【アルピーヌ A110 最終試乗】電動化の波に飲まれ、消えゆく“素のアルピーヌ”を心に刻み込む…中村孝仁

アルピーヌ A110
アルピーヌ A110全 24 枚

年初から惜別シリーズというわけではないが、惜しまれつつ市場から消えていくクルマに乗っている。

【詳細画像】アルピーヌ A110

最初は日産『GT-R』。続いてモデルチェンジが直近に迫ったマツダ『CX-5』。そして今回はブランドの電動化の波にのまれて、惜しまれつつ姿を消すアルピーヌ『A110』である。

試乗車の車両本体価格は960万円。といってもこれを書いたところで意味をなさない。何故ならすでに完売しており、残るのは限定車を含めたごく少数だそうだ。値段に関係なくアルピーヌが新車で欲しいというなら、今すぐディーラーへ赴くことをお勧めする。

◆“素のアルピーヌ”を心に刻み込む

アルピーヌ A110アルピーヌ A110

今回の試乗車は、まさに“素のアルピーヌ”。これまで高性能な「GT」やラグジャリー仕様の「リネージ」などに試乗したが、素のA110は実はこれが初めて。最後になってベーシックモデルに辿り着くのはいかがなものかとも思うけれど、忘れないように心に刻み込むには、これが最良の選択だったようにも思うわけである。

といっても、素のA110は252ps、320Nmのパフォーマンスを持つ1.8リットルターボユニットを搭載するから、かつて乗ったリネージなどと性能的には同じ。現状はかつてのGTと同じ300ps版が、「R70」もしくは「GTS」というグレードに搭載される。もちろん足のチューンやタイヤの太さなども異なっているのだけれど、普段乗りには素のモデルのほうが気も使わないし、何よりも快適だと思う。

快適とは言え、シートは前後にスライドするだけで、バックレストの調整も高さの調整もできないガチの固定式だから、ドライビングポジションにはそれなりに不満が出るかもしれない(カタログではそれができることになっているが、どこを探しても無い)。

ラッキーなことに筆者の場合、ほんの少しだけ高さ方向が低かったけれど、体重分重心が少し下がると思えば我慢の範囲。周囲を注意しなければいけないような場合は、少し体を前にずらして背伸びをすれば問題ない。

◆性能、扱いやすさ、バランス、すべてが日本にジャストフィット

アルピーヌ A110アルピーヌ A110

最後だからと、一週間お借りして都合700km乗り込んでみた。改めて思ったことは、その性能面も取り扱いのし易さも、運動性能的なバランスも、どれをとっても日本市場にジャストフィットではないかということである。

トランスミッションは7速DCT。ルノーのモデルはEDCと呼ばれるが、アルピーヌの場合はDCTとなる。果たしてどこに違いがあるのかは不明で、どちらも7速である。

さすがにつらいのは乗り降り。1250mmしかない全高は、齢70を超えると結構な壁となる。ましてや筆者自身の背が低いから、シートは一番前に出しているので、ドアを全開にする必要がある。それがかなわないケースはシートを一番後ろまで下げて、ドアが隣のクルマに当たらないように気を付けながら降りる。この作業が結構きつい。よく終のクルマとしてスポーツカーを挙げる人がいるけれど、車高が低いと単に乗り降りだけで、それが難しいことに気づくはずである。

まあそんなことはともかくとして、一度乗り込んでしまうとサベルト製のバケットシートは、これもジャストフィット。ブカブカでもきつくもなく、まさにスポッと嵌ったように、固定されてもいないのに動かない。シートベルトを締めると体は嘘のように固定される。

◆下手なセダンよりもよっぽど快適

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センターコンソールの始動ボタンを押すと、背後から一閃バォンという音とともに、アイドリングを始める。一瞬結構な音量だが、それでも閑静な住宅街でも問題なさそうなレベルである。

乗っている間中、よくやった間違いは、普通のクルマの場合、キーをポケットに入れたまま、始動ボタンを押せばエンジンは瞬時にかかるのだが、カード式のキーとなっているアルピーヌは、そのキーをパッセンジャーシート前のダッシュボードに差し込まないと、エンジンがかからない仕組み。それを忘れてポケットからキーを取り出して差し込む作業を乗り込んでから何度やったことか…。

普段街中を流すような状況では、とにかく快適である。スポーツカーあるあるの、シャープな突き上げ感もなければ、常に上下にゆすられるゴツゴツ感も皆無。下手なセダンよりもよっぽど快適である。もちろん、さすがにサスペンションストロークは短いから、大きな凹みに落ちるとどうなるかは定かではない。そんな状況には一度も遭遇しなかった。

◆アルピーヌの決断は正しかったのか

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それにしても、ワインディングロードをこれほど楽しいと思わせるクルマも少ない。変に大きくなくて、なおかつ後ろを除けば意外なほど見晴らしがよいから、エイペックスに向けて自信をもってノーズを切り込めるし、速度域にもよるだろうが、日本の公道で試せるような範囲では、ほとんどロールもしない。

ステアリングにはスポーツモードのボタンがあるが、ノーマルモードでも十分に楽しく、パドルを使ってマニュアルシフトをすれば、まさしくスポーツカーそのもの。そしてモードをスポーツにすると、その蹴り出し感がまるで違う。アクセルワークに対してエンジンというか、トラクションの入り具合がはるかにシャープになるのである。だから、本気で乗っている時以外にこのモードに入れておくと、時々頭をガンと後方に持っていかれることがある。

数少ない難点の一つは、センターに装備されるエアベントが固定式で風向を変えられないこと。そして、仕方がないけれど、やはり物を収納するスペースが少ないことであろう。だがそれに文句をつけるならこの種の車には乗るな、ということである。もしくは最小限の荷物を持って出かけることを心がけることだ。

アルピーヌ A110アルピーヌ A110

もう一つ注意すべきは前後ともに車高が低く、日本の車止めだとリアは当たってしまうから要注意だ。

ガソリン車を締め出すヨーロッパの政策が破綻し始め、BEVへの転換は日を追うごとに遠のいている。アルピーヌの決断が間違った方向ではなかったことを祈るばかりである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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