた。意識したのは、(自動車という未知の領域で)「真摯に学ぶ」ことと(ソニーらしさのため)「アプローチを変える」ことだという。

マグナシュタイアとの設計では、EVプラットフォームを作ること、ソフトウェア定義のアーキテクチャを採用することを決めた。「プロトタイプ開発と量産の間には相当な隔たりがあるが、デザインは自分達でやることにこだわり、異業種でもモビリティや車両開発ができることは示せた」とする。

次のステップは5Gをどう生かせるかに取り組んでいる。ボーダフォンとはすでに共同研究を始めているそうだ。パネルディスカッションパネルディスカッション

これからのクルマは異業種連携とデータ活用が要

パネルディスカッションでは、まずKINTO本條氏が参加者に「自動車の役割や定義が変わるこれからのクルマでは、お互いの手を取り合うことが重要になる」とし、ホンダ岩田氏が「たとえばKINTOの車両の移動先で電力供給を行うといったことも考えたり、EVや電動化はとにかく車両単体ではエネルギーもビジネスも完結しない。EVはクルマではなくタイヤがついた電池と考えている。」と応えた。

ソニー川西氏は「ソニーのセンサー技術は、ドライバーや同乗者の状態をセンシングできる。疲れてないか、楽しんでいるか、といったこと付加価値機能に役立てたり、ヘルスケアに役立てたりしたい。自動運転では、クルマの使い方も変わってくるはずだ。ドライバーが運転をしていないとき、クルマが止まっているときも考えなければならない。これはソニーが家電等で培った領域が生かせると思っている」と発言。

話題がデータ利活用による付加価値に移ると、本條氏は「データは、車両データとドライバーやユーザー個人のデータを明確に分ける必要がある。KINTOではコネクテッドカーのデータよりユーザーのデータから、顧客がなにを望んでいるか、どんなサービスを提供できるかに生かしたい。」とした。

川西氏もほぼ同意見で「新しい技術やサービスの過渡期は、メーカー・事業者が責任を持って、車両に紐づくデータと個人に紐づくデータは分離させるべき」との認識を示した。

岩田氏は「バッテリーは利用状況のトラッキングが非常に重要。リサイクル、リユースするには、バッテリーの消耗状態を正しく把握する必要がある。EVレベルのバッテリー容量なら以前ほど充放電の劣化は少ないが、やはり使用条件によって、ばらつきがでる。充放電の詳細ログがあれば、効果的なリユース、エコシステムが作れる。」と、やはりデータの重要性を説いた。

《中尾真二》

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