【特別対談】「地球環境を保存することが地図の未来につながる」インクリメントP杉原博茂社長・小谷真生子氏

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インクリメントP杉原博茂社長・小谷真生子氏による特別対談
インクリメントP杉原博茂社長・小谷真生子氏による特別対談全 8 枚

「MapFan(マップファン)」をはじめカーナビゲーション向けの地図データやソフト開発、高精度地図サービスを手がけるインクリメントPが、2022年1月20日より「ジオテクノロジーズ」という新たな社名に生まれ変わる。SDGsの枠組みの中でESGカンパニーとしてこの先、進むべき方向性、地図サービスが果たすべき役割とヴィジョンとは。

日・米・グローバル経営とIT・デジタルに長年携わってきた杉原博茂 代表取締役社長 CEOが、自動車業界や地図業界にどのようなアプローチを仕掛けていくのか。本企画では杉原氏が様々な業界トップや有識者との対談を繰り広げ、新生ジオテクノロジーズのこれからの姿を明らかにしていく。

今回のお相手は、ビジネスニュースのキャスターとしてITと自動車業界の最前線を取材し続ける小谷真生子氏。革表紙の旧い地図を二人で眺めながら、対談は和やかに始まった。

失敗してもトライしていいんだよ、というカルチャーに触れた

小谷真生子氏(以下敬称略):これはアトラスの旧い地図ですか?

杉原博茂 代表取締役社長 CEO(以下敬称略):80年代、学生時代に使っていた地図です。77年式の中古のポンティアック・グランダムに乗って、貧乏学生だったのでカセットデッキの代わりにラジカセを車内にもち込んで矢沢永吉を流して走っていました。ルイジアナから始まってテネシー、オクラホマからカリフォルニアまで、ほら。

小谷:ルート66。私もアメリカに行った際には運転をするのですが、高速道路の降り口を見逃さないように必死です。昔は車でどこかに行くには道路脇に車をとめて地図と睨めっこでしたね。

杉原:アメリカは降りた先のカウンティ(群)に入って最初のステーションで給油がてら縮尺の違う地図を買う、そんな感じでした。今も行った先々の地図をアーカイブしていますよ。メモや書き込みをした地図や移動ログは、プライベートな愛着の対象になるもの。それをジオテクノロジーズは作れると思うんです。世界の何十億人が好きな道を進んでいける自由闊達さ、そこを大事にしたい。

小谷:杉原社長のお話しぶりやお人柄から想像するに、人格形成で海外と日本の違いを経て、海外の方が自分らしくいられるのではないですか?

杉原:私は中学で柔道部、高校でラグビー部でして、先輩が白といったら黒いものも白となる世界から突然、アメリカに渡ったので、人格が一度メルトしたんです。アメリカで固定概念を捨てて、失敗しても間違ってもトライしていいんだよ、というカルチャーに触れたことは、よかったと思います。

小谷:その後、アメリカで個として成立させねばという焦燥感はありませんでしたか?

杉原:学生時代に学んだことは、簡単な用事でも下手な英語でボソボソやるより、声が大きい方が通ること。ヴァニラ・アイスを注文するのに、日本人の苦手な"V"と"L"があるから、毎回バナナ・フレーバーが出てくる。

小谷:(笑)

杉原:でも大きい声で3回、日本語で「バニラ」といったらちゃんと出てくる。大学のディベートも、いつも中東系が強くてアジア系は萎縮しがち。でも自分は一番になりたくて、会得したコツは中身がなくても大きな声でしゃべる。

小谷:怒った時も、拙い英語で話すより日本語の方がむしろよく通じるそうですよ。

杉原:結局、パッションです。こいつは体当たりで来るなっていうバイブレーションは、向こうにも通じますから。

インクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEOインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO

小谷:最初にアメリカの企業に入られた時はいかがでした?

