【ドゥカティ ムルティストラーダV4S 500km試乗】じっくり乗って分かった“強さと優しさ”とは…佐川健太郎

ドゥカティ ムルティストラーダV4S
ドゥカティ ムルティストラーダV4S全 49 枚

◆「4つのバイクを1台に」の理想はさらなる高みへ

V型4気筒エンジンを搭載したドゥカティ『ムルティストラーダV4』の衝撃的なデビューから早2年。群雄割拠のアドベンチャー界における実力を今回は長距離ツーリングで確かめてみた。

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初めにプロダクトについて軽くおさらいをしておきたい。2021年にシリーズ第4世代へと進化したムルティストラーダV4は、そのコンセプトで“4 bikes in 1”の性能を全方位的に高めてきた。スポーツ、アーバン、ツーリング、エンデューロという4つの異なるカテゴリーで求められる性能を1台に凝縮するという理想をさらに高いレベルへと引き上げたのだ。

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これを支えるのが新開発の水冷90度V型4気筒1158ccエンジン、通称「V4グランツーリスモ」である。最高出力170psはもちろんシリーズ最強で、バルブ駆動方式も従来のデスモドロミックからスプリング方式に変更することで従来比2倍以上の6万kmのメンテサイクルを実現。

V4エンジンとともにアルミ製モノコックフレームの採用により車体の軽量コンパクト化と重量配分の最適化を進めた。また、フロント19インチホイール化と両持ちスイングアーム、ハイアップマフラーの採用などによりオフロード性能も高められている。

ちなみに世界で最も売れているドゥカティの車両は何かというと、実はムルティストラーダである。2022年は世界で1万台以上のセールスを記録するなど、まさにドゥカティの屋台骨と言っていい。

◆旧い街並みにもモダンな都市にも溶け込む

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旅の始まりは東京・浅草にある浅草寺から。ある日の早朝、『ムルティストラーダV4S』に跨り1泊2日の旅へと出発した。首都高・上野線は見通しの良いロングストレートが続く。風を切っていると、都会のビル街も美しく見えて心が解放されていくのを感じる。

浅草に近づくにつれ、街並みは賑やかさを増していく。V4の印象的なサウンドに引き寄せられるように道行く人々が熱い視線を送ってくる。特に海外からの観光客にウケがいいようだ。あえてゆったりと流しながら、雷門や仲見世通りなど昔ながらの風情漂う景色を楽しんだ。

今回の相棒は、レーダーシステムや電制スカイフックサスなどをフル装備した上級バージョンの「V4S」である。DRL(デイタイムランニングライト)が眩く光る、キリリとした精悍なマスクはまさしくドゥカティ。ディテールに宿るスーパーバイクの血統に心が躍る。

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アドベンチャーモデルで真っ先に気になるのがシート高だが、日本仕様のシート高(810/830mm)はこのジャンルとしては低め。街乗りに適した「アーバン」モードに設定すれば、サスペンションも柔らかく沈み込むのでさらに足着きも良くなる。

車重も243kgとけっして軽くはないが、コンパクトなV4エンジンと最適化された重量バランスにより、グラッとくる感じが緩和されて実際より軽く感じる。

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次に伝統と現代が調和した東京駅周辺へと向かった。高層ビルやショッピングモールが立ち並ぶ一方で、歴史ある建物や公園も点在しており、東京の魅力を余すところなく楽しむことができる場所だ。皇居周辺は緑が多く道路も広々としていて、気持ち良く走れる穴場スポットでもある。

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ムルティストラーダV4Sの洗練されたスタイルは、そんな都会の雰囲気にもすんなり溶け込める。V4エンジンは伝統のLツインより細かくスムーズな鼓動と甲高いサウンドが特徴。クラッチも軽く、歩くような極低速でも粘りがあって安心できる。街中で迷ったときにはUターンをすることもあるが、ハンドル切れ角も十分にあるので扱いやすかった。

◆V4パワーと電制サポートで長距離移動もワープ感覚

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次の目的地は名古屋、高速道路を使って一気に距離を稼ぎたい。そこは正にムルティストラーダの独壇場だ。ライディングモードは「ツーリング」が最適で、パワーはしっかり出してサスペンションの乗り心地にも優れるハイスピードツアラー仕様になる。