杉原:シニアバイスプレジデントとして入って、幹部社員が100人ぐらいたんですよ。外資系って細かくこれとこれをやれ、というような具体的な指示はなくて「ここに馴染め」だけなんです。1か月以内に自己紹介を兼ねてミーティングをしました。みんなは私を「誰だ?」という目で見ていたんですが、ハッタリで「おれはヒロだ、ナンバーワンガイだ、よろしく」と。

小谷:(笑)

杉原:逆に「お前は何してるんだ? 教えろ」ってやっていましたね。そうしたらあっという間に名前が知られて。フツーにやるより半年は早く関係ができた。そのうちボスが「おれは何番目なんだ?」って訊いてきて。秘書を介して「58番目ぐらい」と返答しました。

小谷:いざお仕事になって、営業ではBtoBを担当されていたそうですが、その時はどうされていたのですか?

杉原:まず、ドゥ・ユー・ワナ・メイク・マネー?と訊きます。当然相手はイエスで、じゃあ私の提案はこうこうこうです、と結論から入ります。

小谷:ストレートでわかりやすいですね。

杉原:中国で交渉の場にいった時、相手のキーパーソンが歴史問題を出してきて、それを交渉に利用するところがあるんです。「ソーリー、ぼくは過去のことは知らないけど、過去の過ちは謝罪します。話は元に戻してドゥ・ユー・ワナ・メイク・マネー?」と訊いたら全員イエス、と答える。政治の話をされてもテーマがブレるし時間が勿体ないので、共通の話題に戻す実験をするんです。ぼくの経験では、アジアでもアメリカでもみんなイエス。

小谷:強く出るのが当たり前の文化の中で、日本人は控えめになりがちですね。賛同を得られる流れを作ることが大事なのですね。

杉原:そう、何がしたいのかをはっきり聞く。すると共通点が開けます。ぼくがリスペクトする本田宗一郎さん(本田技研工業の創業者)や盛田昭夫さん(ソニー創業者のひとり)もそうですけど、技術に対する思いがあるので、いうべきことがいえたと思うんです。

地球のデータをもっている、ということ

インクリメントP杉原博茂社長・小谷真生子氏による特別対談インクリメントP杉原博茂社長・小谷真生子氏による特別対談

小谷:では単刀直入に。今後、社名を一新して「ジオテクノロジーズ」として、何を提案なさるのですか?

杉原:はい、「インクリメントP」の由来は、プログラミング言語です。事業内容に対して魂のこもった言葉ですよね。90年代半ばにマルチメディアカンパニー、しかもオンデマンドのクラウド・サービスを掲げていた時点で、じつに先進的です。その後はカーナビ事業に集中するようになりました。今後、独立したこの会社が目指すべき方向性とは?

私はいつもDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現していく際に、現状の資産を棚卸しするのですが、驚いたのがインクリメントPには4,200万以上の住所データ、700万kmの道路走行調査データ、どこに店舗や公共サービスがあるかといった情報が、デジタルネイティブの形であった。これはお宝です。それならば、会社の経営を新しいテクノロジーと融合したら、大海に出られるだけの資産と資質があるんじゃないか。これからのデジタル社会において大きく活躍できる。でもコア・コンピテンシーは地図であり、地形そのものに色々な情報を載せたものは英語でいえばジオグラフィ、地理です。ジオグラフィの由来はgeo、これは地球という意味合いが含まれます。

小谷:確かに、そうですね。

杉原:つまりジオと新しい様々な技術を融合し、ジオテクノロジーズと名付け、様々な方々から共感を得られないか。これだけデータをもっているというのは地球のデータをもっているのと同じ。新しい技術で色々な領域で使ってもらい、喜んでいただくことを目標にやっていける。名は体を表すの通り、それが社名変更の大きな理由です。

小谷:これまで脈々と生き続けてきたノウハウを、さらにDXを通じてこれからの時代にアップデートしていく、ということですね。IT企業にこれまで身を置いてこられ、地図事業を行う会社のオファーを受けられたのはなぜですか?

杉原:3つあります。まず日本の企業であること。次に、スタートアップというほど若くはないけど変わりたいという意志のある企業体で、豊かな事業資産をもっていること。40年近く学んできた外資のノウハウを注ぎ込んで、ベスト・プラクティスつまり成功に導けたら、やり甲斐があるな、と。

小谷:自動車業界におけるDXの重要性を、どのようにお考えですか?

杉原:日本の基幹産業ですし、モビリティとして有史以来の流れでも、未来が平和で豊かであるために重要です。例えば音楽業界ではCDがなくなり、その前にカセットテープもなくなり、音楽はオンラインで自動配信ですよね。そうした背景の中で電話がスマートフォンになり、音楽プレーヤーに変わっていった。自動車業界も同じ岐路に立っています。

ただ最終的にはモビリティ、移動が主目的であること、移動によってファン・トゥ・ドライブなのか、あるいは医薬品を運ぶようなクリティカルなものか、それらを達成する方法論やメカニズムが変わっているだけなんです。ICE(内燃機関=エンジン)がなくなって今度は電池とモーターだけで動くようになっても、制御するものはコンピュータ、ITになる。どう、早くトランスフォームできるか。自動車は輸出に依存する以上、スピーディにトライ&エラーを進めなくてはならない。そんな中で、私たちはもっと色々な領域でお手伝いができると思います。

大谷翔平のように、燃焼技術とEVの二刀流で

小谷真生子氏小谷真生子氏

小谷:自動車というハードは、ガソリン車が残りつつもEV、燃料電池車などの選択肢が増えていく。そして、MaaSやCASEへ進む中で、地図サービスはどのようにDX化していきますか?

杉原:地図という言葉が親和性があって分かりやすい単語ですよね。それが何で構成されるかというと、緯度と経度です。「このりんごはどこにある?」というのと同じで、車の位置も地図で表せる。当然、自動運転といった新しい技術が出てくる時に、正確にナビゲートできるかはクリティカルなテクノロジーのひとつ。でも単に自動運転に用いられるだけでなく、その上に載っている様々なデータをいかにタイムリーに提供できるかが、今後のモビリティで重要になります。運転者から出てくるデータをアウトプットとして分析解析して、予測したものを他車もしくは他者に役立てることです。でも予測ですから、5W1Hとよくいいますが、WHEREが無いと情報にならないところがあるんです。

小谷:個の行動を予測し、サービスをどう載せ、それをAIのディープラーニングでどう扱うかが今後のカギを握りますね。これまでに集積されたデータをもとに、“ポイ活”などでさらにデータを増やしていかれるのですか?

杉原:おっしゃる通り。スマートフォンがゲートウェイになります。皆、肌身離さずもっていますから。例えばワクチンを打つ特設会場ができるから、地図を作って下さいとなったら、会場に行く交通手段は何か? タクシーが要るのか? 今から45日後に会場が設営され、ワクチンを打てるのはこちらですということになったら、地図に「ここに行って」と頼めば、着けるようになる。この一連の動きを、スマートフォンとネットワークとデータ、つまり位置情報と地図情報と、ワクチンがいつ打てますというダイナミック・データと、そこにマイナンバーを紐づけると、一度に手続きや決済ができます。大きなパソコンに乗っている感覚ですね。そういう車が今後出てくると、電気がすごく必要になる。すると今度は、ここで充電できますというステーションへの誘導が求められる。うちのステーションならクーポン10%付きますよ、といったサービスもあるかもしれない。

小谷:EVが支配的な潮流なのかどうかはまだわかりません。トヨタのように水素に力を入れているメーカーもいます。脱炭素という新ルールができた中で、EV化だけ進める政策はどうか?というのが、自動車業界の内なる本音だと思うんです。EV生産工程のCO2排出量は実は大きいと聞きます。電気がどこかで水素など別のものにとって代わられたりすることも考えられますよね。

杉原:私もすごく、そこは期待しています。日本の自動車メーカーには、大谷翔平になってもらって、燃焼技術とEVの二刀流で行ってほしい。

小谷:はい。 

杉原:これまで私はIT業界という、ものすごく電気を使う業界にいました。通信システムやサーバーを触ったことのない人がDXの権威としてよくコメントしていますが、24時間365日、システムを動かしてきた側からいえば、40メガワットのデータセンターを作ろうと電気を引くのに、1年半ぐらいかかるんですよ。そう考えると、代案としてEVと別のものがあって然るべきかと。逆に自動車業界のトップとよくお話しされている小谷さんは、どう思われます?