風を砕くフロントスクリーンも指一本で簡単に上げ下げできるので走行中でも調整しやすい。V4エンジンは振動も少なくジェントルで、レッドゾーンの半分程度の5000rpmも回しておけば、公道では高速道路を含むどんなシチュエーションでも余裕しゃくしゃくでカバーしてしまう。

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そして高速走行で本領を発揮したのが、最新のレーダーシステムだ。アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)は前走車をほぼ瞬時に補足して、最適な車間距離を保って追走してくれる。セットするのも簡単で、ほぼ自動運転というラクさ。先で渋滞が発生していてもスムーズに車速を落としてくれる。

死角にいる車両を検知してLEDインジケーターで知らせてくれるブラインドスポット検知機能(BSD)も含め、疲労低減には極めて有効かつ実際に安全なシステムである。長距離ツーリングになるほど、その有難みを実感するはずだ。鼻歌交じりにクルーズしていると、ワープしたかのようにあっという間に名古屋に到着していた。

◆伝統的な日本の美に触れワインディングで輝く

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目指すは清須城。NHK大河ドラマの舞台にもなっている戦国時代の名城跡である。名古屋ICから30分ほど走ると夕闇に浮かび上がった優雅な姿が見えてきた。手前に流れる五条川にかかる大手橋は、ライトアップされた城を美しく撮れる映えスポット。真っ赤な欄干はドゥカティレッドを思わせる。

伝統的な日本の美と先進的なムルティストラーダV4Sとの幻想的なコントラストを眺めつつ、清須城の歴史に思いを馳せた。

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ちょっとしたワインディングを見つけてライディングモードを「スポーツ」に変更。アクセルに対するレスポンスが鋭くなりエンジンの瞬発力が増すとともに電子制御サスペンションが作動してリア車高が上がり、減衰力も増して俄然スポーツバイクの乗り味になる。ハンドリングも素直かつドゥカティらしい正確さが光る。

大径19インチならではの豊富な接地感と安心感に包まれながら、狙ったとおりのラインを描くことができる快感。ブレーキも秀逸だ。ブレンボ製の最高級グレード「スティルマ」&コーナリングABSが極めて自然なフィーリングのまま安全かつ意のままに減速してくれた。

◆京都・祇園の心地よい風に吹かれる

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今回の旅で最後に向かったのは日本の美しい古都・京都。特に有名な祇園と嵐山にはぜひ行ってみたかった。混雑した街中から一歩に入るとそこは時代劇に出てくるような別世界。着物姿の舞妓さんが普通に行き交う路地にバイクを停めて、散策しながらその雰囲気を堪能した。

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嵐山は打って変わって賑やかな街。東京の原宿を思わせる若者の街だった。ちょっと喧騒を離れると美しい里山が広がり、日本の伝統的な美を感じることができる。嵐山の名所、渡月橋を渡りながら当たる風が心地よく、渓谷の美しい景色に目を奪われた。ムルティV4で嵐山の竹林を抜け、渓谷沿いの道を走り抜ける贅沢な時間を満喫したのだった。

今回はダートを走る機会はなかったが、以前試乗したときには存分にオフロード性能を満喫できた。というよりも、新型のV4ではとりわけオフロード性能の向上が著しかった。やはりフロント19インチの接地感と安定性に加え、コンパクトなV4エンジンがもたらすマス集中と低重心、そしてスイングアームの延長が効いていた。加えて「エンデューロ」モードと連動したトラクションコントロールが滑りやすい路面でのスライドを適切にコントロールしてくれるおかげで、林道でも安心して積極的な走りを楽しめた記憶がある。

今回ムルティストラーダV4Sにあらためてじっくり乗ってみて感じたのは「圧倒的な強さと繊細な優しさ」。V4パワーでどこまでも突き進む機動力は群を抜いているし、ライドモードに連動して常にライダーをサポートしてくれる電子制御の緻密さは他の追従を許さないレベル。単なる運動性能だけでなく“安全で乗りやすい”ところが実は凄いのだ。まさにアドベンチャー界の雄に相応しい真の実力者と言っていいだろう。

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佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。メーカーやディーラーのアドバイザーも務める。(株)モト・マニアックス代表。「Yahoo!ニュース個人」オーサー。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★★
オススメ度:★★★★★

《佐川健太郎》

佐川健太郎

早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。メーカーやディーラーのアドバイザーも務める。(株)モト・マニアックス代表。「Yahoo!ニュース個人」オーサー。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。

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