小谷:自動車は日本の産業界を守る基幹産業として他の産業を引っ張る役割を担っています。でも日本の政策は自動車業界を守らない。海外からの脱炭素(カーボンニュートラル)といった主張に引っ張られている感は否めません。

杉原:(主にアメリカの)IT業界の人たちは、大きな政府を嫌がるんです。あまり規制が入るとやりづらいし、政府がダメなら投票で変えちゃうといっていたので、民主主義の国の人たちはさすがと感じました。地図のデータはマス目に切ってあるので、地域別のCO2排出量とか水素ステーションの頒布図とか、分かりやすい見せ方も必要だと思います。

小谷:消費ベースでCO2排出量を表し、可視化できるようにするということですね。

杉原:デファクトになるのにスピードは大事です。そうした実験をウーブンシティ(トヨタを中心に静岡県裾野市に建設する未来型実験都市)のような枠組みでトライされるんでしょうけど、私たちも協力や応援できるところはある気がします。

地球環境を保存することが地図の未来そのものに繋がる

インクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEOインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO

小谷:ダボス会議でもいわれていたのですが、アース、プラネットという感覚は今、共有されやすいですね。杉原さんのおっしゃるジオも、相通じるところがありますね。

杉原:とても共感しますね。プラネットといったグローバルな感覚は、照れくさいのか日本人は奥に隠しがち。SDGsの発想をプリミティブにいえば、我々は地球に生かされていて、これからも続くようにしようよ、という話に尽きます。我々が日本列島で何をしているかといえば、地形や土地を測ってデジタライズして販売しているわけです。生かされている感謝を、サステイナブルに続けて、地球に喜んでもらえるようにしていたら、結果、人間にとっても良くなる。そこを人間は今、本能的に考えています。その中で与えられたジオテクノロジーズのミッションを、どこまで果たせるかというところですね。

小谷:実際、ESG投資が可視化できている企業でなければ、海外からの出資が受けられないといわれます。SDGsは17目標の中に169の項目があります。国連が今、なぜ力を注ぐのかといえば、人間にも社会にも綻びが出始めているからではないでしょうか。企業が好き好きに自然環境を無視して利益を追求すると人類絶滅の危惧があるので、個々に目指すべき目標が必要。つまりESGとSDGsの究極の目標はウェル・ビーイングだと思うのです。それをどのようにして皆に、長期的に子々孫々、永続していけるか、準備しなければならない。皆気づいてはいるけれど、人間は数十年の命ですから、どうも他人事となり後回しにしがち。

杉原:私たちは地図を作っているビジネスなので、自然災害の帰結としてひとつの道がなくなったとしても、それを記すのが仕事。地理が変わったらアップデートの必要が生じるので、地球環境を保存することが未来そのものに繋がります。「Geo-Prediction(ジオ・プリディクション)」といいますが、位置情報、地理情報、どこに何が起こるか。地理的な予測値が作れることを今後は標榜していきます。何が変わる?が命題ですが、移動する人たちのためにナビゲーションに専念してきたところから解き放たれ、より広い視野で技術を拡げ、サービスを提供する。そのためのテクノロジーとデータをもっていますから。

小谷:メタバースのような移動せずとも色々な経験のできる世界がある一方で、ポイ活アプリ“トリマ”のように移動するだけでポイントが貯まり、消費活動に繋げるような、移動経験を通じて消費する世界があります。すべてにおいて、移動のあり方が変わってゆくのですね。

杉原:将来的にはこのエリアに保育所ができる、隣のエリアには商業施設ができる、といった情報から引越しをするなど、生き方もGeo-Predictionによって変えることができることを目指しています。将来子供を持っても大丈夫、働きながら生活することも可能、ということが分かるのはすごいことではないでしょうか。

小谷:とても楽しみですね。地図の存在で自分の生き方を変えていける。移動の概念が変わります。最後に、杉原さんの社長としてのゴールはどこにありますか?

杉原:ゴールというわけではないですが、日本発でこんなサービスができるんだというモメンタムを作りながら、ワクワクするものを提案していきたい。もちろん上場とか、具体的な目標はありますが、そこで得た出資はまた皆さんや地球に喜んでもらう準備に充てたい。そういう循環を作りたい。次の世代の人たち、今若い人たちが成功体験をものにしてくれたら、その次も違ってくると思うんです。それはすごいクールな話だと思いませんか?

小谷:新たなインフラ作りという民間主導の改革ですね。今日はどうもありがとうございました。

杉原:こちらこそ、ありがとうございました。

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《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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